第二章 16話 無力感
「そういえば皇太子達は?」
「確かに、見かけないな。」
ルイとリアヌを先に送ったはずが2人の姿が見えない。
「まさかとは思うが、兄貴達と一緒にいるんじゃないか?もしそうだとしたら、」
「大分危機的状況ね。早く行かなきゃ。」
最初に来賓室を開けた。
「ここにはいないみたいだな。」
「そうだn」
突然天井に大穴が空き上からリンダとガリントが落ちてきた。
「兄貴!」
「ガリント!」
リンダとガリントはナオミやイザベルほどではないがところどころ出血していた。
「2人とも、すまないね。僕が不甲斐ないばかりに。」
「そんな、そんなことない!何があった、一体何があったんだ!」
「アルス、逃げ、」
天井からまた“誰か”が飛来した。
「誰!」
それは仮面を被っていた。
『僕はエルノ。君たちが革命を起こすという話を聞きつけて参上した。』
「何で沢山の人を傷つけたの。」
『簡単だよ。君たちがこの国を壊そうとするから。僕は“今の”この国が大好きなんだ。この国を壊す人間は、万死に値する。だから殺したんだよ。』
「殺したって、」
穴が空いた天井からまた何か降ってきた。
「これは、自律式魔導人形!」
シャーロズ侯爵本邸に使える自律式魔導人形の残骸が落ちてきたのだ。
『これさ、処理するのに凄い時間かかったんだよねぇ。』
関節部分である球体が外れて核である魔法石は完全に打ち砕かれ、目は生気を失っていた。
『それでとりあえず、そこの4人はさ。さっさと息止めちゃってよ。』
エルノは左手に細剣を顕現させて、構えた。
(この声、聞いたことある。)
『光速連撃斬撃』
地面を素早く蹴り細剣を光の速さで連続して斬撃をとばす技。剣の斬撃攻撃に免疫がないアルスは一瞬で壁にめり込んだ。
「グハ!」
「アルス!」
「ガレット!ここは、危険だ。お前だけでも逃げ、」
次の標的は、ガリントへ移った。
『一等星粉砕』
無数の隕石が発動している術者から相手に降り注ぐ技。一等星の如く輝くものを打ち砕くのはいつでも隕石であることからこの名前がつけられたそう。ガリントは無数の隕石の下敷きになった。
「ガリント!」
「マーガレット。」
「リンダさん!」
「逃げろ。ここは危ない。」
「皆んなが傷ついているのに逃げるわけ、」
「王と王妃が、西の砦へ向かった。そのうち西から、王の援軍が来る。今のうちに、」
『黙れ。』
エルノが腕を払った瞬間リンダが吐血した。
「リンダさん!」
「僕の権能、偽りを見抜く者も、奪われた。先は短い。君だけ、でも、」
ガレットは周りの音が聞こえなくなった。
(アルスは壁にめり込んで動かない。ガリントは隕石の下敷き。リンダさんは吐血。皇太子2人とロイスさんが生きている確証もない。この状況で、逃げるなんて選択はしたくない。戦わなきゃ。)
「リンダさん。私1人で倒します。」
「いくら君でも、」
ガレットは来賓室の奥にアルスとガリントとリンダを転送して結界を張った。
「そこで自身の回復に努めてください。」
エルノとガレットの一騎打ちが始まった。
「エルノ。あなたは大罪を犯した。私があなたに引導を渡す。」
『そうか。やってみせてほしいね。』
ガレットは暗黒羅刹狂乱を放った。
「やった?」
『|暗黒羅刹狂乱《ブラッド・シー・ダンドか。闇系最高峰の御技。敵を闇に引き摺り込み、狂わせ乱れ死させる技か。確かに僕を始末するには良いかもしれないけど、』
エルノは右手を上にあげ、白く輝く霊魂のようなモノを出した。
『練りが甘すぎる。』
霊魂のようなモノはガレットに直撃。ガレットは数10メートル先まで飛んでいった。
「ガレット!」
(あの霊魂みたいな玉、多分光神輝霊魂だ。霊魂のように浮遊し、無害に見えて実態を持つ魔法。ヤンドールさんに昔見せてもらった魔法だ。)
咽せたガレット。
「ガレット!ッチ結界が破れない。」
「アルス。落ち着け。」
「兄貴。この状況で落ち着いてられるかよ!」
「落ち着け。アルス。」
「黙れガリント。」
結界内で喧嘩が始まった。
「城から戻ればこの惨状で、落ち着けだ?冗談じゃねえ!」
「僕はお前がマーガレットを大切に思っているのは知っているさ。でも今は、落ち着くべきだよ。」
「このまま、あいつが傷つくのを黙って見てろって言いたいのか?」
「じゃあ聞くけど、お前。倒せるの?エルノのこと。」
「は?ガリント何言って、」
「エルノを倒せないのであれば今は回復に専念するべきだと思うぜ。俺は。」
少し遠くで戦っているガレットが目に入った。
「何も、できないのかよ。」