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第二章 15話 大怪我

城を出た2人は侯爵家本邸へ向かった。

「そういえばヤンドールさんは?さっきから見かけないけど、」

「アイツなら大丈夫だろ。先を急ぐぞ。」

2人は馬に乗って走っていた。

(民間人が慌ててる。それはそうよね。反乱が起きたんだもの。まぁ私は、死者が出なければ何でもいいんだけどね。)

「城から出てきた御方!」

民間人の1人が馬で走っているアルスに声をかけた。

「どうした。」

「うちの、うちの娘はどうなったのですか?」

「娘?」

アルスに声をかけた民間人は縋り付くような声で言った。

「女官長の、イザベル・ミキシアです!」

「女官達ならシャーロズ家本邸へ転送しました。」

ガレットは言った。

「良かった...」

「ガレット。先を急ごう。」

「分かった。」

2人は本邸へ急いだ。


ガレットとアルスが転送魔法陣で本邸へ向かわない理由は単純明快。城下町の様子を見るためである。転送魔法陣は地上の様子を見られないことから妥当な判断と言えるだろう。

(火は上がってないだけマシか。でも皆んな荷物を纏めて国から出ようとしてる...あまり好ましくない状況ね。)

「アルス。このままだと国から人がいなくなるわ。」

「分かっている。ウチのヤツに頼んで門を閉鎖してもらったから人がいなくなることはない。」

「転送魔法陣で逃げられんじゃ?」

「逃げるのは現王の味方だけだろう。現王に敵意を持つ者であれば今頃侯爵家本邸に向かっている頃だ。」

「何でリンダさんの家に?」

「表面上、反乱の首魁は兄貴。リンダ・シャーロズ侯爵だからな。」

実際の反乱の首魁は学園長であるデメールとヤンドールである。国民に国の中枢となる人間を多く輩出する学園のトップと最高峰の魔法士が反乱の首魁であると知られたら国が機能停止しかねない。アルスもガレットも国が機能停止するまでは望んでいないのだ。

「自分の命欲しさに王派の家臣もリンダさんの家に行ってるんじゃ?」

「それは大丈夫だ。事前に反感を持つヤツは調べがついている。王派の人間は別室にすし詰めだろうよ。」

(リンダさんがやってそうなのすぐ想像できるのは何でだろう。)

そうこうしているうちに侯爵家本邸についた。

「兄貴を呼んでくるから待ってろ。」

「...待って。」

「何だ?」

「血の匂いがする。」

「はぁ?中にいるヤツが殴り合いでも始めたのか?」

公爵家本邸の扉が勢いよく開いた。中から出てきたのは全身から血を流し虚な目をしたナオミだった。

「ナオミさん!」

「ナオミ!」

ナオミの元へ駆けつけ倒れそうな身を受け止めた。

「おい、何があった!」

「私たち、は、騙され、てた。“アイツら”の、陰謀に、巻き込まれていた。」

息絶え絶えに言葉を口にしたナオミ。

「アイツって誰だよ!」

「逃げて。お願い、にげて。」

「ヤンドールさんとリンダさんとガリントは、どこに?」

「中で、アイツと戦っている、わ。私は、何とか、外に、」

「もういい。ナオミは寝てろ。」

「でも、」

アルスは無言でナオミに治癒魔法をかけた。

「寝ろ。」

ナオミはフッと笑い、目を閉じた。アルスはナオミを庭木の下へ移動させた。

「行くぞ。ガレット。」

「分かった。」

本邸の中に入った瞬間目に入ったのは血だらけで呼吸することもままならない人間と、目を開けることができない人間。大怪我をした人間が大量にいた。

「っう、この匂いは、」

鉄が焼けるような匂い。醜悪で鼻を鈍く鋭く刺激する鮮血の匂いだった。

「今聞くことじゃないだろうが、ここに知り合いはいるか?」

あたりを見渡した。

「あ、あの人!」

先ほど城で見た女官長。イザベル・ミキシアだった。

「イザベルさん!イザベルさん!」

重く瞼を開いたイザベル。

「あなたは、さっきの、」

「何があったんですか?!」

「分かり、ません。気づいた時には、こうなっていたんです。私達は、こちらに転送していただいた後、いきなり上から無数の槍が落ちてきたのです。それで、魔法が使えない女官は、全員、倒れました。」

「本邸は侵入者用に槍が落ちてくるシステムはあるが当主の認識化であれば反応しないはず!」

「あれは、防止システムでは、ありません。何者かが意図的に槍を落としたの、です。」

(服は破れてるし、ナオミさんと同じくらい血が出てる。早く処置しなきゃ間に合わない!)

「今は、リンダ侯爵と、あなたに似ている容姿の男の子、が戦っています。」

「兄貴とガリントが足止めしてくれてんのか。」

「はい。はやく、そちらへ、」

脈が薄くなっていった。

「イザベルさん!」

「ッチ、クソ!」

アルスは部屋に範囲結界(ランジバリアス)を張った。

「ガレット。今結界を張った。結界内にいる人間全てを治癒することはできるか?」

「できる。」

「広範囲の治癒魔法、は、負担が、」

「私は、」

右手人差し指を口にあてて微笑み、首を傾けた。

規格外な異端者(トリックスター)なんですよ。”

その言葉を発した頃には空気は澄み、治癒魔法を展開し終えていた。

「もう心配いりません。疲れたでしょうから寝てください。」

イザベルは安心して目を閉じて眠った。

「アルス。」

「あぁ。行こう。」

この惨状を生み出した人間の元へ。

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