第二章 12話 皇太子兄弟
暗くジメジメして時には雫が落ちる音が聞こえる通路を降り、隠し部屋の前についた。
「ここだ。」
扉をロイスが開けた。
「ロイス?」
中から幼い子供の声がした。10歳くらいだろうか。
「そちらの方は、どなたですか?」
「私は、マーガレット・w・スカーバ。右から私の弟のガリント、幼馴染のアルス・シャーロズ。アルスの従姉妹のナオミ・ジェッタです。あなたは?」
「僕の名前はルイ。ルイ・エアリオス、です。」
梔子色の短髪に千歳緑の目を持つ少年がこの国の皇太子だ。
「ロイス。お前が“人を連れてきた”ということは、捕虜になったということだな。」
「はい。そうでございます。」
「そうか。」
「殿下。両陛下はどちらに?」
「僕とリアヌを置いて、この隠し部屋を抜けた。転送魔法で。」
「転送魔法は使えないはずでは?」
ロイスとガレット達が対峙した部屋は転送魔法が使えない仕組みになっていた。
「魔法で抜け道を作ってそこから出られた。」
「殿下はお逃げにならなかったのですか?」
「リアヌを連れているから無理だった。父上は僕に世話を任せていたから。」
(まだ10歳の子供にそれより年下の子供の面倒を見させるなんて、どこまで奔放な人間なんだ。この国の王は。)
ガレットは内心王に怒り心頭に発していた。
「お願いです。僕の命は差し出します。ですかやリアヌだけは助けてください。リアヌだけは助けてやってください。」
(こんな小さい子供にここまでさせるとは、この国の王と王妃はそこまで終わった人間ということか。イラつく。あまりにも無責任極まりない。)
ガリントもガレットと同じく怒り心頭に発した。
「この国の状態は知っていました。でも、僕は何もできなかった。10歳というのは言い訳に過ぎません。」
ルイは震えていた。
「お願いします。リアヌの命だけはどうか、お救いください。」
ガレット達を前に土下座をしたルイ。
「どうする?ガレット。」
静寂な時間が流れた。この場の判断はガレット委ねられていたのだ。
「ルイ殿下。一つ、取引をしましょう。」
「取引?」
「はい。一つはルイ殿下とリアヌ殿下を生かす代わりに両陛下を牢獄に入れる。もう一つは両陛下は地位を剥奪し追放。ルイ殿下とリアヌ殿下は革命後のこの国の重鎮となる。どちらを選んでもお二方の安全は保証されますし良いと思いますよ?」
(取引になってない気がするが気のせいか?)
アルスの考える通り、これは取引としての効果は持っていないように思われる。だがガレットにとっては最高の取引なのだ。国を根本的に変える事ができるという“こちら側の願い”とリアヌを生かすという“あちら側の願い”どちらも含んでいる。
「一つ聞きたいのですが、僕とリアヌの王位継承権はなくなるということですか?」
「はい。なくなります。その代わりに後者は重鎮となるという条件があります。」
「王の地位は、いりません。僕が望むのは、リアヌの命だけです。」
「では、どちら選びますか?」
この選択肢は子に親の処遇を任せるという惨たらしいモノである。
「僕は今、父上と母上の命を握っているということか。」
(ルイのこの判断で、王と王妃がどのような態度を普段とっていたか分かる。)
「後者をとります。父上と母上にはそれなりの恩がありますし、この国の重鎮となれるのであれば役に立てる。国民に謝罪の意を見せられる良い機会です。」
「ならば良し。ガリントとナオミさんとロイスさんでリンダさんの家にお二人を連れていってください。」
「俺は?」
「アルスは私と一緒に来て欲しい。」
一同は隠し部屋を出て一旦解散した。
「ガレット。どこに行くんだ?」
「実は、行きたい場所があるの。」
ガレットは口を開かずに廊下を進んでいった。
(どこに連れて行くつもりなんだ?)
「ここだよ。」
着いたのは、
「図書館?」
「そう。図書館。」
「なんで図書館なんかに連れてきたんだ?」
「ここならwの一族についての文献があるかもしれないからね。王家の図書館なワケだから。」
「何で急にwなんか調べるんだよ。後でも良いだろ?」
「影武者の真実を知りに旅をしていた時、ある本を読んだの。そこにはこう記してあった。」
“影の裏には最強あり”
「この言葉が表すのは多分、影武者の集落で起こったことの裏には史上最強の一族。wが関連してるということ。聖なる選別が王家の嫉妬などによる事が起因したと表上ではそうなっているのかもしれない。でも、裏で操作しているのは多分wの方。つまり、王家を操る人間がいるとしたら、」
「おい待て。お前まさか王家が他の人間に支配されているって考えているのか?」
「ええ。ルイ殿下のあの反応、年相応には見えない。例え皇太子といえどあそこまで畏まらない。となれば、誰かに操られている可能性があるのよ。」
「確かにあの反応はおかしかったが...」
「とにかく参考になる文献を探そう。」
「...分かった。」