第二章 11話 捕虜
防壁の中にいたアルスは考えていた。
(おかしい。何かがおかしい。何だこの雰囲気は。今は戦場、しかも革命。大分緩んでないか?この最上階に近い中階層で団長1人は馬鹿げてるだろう!向こうは俺たちを下に見ているのか?)
「地の精霊よ。我に力を与えたまえ。地の精霊剣。」
ロイスは新たに技を繰り出した。
(地の精霊剣。その名の通り地の精霊の力を用いる技。破壊力が凄まじいとか聞いたことあるな。)
「古来より出し朱雀よ。相手を焼き払え。朱雀之大翼!」
ガレットの背後から朱雀が出現。ロイスを包んだ。
「見事な火力だ。だが、」
剣を一振り。ガレットの技は弾かれた。
「まだ少し、あまいようだな。」
(流石聖なる騎士団のトップ。今まで対峙してきた奴らとは比にならない。少し、本気を出すか。)
「そうね。私も少し、本気を出させてもらうわ。」
「笑止。今までは全力でなかったとは。来い。マーガレット・w・スカーバ。その本気。この剣で受け止めてやろう。」
深呼吸をして目をゆっくり開いたガレット。
(雰囲気が変わった?先程までの緩んだ空気とは打って変わった真剣な表情。向こうも少し“焦っている”ということか。焦ってきているということは手札が減ってきたということになるな。)
「さっきあなたは読心術が使えるって言ってたわね。」
「あぁ。それが何か?」
「私も少しくらいなら読心術を使えるんですよ。」
「ほう。」
「今のあなたの役割は時間稼ぎ。ここで私と対峙することによって王族が逃げる時間を稼ぐためなんでしょう。」
(これは憶測に過ぎないけど、本当に時間稼ぎだとしたら早めに対処しなきゃね。)
「天晴。さすがと言っておこう。」
(いやはやバレていたか。まぁ、上の人間が逃げる暇を下の人間が作るのは分かりきったことか。)
「じゃあ聡明な貴殿に一つ聞こう。王族は今、どこにいると思う?」
「私に聞くんですか?聖なる騎士団の団長ともあろう人が敵に対して味方の位置を聞くとはどういう心つもりなのやら。」
「別に良いだろう。聖なる騎士団の団長だから革命に反対するというワケではないのでな。」
「もう腐敗してるじゃないですか。」
「腐敗しているさ。確かに我々は国が滅ぶことは望んでない。だがあくまでも建前。立場上国が滅ぶことを望んでいない。皆内心には滅べとでも思ってるんだろうさ。かくいう俺もその1人だからな。」
「そうですか。もしあなたが私たちと違う考えを持っているなら殺そうかと思っていましたが、気が変わりました。ロイス・k・カルディア。あなたは捕虜にします。」
ガレットは防壁を解除した。
「抵抗する理由もない。可愛い妹弟子の頼み。聞き入れよう。」
(おかしい。こうもあっさり聖なる騎士団の団長が寝返るなんて信じられない。ヤンドールが事前に根回しをしたとしか思えない。だとしたらヤンドールは一体どこまで先を見通しているんだ?)
アルスが考えたことは全てあっていた。事前にヤンドールはロイスへ通達をして革命の意を示し、こちら側へ引き入れていたのだ。だがロイスの立場上事前に寝返ったら首が飛びかねない。だから捕虜になることを選んだのだった。
(王と王妃にこの事が知られたら面倒だからな。恐らくこの革命は成功して国は滅びる。そんな事前から分かりきっていた。国が潰れることを良しと考える人間を幹部に置く時点で滅びることは確定しているようなものだし。確定している事象に反対と言っても首が飛ぶだけだ。なら素直に従った方が身のためというものよ。)
「で、王と王妃達は今どこに?」
「そこの暖炉の上にある本を押すと隠し扉が開く仕掛けになっている。隠し扉が開いたら階段を降りて古い木の扉を開ける。あの方々はそこに待機している。」
「そこから裏口に繋がっているとかありませんよね?」
「ない。あの部屋はあくまでただの隠し部屋。秘密基地のような部屋だ。特に意味はない。」
(お仕置き部屋みたいなものなのかな。いやかくれんぼ用か?まぁどうでもいっか。)
ガレットは暖炉の仕掛けを解いた。そして隠し扉が開いた。
「魔法に頼らない手動の技術か。珍しい。」
一行はロイスを先頭に階段を降りていった。