第一章 3話 ヤンドールさんと学園長
ヤンドールさんまで村のこと聞いてくるなんて。何でだろうな。
「ガレット。さっきのやつに何か変なこと聞かれてないか?」
「え、うん。」
「講義中全然集中してなかったみたいだから変なこと聞かれたのかと思ったわ。」
「あ〜まぁ確かにね。」
講義中は全然話が頭の中に入ってこなかった。
「留年でもされたら困るからな。」
「侯爵家の名に傷が付くから?」
「まぁな。」
侯爵家のレベルとなると周りの家からいい意味でヤバい家って思われてるから名前に傷が付くのは嫌なんだろうな。
「まぁ留年はしないよ。というか私学園卒業したらあの家出るし。」
「え、それ本当か?」
「あなたからしても結構良いことなんじゃない?何せ家の評判を落としそうな奴が家からいなくなるんだから。」
「そう、だが、」
「まさか、寂しいの?」
ガレットはアルスの顔を覗き込んだ。
「寂しくなんてない。そんなに顔を除くな。」
アルスはガレットの顔を掴んで離した。
「痛いよアルス。」
その頃ヤンドールは学園長室にいた。
「何の用だ。僕はただ愛しの仔に会いに来ただけなのだが。」
「いやはや、“あの”天下の魔法士ヤンドール・スキンズが学園に来たとあらばこの部屋に通さねばと思いましてね。」
荘厳な二つの椅子に学園長とヤンドールは向かい合って座っていた。
「変に畏まった人間は苦手でしてね。早く話は済ませていただきませんか?」
「そんなに警戒しなくても良いのに。」
相変わらず胡散臭いな。聖なんたらの人間は。
「それで、何故急にうちに来たのですか?何の便りも無しに。」
「だからガレットに会いに来ただけど最初に言ったでだろう?話聞いてたか?」
「聞いていますよ。ただ会いに来ただけでここに来るはずはないと思っていますからね。」
(本当に人の神経を逆撫でするのが得意だな。コイツ)
「はぁ。全く。お前は人の神経を逆撫でするな。」
「“諸々”のよしみじゃないですか。教えてくれても良いでしょう?」
「諸々のよしみなんぞ知らん。帰る。」
ヤンドールは椅子から立ち扉のドアノブを握った。
「リンズ君の話。あの子は何か抱えているのでしょうね。見たら分かります。我々では辿り着かない、深いモノがね。」
振り返りぎろりと睨んだ。
「お前が何を知っているというのだ。」
「こちらは大体把握しています。リンズの過去にいた村のことも。」
次にヤンドールは学園長に近づき胸ぐらを掴んだ。
「良いか?絶対そのことはあの子に言うなよ?もし言ったら、その時は核魔法落とすからな?」
「分かっていますよ。言ったら多分、リンズ君はこの国を滅ぼすでしょうし。」
「私は絶対この国の上部の人間を許さない。絶対に。だから魔法士になったんだ。」
「知っています。私も、実際この国のことはあまり好きではありません。腐った人が上にいるのは承知しています。ですが一人で全て変えられるなんてできない。だから私は後にこの国を変えられる人間を育てているんですよ。」
ヤンドールは手を離した。
「分かっている。それくらい。だがどれだけ人がいても、前には必ず先導する人間が必要だ。」
「アナタの役割の一つ、ですね。」
「ああ。お前は胡散臭いからあまり好きではないが信頼はしている。後進の育ては、頼んだぞ。」
「ええ。」
ヤンドールは学園長室を出た。
「ヤンドールも頑固なのは変わってませんね。」
陽光が差し込む窓を細めで眺めた。
「ガレット君。楽しみにしていますよ。」
その後ガレットとアルスは家に帰っていった。
「ヤンドールさん、久しぶりに会えたのに...。」
庭に一人立つガレット。
(懐かしい気分がちょっと、台無しかな。)
池を静かに眺めていた。
「確かに十年経ったけど、まだ十年しか経ってない。私は、絶対この国を変える。そして必ず仇を討つ。」
そのためなら、命だって。
「くれてやる。」