第二章 5話 ガリント過去編2
「これが、俺が孤城に連れていかれた経緯だ。どちらにせよ、母さんが俺たちを思って離したってことは事実だな。」
「その、誰が離したのか分からないの?」
「分からない。そこまで調べられなかったからな。で、俺はその孤城でジィさんに会ったんだ。」
孤城のドアが叩かれた。
「何じゃ。」
「子供を、預かってほしい。」
「預かる?」
“誰か”が老人に赤子が入ったバスケットを渡した。
「って赤子じゃないか。見るからに生まれたての。」
「迎えに来るものが現れるまで、ここで預かってほしい。」
「お前が迎えにこないのか?」
「迎えに来れるか分からない。必ず迎えに来るものが現れるから、頼む。」
「仕方がないなのぉ。旧友の頼みだ。」
「ありがとう。」
“誰か”はその場から去った。
「まったく、困ったものだな。」
そこからガリントの孤城での暮らしが始まった。
「名前は、お、布に書いてあるな。何々、“ガリント”?良い名前じゃないか。きっと親御さんにつけてもらったんだろう。ガリント。今日からここが、君の家だ。」
「ジィちゃん!」
「ジィちゃんとはなんじゃ。ワシのことはお爺ちゃんと呼ぶんじゃ。」
「ジィちゃんはジィちゃんだ!」
「まったく。困ったものじゃなぁ。」
孤城で老人と幼いガリントは遊んでいた。
「鳥だよ!ジィちゃん!」
「あれは黒銀鷲という鳥じゃ。よく王宮勤めの魔獣使いが使役している。野生の黒銀鷲は初めて見たのぉ。縁起がいい。」
「黒銀鷲かぁ、カッコいい!あんな風に僕も飛べるようになるかな?」
「お爺ちゃんの言うことを聞けば飛べるようになる。」
「ぜったい?」
「あぁ、絶対。」
幼いガリントにとって老人と暮らした時間は何にも変えられない、幸せな時間だった。
「僕が飛べれるようになったらジィちゃんも連れて行ってあげるよ!」
「お、それはありがたいのぉ。」
ワシャワシャとガリントの頭を撫でた。
「じゃあ今日は剣術の訓練をしてくれよジィちゃん!」
「かかってこい。ガリント。着いて来れたら今日の晩御飯は七面鳥の丸焼きじゃ。」
「やったぁ!!!」
大きな孤城に2人。他に自立魔導式人形が数体の少数で生活していた。自立魔導式人形は感情を持つのでにぎやかに過ごすことができた。
数年後ガリントは10歳になった。
「クソジィ!お前なんか嫌いだ!」
「拾ってくれた人間に対してクソジィとは何じゃガリント。」
「もう出ていく!」
ガリントは孤城を出た。
「待ちなさ、ったく、これじゃまた“アイツ”と同じじゃないか。自立魔導式人形に追わせるか。」
ガリントは走ってとうとうスラム街に着いた。
「何で、何で分からねぇんだよ。クソ!」
周りは陰鬱とした暗い場所だった。
「っていうかここどこだ?遠くまで来ちまったな。」
「どこ見てんだガキ!」
「うぁ、すみませ、」
「つぅか、随分と小綺麗な服だなぁ。売ったら金になるんじゃね?」
「確かに。じゃあ、」
ガラの悪い若者がガリントの腕を掴んだ。
「おい、離せよ!汚いな!」
「随分と口が達者なガキだなァ。」
一際大きい男が奥から出てきた。
「邪魔だ!」
ガレントは男たちに向かって手を翳した。
「何だァ?」
「汝の命を刈り取れ。死神の大鎌!」
その瞬間目の前にいた男たちが首から赤い花を咲かせて、倒れた。唯一倒れなかったのは奥から出てきた大きい男だけ。
「こりゃあたまげた。ここまでの上玉なら高値がつく。」
髪を掻き上げて不敵に笑った大きい男。
「生意気な野郎かと思ってたが、貴族連中に売っ払えばいけ、」
大男は胸に違和感を感じた。
「は?」
誰かの手が自分を貫通していたのだ。
「ジジィ!」
誰かが手を引き抜き、大きい男は倒れた。無論、叫ぶ口もない。
「ガリント!」
老人はガレントを抱擁した。
「よかった、無事だったんじゃな?本当に良かった。」
「ジィちゃん、俺、」
「念の為自立魔導式人形に追わせていたのじゃ。生きていて良かった。さ、帰るぞ。」
「うん!」
(ジィちゃん、凄いな...あの大きい男を手刀だなんて。多分僕は、ジィちゃんには勝てないなぁ。)
魔力を持たないのに人を貫く力がある老人に驚いたガリントだった。