第ニ章 4話 ガリント過去編 1
侯爵家別邸にて
ガレットとガリントは紅茶を飲んでいた。
「マーガレット。」
「何?ガリント。」
「マーガレットはさ、この国を変えることができたら、何がしたい?」
「何急に。」
「気になるんだよ。自分が生まれた国を変えるんだ。何かやりたいことでもないと革命に参加なんかしないだろうし。」
「やりたいこと、か。考えたことないな。今まで村の人たちの敵討ちにしか興味がなかったから。」
「俺は、やりたいことあるぞ?」
「何?」
「楽しく暮らすこと。マーガレットと楽しく暮らすことだ。今までリリスがいたとはいえ、召使いだからそういった感情がない。ちゃんと血の繋がりを持った人間と暮らしたいんだ。」
孤城で約7年“独り”で生きてきたガリントにとってマーガレットは唯一の残された家族。かけがえのない大切な人間なのだ。
「マキロのことは、申し訳ないって思ってる。謝って済むことじゃないのは分かってる。本当にごめん。」
深々と謝罪をした。
「ガリント。マキロさんがいなくなったのは私が強くなかったからだよ。」
「違う。マーガレットは強い。誰よりも強いんだ。」
「私は、誰かが側にいないと戦えない。支えてもらわないと戦えない。強者は周りに人がいなくても自分の力だけで戦い抜く力を持つと思う。マキロさんがいなくなったり、ナオミさんが怪我をしたり、ヤンドールさんが天井に磔になったり。私が未熟だったからこんなことになったんだよ。」
「それは違う。マーガレット。真の強者は魔法が得意とか、体術が得意とかそういう特技が本質的にない。強者を強者たらしめるのは、当人の精神力にある。どんな困難にも立ち向かい、仮に折れたり傷ついたりしても治して立ち上がる。魔法ができて体術ができても性格がクソだったら強者だなんて言われないだろ?そういうことなんだよ。何か他人のことを思って行動しようとする人間をは皆んな強者だと、少なくとも俺は思うね。」
「ガリント...ありがとう。」
「全然?この言葉は昔色々世話になったジイさんに教わった。」
「おジイ、さん?」
「変わった人だったよ。俺が初めて負けた魔法が使えない人間。」
「魔法が、使えない人間?」
「あぁ。魔法が使えない人間なんてそうそうこの世界にはいない。でもあのジイさんは俺に勝ったんだ。魔法を使わずに。」
魔法を使わない人間いれど、魔法を“使えない”人間は数が少ない。
「まぁ、そのジイさんはもういないがな。ほんっとうに、すごいジイさんだったよ。」
「ねぇガリントさえ良ければさ、孤城にいた時の話聞かせてくれない?」
「別にいうほどの話はねえけど?」
「私たちが離されてから、ガリントがどんな生活をしていたか気になるの。教えて?」
「...はぁ、もう分かったよ。教える。そうだな、まずは孤城に捨てられた日だな。」
「ガリントって、聖なる選別の時、どこにいたの?」
「俺は、産まれてすぐ孤城に連れていかれたぞ?」
「え、嘘でしょ?!一体誰が、」
「分からない。とりあえず、誰かがあの孤城に俺を置いて行ったことしか覚えてない。」
「誰が、そんなこと。」
「話を続けるが良いか?」
「良いよ。」
「じゃあ、言う。俺が今まで、どのように生きてきたか。」
二十数年前 影武者の一族の村で双子が生まれた。片方は女で、もう片方は男だった。月白の上に紅掛の目をした子供は周囲の人間を驚かせた。影武者の一族が王族から煙たがれる原因を作った赤子と同じ特徴をしていたのだ。
「アーレット様。双子は危険です。里子に出すべきです。」
助産師は告げた。
「でも、2人は一緒に生まれたのよ?一緒に育てたい。」
「いけません。双子の存在がバレたら、この双子ごと王家に葬られてしまいます。お二人のことを考えるなら、早くご決断を。」
「でも...」
「アーレット。」
“誰か”がアーレットに問うた。
「どちらかを、俺に預けてくれないか?」
「でも、あなたに迷惑は、」
「俺を信じろ。アーレット。俺が信頼できる人間の元で育ててもらうから。」
「信じて良いんですか?」
「ああ。信じろ。」
アーレットは片割れを“誰か”に託した。