第一章 18話 磔
目線の先には天井に磔にされているヤンドールだった。
「ヤンドールさん!」
「フフ。いい気味ねぇ。」
項垂れている彼。
「ヤンドールさん...待っててください。今すぐに、」
「私には、隠し事をしていた人間を救いたいって思うあなたの頭が理解できないわ!」
かくし、ごと?
「その2人も、天井のヤツも、さっきの隻眼も、あなたに隠し事してるの、まだ分からないの?」
「ガレットちゃん!」
「あなたが、何を知ってるの?」
この人達が、私にかくしごと?
「ぜ〜んぶ知ってるわ。あなたの過去も、真実も。コイツらが隠してることも全部!」
過去はいいとして、真実?
「リリス!」
「あなたは全部知ったら死にたいくらい生まれたことを後悔するわよ。」
「え?何言って、」
すると突然リリスが棘のようなものに刺され、倒れた。
「フフ、絶望、すれば良いわ。」
既にガレットの顔は真っ青になっていた。
「その、絶望した顔。ふふふ。こっけいね。」
リリスは生き絶えた。
すると磔の留め具が外れたのか天井からヤンドールが落ちてきて、学園長が受け止めた。
「ヤンドールさん!」
「安心しろ。生きている。」
だが体はボロボロだ。俗に言う瀕死状態である。
「ヤンドールさん...私のせいで...」
「心配はしなくて良い。ヤンドールはこれしき、」
「さっき、リリスが言っていたことは、どう言うことですか?隠していたことって、なんですか?真実って何ですか?」
ずっと気になっていた。皆んな何か“隠している”から。
「それは...」
「そこまで関わりがないウェズに、ナオミさん。学園長。何でそんなに私に関わるんですか?何か理由があるんですか?」
「それは、」
「私、隠し事大嫌いなんです。自分が、1人になった感じがして。」
「ガレットちゃん...」
私って本当は疑心暗鬼なんですよ。
「人が何を言っても、信じられない。特に、“大人”は。」
「何で?」
「村が襲撃にあった少し前、私は父さんとかくれんぼをしていたんです。襲撃者が来た時、父さんは私を屋根裏に隠した。理由を聞いたら、かくれんぼに追加で参加する人がいて絶対に見つかってほしくないから。そう言われました。私は父さんが声をかけるまでずっと待ってました。でも、父さんは私に声をかけなかった。」
だから私は大人が言うことは信じられません。
「また裏切られるかもしれないから。目の前でまた、父さんと同じように死んでしまうかもしれないから。」
「ガレット君...」
「私は、自分のせいで他人が傷つくのが嫌です。今日だって、ウェズはいなくなりましたし、ナオミさんは怪我をした。そしてヤンドールさんはまず誘拐された。それはもう傷ついているのと同じです。」
淡々と言った。
「私はもう、あなた達を信じられません。これから、私は独りで、生きていきます。」
ガレットは3人に背中を向けた。
「短い間でしたが、ありがとうございました。」
「...デール。いえ、デメール。これからどうするつもり?」
「どうするも...」
困った状況になってしまった。
「ん...あ、2人とも。」
ヤンドールが起きた。
「あれ、ガレットは?さっき、ここに...」
「すまないが気づかれてしまった。」
「何に?」
「我々が隠し事をしているの事。」
「は?マジかぁ。で、ガレットは今どこに?」
ナオミは項垂れた。
「どうかした?」
「ガレットちゃん、多分どこかに行っちゃった。」
「は?(((2回目」
「私達が何も言わなすぎて、どこかに。」
「何も言わなすぎてって...」
「言った方がよかったのかな。」
「いや、言ったところであの子の心は壊れるだろう。それこそ避けたい。」
「ですが、言わないのもガレット君の為にならない。いずれ、いつか知らなければならないのだから。」
城を出た。外は雨だった。
「雨、か。」
今はなぜだか雨に打たれたい気分だった。
(流されれば良いなあ。)
上を向いた。
「皆んな隠し事をするんだ。何でだろう、ねぇ。」
涙が出てきた。過去に父に“嘘”をつかれ、死んだ。それが引き金となり、人に嘘をつかれるのがダメになってしまった。
「私に、嘘をつかない人、いるのかなぁ。」
少し自嘲気味に笑った。
(あぁ。嫌だなぁ。)
するとだんだん雨脚が強くなっていった。
(もっと降っちゃえ。何も分からなくなるくらい。)
全て、雨に流されれば良い。そう思った。
『風邪ひくぞ。』
それは聞き慣れた声だった。幻聴かな。すると視界が少し暗くなった。傘らしい。
「傘?」
ガレットは隣を見た。
「アルス?!」