第一章 12話 共謀者
ヤンドールが怒鳴った。
「お前は何故分からない。ガレットの命が狙われていることが何故分からない!」
「狙われていることはアレを見ればわかる!」
「我々だってな、ガレットの事守りたいさ。でも、できない。」
「何で!」
ヤンドールは机を叩いた。勢いが良すぎて机が粉砕した。
「我々には、できないんだ。ガレットを守るには、君しかいない。君は、ガレットと同じクラスだろう。同じクラスなら、ずっと側にいる事ができるだろう?」
「ようは、俺が、ガレットから離れなければ良いのか?」
「ああ。」
ヤンドールは頷いた。
「怒鳴ったしまってすまない。もう行ってもらっていい。」
アルスはガレットの腕を掴んで立ち扉へ歩いた。
(すまない。守り人の家系よ。)
そう聞こえたのは気のせいだろうか。
「珍しく怒っていたようだね。ヤンドール。」
ヤンドールは前髪を後ろに掻き上げた。
「ああ。やってしまった。机は、必要経費という事で。」
「学園長。ガレット・w・リンズの正体は、一体何なんですか?」
真実を知るのは学園長とヤンドール・スキンズだけなのだ。
「君たちには、教えておこう。」
いずれ、我々に協力してもらいたいからな。
「協力?」
「何のことなんですか?」
防音・盗聴防止魔法を張った。
(聞かれたら困ること?魔法を張ってまで?)
ナオミは不自然に思った。
「今から話すよ。あの子の真実を。」
口を開いたのはヤンドール。
「あの子の村が、聖なる選別にあったという話はもう知っているだろう?」
「え、ええ。」
「聖なる選別の対象になるなら、王家にとって邪魔なものでなければならない。」
それは誰もが知ることだろう。
「ガレットちゃんの、昔いた村がその対象になるくらい、酷いコトをしたんですか?」
「そうではない。理由は、あの村の起源に遡る。」
そこから知らされる真実はなんとも惨たらしいことだった。
「え、そんな、こと、」
「すみませんがそれは本人達は知っているんですか?」
「知らない。」
「胸糞が悪い話ですね。それは。」
「ああ。だからこそ、我々が無くしたいんだ。この制度を。だが一人では状況は変えられない。僕たち、いや俺たち二人で基盤を作っていたんだよ。」
「基盤、ですか?」
「ああ。俺が世界を回って情報収集。学園長は後進を育てる。こうすれば、いずれ芽が生えると思ってな。」
「そう、なんですか。」
「協力してくれるか?勿論、断ることもできる。これは、俗に言う謀反だからな。」
ナオミとマキロは考えた。
(まさかガレットちゃんにそんな過去が...私は、一応侯爵家。でもそんなこと気にしていられない。この事実を知ってなお、動かないほど馬鹿じゃない!)
(ガレット・w・リンズ...隠していたのはこういうことだったのか。大佐の地位も、捨てることになるのだろうな。まぁ良い。俺も国の方針に全て賛成しているわけではない。謀反とは、参加するとは思わなかったが、協力も吝かではないだろうな。)
「で、決まったかな?」
「はい。」
「ああ。」
二人は参加の意を示した。
「助かる。このことは外部には決して漏らしてはいけない。分かったな?」
「はい。」
ヤンドールは目を瞑った。
(これで、あの子も、)
救われる。
「アルス、私の近衛武士になるんだよね?頼んだよ。」
「おお。お前は、俺の友達だからな。」
その後時は流れ、学園を卒業する年となった。
この学園は19歳になったら卒業の年を迎える。つまり一年経ったのだ。
「あれから、結局何もなかったな。」
「そうだね。私も、そろそろあの家出なきゃだね。」
「お前、あの家出なくて良いぞ。」
「え?」
ガレットは驚いた。自分から出ていくと約束したのにも関わらず。
「お前の安全はまだ確保されたわけではない。黒幕の存在はまだ分からない。ただ動いてないだけの可能性が高いだろう?」
「で、でも、私が留まっていたらあなた達の家まで標的になるかもしれないのよ?」
「まぁ、良いさ。何かあったら兄貴がなんとかするだろう。」
お兄さんのこと酷使しすぎじゃないかしら。
「アルス、意外と私のこと好きだよね。」
なんとなく気になっていた。一年も人に付き従っているようなものだから。貴族出身の人間が一般人の護衛など考えられないのだ。
「は?何言ってんだ馬鹿野郎。好きじゃねぇよ。」
素直じゃないなぁ。勿論、アルスのガレットに対する気持ちは恋情が含まれている。だがそれ以上に友愛・家族愛の情があったのだ。
「とにかく、お前はこの後何がしたいんだ?」
「何がしたいって、」
村の皆んなの仇を討つコト。この暖かい場所を守るコト。
「強くなりたい、かな?」
強くなかったら何も守れない。それは身をもって痛感している。
「強くなりたい理由があるのか。」
「うん。...ねぇ、アルス。今から、何を言っても驚かないでよ?」
「お、おう。」
ガレットは深呼吸をして口を開いた。