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第一章 1話 オープニング

 許さない。許さない。許さない。あいつら、絶対許さない。今に見てろよ、力をつけたら絶対に復讐してやるからな。


 8歳の時、自分が住む村が襲撃に遭い全焼した。生き残りは私のみ。父や母、兄と妹と弟を亡くし、かつて無いほどの怒り・憎しみを覚えたあの日々。

これは肉親・親しい人の仇に復讐し、真実を知ったある1人の女性の物語である。


「ん、あ〜もう朝か。」

ガレットは体を起こして伸ばした。窓からは日光が差し込んでいる。

「時間、ヤバ!もうすぐで馬車来るじゃん!早く準備しなきゃ〜!」

急いで階段を降りたガレット。

「何で起こしてくれなかったのよアルス!」

「何度も起こしたさ。声をかけても返事をしなかったのは君だろう?それに居候のくせに上から目線はダメじゃないか?」

そう。私はこの家に居候しているのだ。

「ぐぬぬぅ。」

「全く。君ってやつは。準備はできてるから朝ごはんは馬車の中で食べるんだな。」

程なくして馬車が到着したので乗り込んだ。向かう先は聖アザリンス学園。通称アザンズ。この学園の創設者アザリンスは何と聖なる魔人(ホーリーマジッカー)だったらしい。詳しくはよく知らない。

「ご飯〜ご飯〜。」

「そんなに急がなくてもサンドイッチは逃げないよ。」

「な、ネタバレ!ダメ絶対!」

「何の話だ?それより早く食べろ。」

サンドイッチを口にしたガレットは頬張った。

「ん〜美味しい!」

「そりゃ良かったな。」

馬車の中で食べるサンドイッチは最高だ。外の景色を見ながら食べられるのだから。

「本当、早く起きれば良いのに。」

「睡眠は大事だよ?」

「勉強も大事だわ馬鹿。」

アルスはため息を吐いた。

(何で母さんはこんなポンコツ引き取ったんだよ...)

ガレットがシャーロズ家に来たのは十年前まで遡る。


「アルス。今日からウチで一緒に住むガレットちゃんよ。挨拶しなさい。」

ひと目見た時は、幸薄そうな顔だなと思った。最初は警戒心剥き出しの野良猫みたいだったのを今でも覚えている。

「アルスだ。アルス・シャーロズ。」

「私は、ガレット・リンズ。呼び名は好きなようにして。」

「珍しい名前だな。由来とかあるのか?」

「分からない。父さんも母さんも知らないって言ってたから。」

リンズってどこかで聞いたことあるような...そう思った。


そうこうしているうちに学園に着いた。

「今日も頑張るぞ!」

来たる日のために。


この世界は残酷だ。都合の悪い人間を魔女(ウィザード)と呼び、聖なる選別(ホーリーソーティング)と称して狩の対象とする。そういう差別の対象は人を選ばない。私はこの世界に存在する差別を無くすために、強くなる。家族の仇を討つために。村の人達の仇を討つために。今日も私は勉強をするのだ。


「ーーーーと、英雄の対戦(ロヘイル・マッチ)で使われた魔法は何であるか。今日は仲夏の月の3日だから〜。」

「頼む頼む頼む今日だけは勘弁、」

「ガレット!答えてみろ!」

「げ、嘘でしょ!?」

「早く答えろ。まさか寝ていないだろうな?」

そして今絶賛授業中である。

「えっと、過去に使われた魔法だから、」

「どうした?寝ていたのか?」

「寝てません!えっと雷神の禊(サンドール)!かつて存在したと言われている雷神が禊として使っていた雷の柱を元にした雷系の最高峰魔法です!」

「何だ知っているのか。」

「はい!」

「知っているのなら講義中に寝るなよ〜。」

「寝てないですって!」

するとガレットのお腹の虫が鳴いた。

「眠くなくとも腹は減るのか。もういい座れ。」

「食い意地はってんな〜ガレット!」

「よ!大食らいのガレット!」

教室の所々からそんな声が聞こえてきた。

「う、うるさい!」

すると鐘が鳴った。

「今日の講義はここまで。」


「お前今日講義中に腹鳴ったんだってな。」

今は帰りの馬車の中だ。

「う、そうだよ。」

「はぁ。くれぐれもウチの名前に傷だけは付けるなよ?」

「う、うるさいよ!そもそもアンタが起こしてくれなかったのが悪いんじゃない!」

またもやため息を吐いたアルス。

「文句を言うならこれからは朝起こさないし、弁当も作らねえぞ?」

「弁当は勘弁してくださいぃ〜。」

コイツ馬鹿だな。と思ったアルスである。まぁこれも日常茶飯事なのであまり気にしていない。


「ただいま帰りました〜!」

屋敷に大きな声が轟いた。

「そんな大きな声出すな。はしたない。」

はしたないとアルスがいう理由はシャーロズ家が侯爵の本家だからだ。家の周辺でも大金持ちとして有名なシャーロズ家は腕の良い魔法使いも多く在籍している。

『ガレット様、アルス様。お帰りなさいませ!』

ガレットとアルスの前左右に綺麗に並んだのは自立魔導式人形(オートドール)だ。

「ただいま〜!」

アルスはうるさいのが嫌いなので会釈して終わった。

(毎度毎度煩いなぁ。)

既に家を継いでいる兄に今度あったら自立魔導式人形(オートドール)の数を減らせと言おうと思っているアルスである。


2人は自分の部屋へ戻っていった。

「あの2人、お似合いよね〜。」

「そうよね!喧嘩しているところをよく見かけるけど、喧嘩するほど仲がいい的な!」

ガレットとアルスはこうやって従者の話の話題に上がることはよくある。

「確か、ガレット様はアルス様と血縁関係はないって前に言ってましたよね。養子なんでしょうか?」

「養子なら苗字はこちらと同じになるでしょう?ガレット様の名前は、ガレット・リンズ。苗字が異なるから養子ではないのでは?」

「確かに...旦那様か奥様のお知り合いのお子様、なのかしら?」

「この家は侯爵の本家。もしかしたら分家の子供を引き取った可能性があるんじゃない?」

「確かにありそう。」


ガレットは部屋のドアノブを握った。

(我は主人。汝は番人。我の名の下に我の寝所の扉を開け。)

部屋のドアが開いた。

(魔法でドアを開けるなんて、さすが金持ち。)

部屋の隅にあるベットに寝転がったガレット。

「ふぅ。」

この家に来てもう十年も経った。ということは、村が襲撃に遭って十年も経つということを意味する。

(待っててね。父さん、母さん、サーレット、ナユレット。必ず、仇を討つから。)

自身の中で渦巻く復讐の炎は、まだついたばかりである。

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