第7話 帰宅と騒動
~冒険者ギルド~
レオナールが森でフェンリルと出会っている頃ギルドでは大騒ぎになっていた。
血相を変えた冒険者が、冒険者ギルドに駆け込んできた。 事情を知らない冒険者が周りに集まり始めた時一人の職員が入って来た冒険者に事情を聴き始めると、スタッフのみならず冒険者たちも慌て始めた。
「誰か!急いでギルマスかサブマスを呼んでくれ‼ 大至急報告しないといけない事がある!」
「どうしましたか? まずは、事情をお聞きしてもよろしいですか?」
「そ、そんな悠長なことをしてる暇はねえ! 早く呼んで来てくれ!」
「今、他の職員が呼びに行ってるので先に説明をお願いします」
「わ、分かった。 まずは、俺が森の奥地に狩に行っていたんだが、その時フェンリルの遠吠えが聞こえたと思ったら、すごいスピードで中心部に向かって行ったのを見て急いで戻って来たんだ」
「「「なっ!なんだってぇ」」」
「そ、それは本当ですか!? 最近は大人しくなったと報告を受けたばかりなのに‼」
報告を聞いた者たちが慌てふためいて騒いでいると、そこにギルドマスターが現れた。
「何を騒いでいる! 一体何があったというのだ!」
「それが、フェンリルが中心部まで来ているそうなんです」
「なに!? 今すぐ高ランク冒険者を集めろ!森への依頼もすべて中止だ! 最低でも三組集まり次第調査に向かわせろ‼」
「わかりました。 すぐに通達を出します。」
「他の職員は、今日依頼に出てまだ戻ってきていないものをすぐに調べろ!」
ギルマスの指示で職員たちはすぐに行動に移り二人帰って来ていないのが分かった。 それを報告しに行くと、内一人は報告に来た人物だと分かった。 帰って来ていない冒険者がなんの依頼を受けたか確認したギルマスは、受けた依頼が森の入り口付近の薬草採取だった為そこまで重要視しなかったが、そこにソニアが慌てて向かってきた。
「ギルマス‼」
「ソニアか?そんなに慌ててどうした?」
「帰って来ていない冒険者はレオナールと言う名前では?」
「そうだが?知っているのか?」
「はい!いつも私が担当しているので……。 申し上げにくいのですが、レオナール君はいつも依頼の薬草と一緒に中心部に居るゴブリンの討伐証明を持ってきているのですが、もしかしたら今、中心部に居るかもしれません‼」
「なんだと! でも今は、中心部に行っていない事を祈るしかないが、出来るだけ早く捜索と調査に行けるよう動くしかない! 高ランク冒険者はどのくらいで集まりそうだ?」
「ただいま招集をかけているのですが、フェンリルに対抗できるほどの冒険者が集まらず、早くても明日の朝になってしまいそうです」
「やはりすぐには無理か…… だが、出来るだけ急いでくれ! すまないが、他の冒険者も不測の事態に備えてすぐ動けるように準備しておいてくれ!」
「「「「「おうっ‼」」」」」
一方そのころギルドで大騒ぎされてる事等知らないレオナールはフェンリルと友好な関係を築き雑談しながら眠りに着いたのであった。
フェンリルと別れ森を抜けたレオナールは先ほどのフェンリルの提案について考えながら歩いていると、街の門番がこちらに向かってきた。
「坊主今森の方から来たよな?変わったことはなかったか?」
「はい。 特には何もなかったですが?何かあったんですか?」
「ああ、今森の中心部にフェンリルが居るらしくて街では大騒ぎになっているんだ。 しかも、冒険者が一人戻ってきていないらしくて……って! 坊主もしかして帰って来てない冒険者って坊主の事か?」
「僕かどうかは分かりませんが、昨日から森には居ました。 ゴブリンと戦闘していたら大分時間が経っていて、時間的に帰れなくなってしまったので、森で一夜を過ごしました。」
「じゃあ、君で間違いなさそうだな!ギルドカードの確認させてもらってもいいかい?」
「はい」
「ありがとう。 ちゃんと確認できたからもう通っても大丈夫だよ」
「はい。 ありがとうございます」
「坊主!急いでギルドに行った方がいいかもしれないぞ。 坊主の捜索と調査の為に、高ランク冒険者を招集していて早くてもそろそろ集まるころらしいからな! 早く無事を知らせてやれ!」
「そんな事になっていたんですね! 教えていただきありがとうございます! 急いで向かいます!」
「ああ、そうしてやってくれ」
門番から騒ぎにっていることを聞き、急いでギルドに向かうレオナールだった。 ギルドに着いたレオナールが中に入ると即座に気づいたソニアが駆け寄って来た。
「レオナール君‼ 無事でよかった!これから捜索に行くところだったのよ! とこで、森では何か変わったことは無かった?」
「門番の人から聞きました。 心配かけてすみません。 特に何もなかったです。 でも、探索中にゴブリンの群れに会ってしまって帰るに帰れなかったんです」
「そうだったのね。 もしかして中心部にいってた?」
「はい」
「やっぱり! 門番に聞いたって言っていたけど、フェンリルには会わなかった?」
「会いませんでした。 中心部まで来てたんですか?」
「そうなの。 昨日依頼に行っていた冒険者が報告に来てくれて分かったのだけど、フェンリルがすごいスピードで中心部に向かって行ったらしいの。だから、調査の為に高ランクの冒険者を緊急で招集して最悪の場合討伐することになったの」
「討伐しちゃうんですか? でも、フェンリルが居なくなったら森が大変なことになるんじゃ?」
「そういう話も出たのだけど、現状中心部まで来ていて大変なことになっているから討伐も視野に入れてるって感じね」
「僕たちは、元に戻ってくれるのを待つしかないですね」
「こっちとしても出来るだけ討伐はしたくないからそうなってくれるのを願うしかないわ」
「そうだ!聞きにくいのですが、昨日受けた依頼ってどうなりますか? 一応薬草はとってきたのですが……」
「今は緊急事態だから全てキャンセルになるのよ。 ただ、今の現状だと回復薬もそれなりに必要だから薬草の買取は大歓迎よ‼」
「わかりました。じゃあ、薬草の買取お願いします」
「では、今から査定しちゃうからちょっと待っててね。 後、ギルマスにも無事帰って来た事も報告してくるから!」
「はい」
レオナールは、森での出来事は報告できないと考え何もなかったと言ってしまっていた。 ソニアを待っている間、レオナールはフェンリルの事を考えていた。 そこに、ソニアからの報告を聞いたギルマスが此方に向かってきた。
「君がレオナールか?」
「そうですけど? あなたは?」
「ああ、俺はギルドマスターの"ディミトリ"だ‼ 無事に帰って来てくれて本当に良かった」
「はい。 ご心配をおかけしました」
「こちらこそ申し訳なかった。 そうだ、これが買取した代金だ。 今日は疲れているだろうから後日何があったか聞かせてもらってもいいか? 何もなかったとは聞いているが、些細な事でも思い出したら報告してくれると助かる」
「わかりました。 お力になれるか分かりませんが帰って思い出してみます」
「疲れているのにすまないな。 ではまた後日来るのを待っている」
ディミトリはそれだけ言って帰っていったので、レオナールもソニアに挨拶して帰ることにした。 ギルドを後にしたレオナールは、フェンリルが奥地に戻り何も起こらないことを願いながら家に帰っていった。
家に着くとアルバートが心配そうな顔をしながらレオナールを抱きしめると、涙を流し始めてしまった。 アルバートは、ゼフィルとディミトリとの会話を聞いてしまい、フェンリルが中心部まで来ていること・冒険者が一人帰って来ていない事を知ってしまった。 そのため、アルバートはレオナールじゃない事を願ったがその願い叶わずレオナールがその日帰ってくることはなかった。
レオナールはアルバート連れて部屋に戻ると、アルバートには森での出来事をすべて話すことにした。
「うっう、レオナール大丈夫? どこかケガとかはしてない?」
「僕は何ともないので大丈夫です!兄様落ち着いてください‼」
「こんなの落ち着いて居られる訳無いだろ‼ フェンリルが暴れていた森に居て帰ってこなかったんだぞ‼ 何があったか話してくれるんだろ?」
「森での出来事を全て話してもいいのですが、誰にも言わないでもらえますか? もし約束出来ないのであれば何も話せません!」
「誰にも言えない程の事があったのか? 分かった誰にも言わないと誓うよ」
「兄様、ありがとうございます」
レオナールはアルバートにフェンリルの事やシレンの事等森での出来事を全て話すと、アルバートはあまりの内容に固まっていた。
「兄様?兄様ぁぁぁ‼」
「すまん。 ちょっと思考が追い付かなかった。 今の話は本当の事なんだよね?」
「はい。 フェンリルの件どうすれば良いと思いますか?」
「これは確かに誰にも話せないなぁ。 フェンリルの件は慎重に考えるべきだと思うよ? でも、こんな仕打ちを受けているんだからここの領地の事は考えなくていいからね!自分がどうしたいかだけを考えなよ!」
「でも、それだと兄様に迷惑がかかっちゃうし」
「僕の事を心配してくれるのは有難いけど、自分の幸せを優先してほしいかな?」
「わかりました。 相談に乗ってくれてありがとう兄様!」
「気にしなくてもいいよ。 頼ってもらえてうれしいよ! それにしても、シレンの事にも驚いたよ!」
「僕も知った時は驚きました。 その事も、ばれないように気お付けないといけませんね!」
「そうだね! 今回の事は本当に信頼できる者だけにしか話しては駄目だよ!」
「はい! 分かっています!」
「それと多分だけど、今回のフェンリルの行動で、フェンリルはシレンが森に入ったら分かると思うから、今後森に行くときは周りをいつも以上に警戒しなくちゃだめだよ!」
「そういえばそうですね! 遠吠えの後いきなり現れましたから気を付けないと駄目ですね」
「あと、当分森にはいかない方がいいよ。 当分ギルドは警戒しているだろうからね」
「そうですよねぇ。 また会いに行きたかったですがしょうがないですね。 ごめんよシレン、当分お母さんに会いに行けそうにないや」
「バウ!バウバウバウ!(大丈夫!昨日会えたから!)」
「ありがとう!シレン」
外が暗くなってきた為、アルバートは帰っていった。 アルバートに相談したことにより、フェンリルを従魔にする事を前向きに考え始めていたのだった。 その後、レオナールは今後の事を考えながら眠りに着いた。