第4話 無能
馬車が止まりゼフィル、アリアンは無言で降りたのだった。 レオナールも後を付いて行くように降りると屋敷の入り口の前でゼフィルがメイドと話していたが、すぐに屋敷に入っていった。 レオナールも入ろうとした時ゼフィルがこっちをにらみながら「お前は向こうだ!」と離れの方をさした。
ゼフィルの剣幕にレオナールは一瞬何を言われてるか分からず「……ど、どういうことですか!」と我に返り言うと「追い出されないだけありがたく思え!」と言葉を残し扉を閉めて中に入っていった。 残されたレオナールはメイドに連れられ離れに行くのだった。
離れの部屋に案内されたレオナールは、最低限の生活ができる家具しかなく自分が今まで生活してきた部屋との違いに驚愕していた。 これからの事を悲しみながら考えているとこちらに向かってくる足音が聞こえた。 〔誰だろう? メイドさんかな?〕と思っていると、ドアがノックされた。
「!、は、はぃ」
帰ってきた返事で元気が無いのが分かると心配しながら優しく声をかけた。
「レオナール大丈夫? 何があったの?」
視界が霞、ビクビクしながら扉の方を見るとアルバートが優しく声を掛けながらこちらに向かって来ていた。 先ほどのゼフィルの態度の豹変を目の当たりにしたレオナールは「来ないで!」と声を荒げていた。 そんなレオナールを見たアルバートは「大丈夫、何もしないから少しお話しよう?」と様子を見ながら近づいて行った。
いつもと変わらぬアルバートを見たレオナールは落ち着きを取り戻しポツポツと話し始めた。
「ァ、アルバート兄様、僕にも何でこんな事になったか分かりません。 最初は喜んでいたんです。でも時間が経つにつれどんどん怖い顔になっていってそしたらいきなり馬車に乗せられ屋敷に着いたらお前は離れに行けと怒鳴られました」
「そうなのかぁ、いきなりでビックリしちゃったんだね? それだとスキル関連かな? どんなスキルだったの?」
〔スキルのせいでこんな事になったならあんまり言いたくないな〕と思いながら言いよどんでいると、いきなりドアが開いた。
「アルバート! 何故こんなところに居る? ここには近づくなと言ったはずだ!!」
怒鳴りこんできたゼフィルの声に〈ビクッ〉と驚き俯いてしまっているレオナールを庇う様に立ったアルバートがゼフィルに言い返した。
「お父様なぜ家族のレオナールにこんな仕打ちをするのですか!?」
庇ってくれているアルバートを前にレオナールは俯くことしかできなかった。 ゼフィルは「こんな出来損ない家族でも何でもない! だからもうここには近づくな! 分かったら行くぞ!」と言い、その言葉を聞いたレオナールは顔を上げ、アルバートと二人で「「えぇ!?」」と声を上げていた。
アルバートは「もういいです! 誰になんと言われようともレオナールは家族です! お父様の言いなりにはなりません!!」と言い切った。
突然レオナールが泣き出した。ゼフィルはそれを無視し、アルバートは「大丈夫? どうした?」と聞いた。
「うっぅぅ、お、お兄様の言葉が嬉しくて……」
レオナールは、ゼフィルの言葉が悲しかった。 だが、それ以上にアルバートの言葉が嬉しくて気づいたら泣いてしまっていた。
一連のやり取りを見て埒があかないと思ったゼフィルは「そこまで言うのなら、十五歳まではここに置いておいておくだが、それ以降は辺境のミストヘイズ領を任せるとしよう!」と言い放った。
「!?、それはあんまりです! あんな危険の所に行かせるなんて」
レオナールはすぐに追い出されると思っていたがゼフィルの言葉に十五歳までは居れるのかと安堵した。
ただ、アルバートの危険という言葉に、どういうこと?という顔になっていた。
ゼフィルはこれ以上余計なことを言わせまいとアルバートを無理やり連れだした。
大人の力には勝てないと分かっていたが、それでもアルバートは抵抗した。連れ出されながらも「お父様、考え直してください! 周りが危険な森に囲まれている場所に行かせるなど!」 そろそろ鬱陶しく思ったゼフィルは「すぐに追い出されないだけありがたいと思え!」と言いアルバートの頬を殴った。
声までは聞こえないが、部屋の窓から一連のやり取りを見たレオナールは自分のせいだと攻めはじめアルバートに心配かけ無いよう強くなると決意した。
あれから数日誰も離れにはやってこない。 食べ物だけは少量だが持ってくるメイドは居るが話しかけても無視をされすぐに出ていく。 離れにも一応書庫はあるのだが置いてあるのは十冊ていど無いよりはマシと毎日少しづつ勉強していると勢いよくドアが開いた。
「!」
そこに現れたのはイザックだった。 アルバート同様優しかったイザックに期待しながら話しかけようとした時、イザックの口から予想だにしない言葉が聞こえた。
「よう無能! 良くこんな所に住めるなぁ!」
「え? イザック兄様?」
「兄様ぁ? 家族でも無い無能が気安くよんでんじゃねぇよ!」
久しぶりに会ったイザックは別人のようになっていた。 〔やっぱり聞き間違いじゃなかったんだ、アルバート兄様も変わってしまったのかな?〕と思いながら悲しみが押し寄せてくる。
そんなレオナールを見ながらニヤニヤしながら近づいてきたが、その後ろからまた誰かが走ってこちらにやって来た。〔誰が来たんだろう? また罵倒されるのかな? もう嫌だよこんな生活〕と考えていると涙が流れていた。
「何をしてるのイザック兄様! レオナートも泣いてるし何を言ったの!」
「別に本当の事しか言ってねぇよ!無能に無能と言って何が悪い?」
当たり前とばかりに言っているイザックにアルバートは声を荒げ怒り始めた「兄様!!自分が何言ってるか分かってるのか!!僕たち兄弟だよ?」
「そこまで言うならレオナール俺の練習に付き合えよ! 無能じゃないことを証明してみろ!」
イザックは良いことを思いついたとそんな事を言い始めた。 止めに入るアルバートを他所にレオナールを連れ出したイザックは木剣を投げ渡した。
「ほら、早く拾ってかかってこいよレオナール!」
レオナールは目の前の木剣を拾い「やぁぁぁ」と切りかかりに行ったが剣など持った事もないレオナールが当てられるはずもなく簡単に躱され切り返されていた。
「ゲホッゲホッ、 無理だよこんなの」
「なんだ? もう終わりか? やっぱり何もできない無能じゃねえーか!ギャハハ」
「そっちが来ないならこっちから行くぞ!オラァァ!!」
「もうやめ……」
ボコボコにやられたレオナールは途中で意識を失った。 それを見たイザックは「チッ もう終わりかよ根性ねーなぁ。 練習にもならねーぜ」と言い屋敷に戻っていった。 急いで駆け寄ったアルバートはレオナールを離れの部屋におぶっていき「助けられなくてごめんよレオナール」と呟きながら看病をした。
夜になり意識を取り戻したレオナールは横に視線を送るとアルバートが居ることに気が付いた。 アルバートは屋敷に帰らずにずっとレオナールの看病をしていた。
レオナールが起きたことに気づいたアルバートは「何もできなくてごめんよ」と謝って来た。 そんなアルバートに「兄様が謝る事じゃありません! 僕が弱いのがいけないんです」と返すとアルバートは泣きながら「レオナールは弱くなんかない! イザック兄様にだって向かって行ったじゃないか!」と言った。 レオナールはその言葉が嬉しくて一緒に泣いてしまった。
レオナールは「もう大丈夫ですからアルバート兄様は屋敷に戻ってください! また叱られてしまいます!」と言うが、アルバートは「いや、また何かされるかも知れないからこっちに居るよ!」と聞かなかった。 その後なんとか言いくるめしぶしぶ帰っていったアルバートを見送った後また眠りについた。
それからと言うもの毎日様子を見にくるアルバートと一緒に勉強をしていた。 たまにイザックが練習と言う名の気晴らしに来るがアルバートが何とか阻止していた。
ある日アルバートより先にイザックが来てしまい、嫌がるレオナールを無理やり練習場に連れてきたイザックは「今日は邪魔者が居なくて良かったぜ」とニヤニヤしていた。 木剣を渡されたレオナールは切りかかりに行くが簡単に躱され反撃されたが、ギリギリガードできた。
ガードされたことに驚き隙を見せたイザックに〔いまだ!〕と切りかかり当てることができ「やった!」と喜んでいると我に返ったイザックが攻撃を当てられた事に怒り出し剣術スキルを使ってしまった。
「ふざけんじゃねーぞ! お前みたいなやつに当てられるなんて何かの間違いだぁぁ!」
怒ったイザックは、レオナールに向かって木剣で攻撃していた。
レオナールは「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣きながらうずくまり意識を失いかけたその時、イザックの前に土の壁が現れた。
「誰だ邪魔した奴は! こいつには身分の違いを分からせてる所なのによぉ!」
「身分の違いをわからせる? 傍から見たらただのいじめにしか見えないです! ふざけないでください!」
そこに居たのはアルバートだった。 「大丈夫?レオナール。 もう手出しはさせないから安心して!」と言うアルバートの声に安心したのか「はい。ありがとうございます」と残し意識を失った。
アルバートはそのままイザックの方へ向いて杖を構えたがいくら弟といえど魔法使いに木剣じゃ勝ち目が無いのは分かっているのでどう切り抜けるか悩んでいると別の方から声がかかった。
「何をしてるんだお前達!」
声がした方を見るとゼフィルが立っていた。
「何をって見て分からないのですか? レオナールに酷い事をしてたのでとめているのですよ?」
「そんな事等どうでもよい! そんな奴放っておいて屋敷に戻るぞ!」
「な!? 何を言ってるんですかお父様! 僕はレオナールを部屋に連れていきます!」
「勝手にしろ! だが屋敷には入れるなよ!」
「そんな事分かっています! 屋敷になんて連れて行ったらあなた達に何されるか分かりませんからね!
!」
「行くぞ、イザック」
「は、はい!」
ゼフィルはイザックを連れて屋敷へ戻り、残されたアルバートはレオナールを担いで離れに向かった。
目を覚ましたレオナールは部屋に居たアルバートに強くなるための稽古をしてくれと頼んだ。
「アルバート兄様、僕はもうこんな事されるのが嫌なんです! 強くなるために稽古をつけてください。
お願いします!」
「レオナール、僕は魔法専門で剣などは基礎的な事しか分からないんだ、だから無理だよ」
「基礎的な事でもいいのでお願いします。 後は本などを見て学びますから!」
「そこまで言うなら分かったよ! どこまでできるか分からないけど一緒に頑張ろう! それと、ここにある本じゃ全然学べないと思うから屋敷からよさそうな本を持ってくるよ!」
「はい! ありがとうございます。 アルバート兄様!」
絶対強くなってお父様たちを見返してやる!とレオナールは決意するのであった。