第20話 ノヴァの過去 その4
大変お待たせいたしました。
過去編最後の話です。
重傷を負ったドラゴンは、数日後森で目を覚ました。
「うっ、ここは何処だ? 何故俺はこんな所に……」
目を覚ましたドラゴンは何故森に居るのか最初は分からずにいたが、少しづつ何があったのか思い出していった。
「そうだった、傷を負いすぎてここで意識を失ったんだったな……。 当分動けそうにないからこのままここで休むとするか」
ドラゴンはそのまま眠りにつこうとしたが、こちらに向かって来る大勢の気配を感じ警戒したのだった。
少ししてドラゴンの前に現れたのは鎧を身にまとった大勢の人間だったが、ドラゴンを見た瞬間ほとんどの者が恐怖に怯え始めていた。 そんな中、他の人間と違う格好をした一人の男がドラゴンに近づき声を掛けて来た。
「酷い怪我だけど大丈夫かい?」
「後ろの人間達と違い俺を恐れないとは変わったやつだな。 どこかに行かないと食ってしまうぞ」
「食べられるのは困るけど、こんな怪我をしている君を置いて帰ることはできないよ」
「俺は人間じゃ無くドラゴンだぞ?」
「人間だとか魔物だとかは関係ないよ。 困っている者や怪我を負っている者を放っておく分けにわ行かない」
「はぁ……勝手にしろ! 俺は眠るから邪魔をするなよ‼」
この人間は何を言っても引かないと思ったドラゴンは手負いとはいえ人間の攻撃程度何ともないと思い回復に専念する為そのまま眠りにつくことにした。
ドラゴンが眠ったのを確認した鎧を着た人間はドラゴンと会話をしていた人間に駆け寄って行った。
「エドガー様‼️、勝手な事をされては困ります。 貴方に何かあったら領地や民達はどうなるのですか!」
「お前達の言いたい事は分かるが、僕が困っている者を放っておく事は出来ないのはお前達が一番分かっているだろ?」
「それは……今回は平気でしたが、今後は簡単に近づいたりしないでください。 流石にドラゴンに話しかけるとは思いませんでしたよ」
「僕もこんな森にドラゴンが居るとは思わなかったけど早めに気づけて良かったよ。 一回戻って今後このドラゴンをどうするか対策を立てるのと薬を用意するぞ」
「え……! 薬ってまさかこのドラゴンに使うのですか?」
「そうだが?」
「エドガー様、流石にそれは無茶かと……。 いっそのこと、手負いの今のうちに討伐するというのはどうでしょうか?」
「それは絶対にダメだ‼」
「何故です‼ こんな機会そうそうないですよ?」
「もし倒せなかったらここら一帯がどうなるか分かるだろ? 会話ができるなら話し合った方がいい」
「ですが「もうこの話は終わりだ。 いったん戻るぞ」わかりました」
エドガー達はその場を離れ領地へ帰っていった。
領地に戻ったエドガー達は到着そうそう薬の準備や今後の話し合いをしていた。
「帰って来てそうそう申し訳ないが隊長・副隊長は執務室に、それ以外の者は薬を出来るだけ多く集めてきてくれ」
「はい」
エドガーの指示に皆が慌ただしく動きだした。 そのままエドガーと隊長・副隊長は執務室に向かって行った。
「あんなドラゴンがこんなに近くに居たなんて思わなかったよ。 まずは陛下に報告しないといけないのと今後どうするかだが倒す以外に何かいい案はあるか?」
「ドラゴンの討伐が難しいとするとやはりエドガー様の言っていた対話で解決するしかないかと……。 それと、国王陛下にはまだ報告しない方がいいかと」
「こんな重大な事を報告しないとはどういうことだ?」
「報告しないと言う事ではなくまだ報告するのは早いと言う事です。 今のドラゴンの状態が国王陛下に知られると討伐すると言われる可能性が高いのでまだの方が……」
「そうだな。 あの深手だとすぐには回復することは無いと思うが、少し様子を見ることにするか。 もし駄目そうなら陛下に報告して討伐も視野に入れよう。 まずは明日また会いに行き対話を試みる事にしよう」
「そうですね」
対策会議を終え隊長・副隊長が出て行き近くに誰もいない事を確認したエドガーは一人明日の事を不安に思うのだった。
「まさかこの歳で本物のドラゴンに会えるとはな。 しかも、会話まで出来るとは……明日も会話してくれるといいのだが」
エドガーは仕事を切り上げ明日に備えて休むことにした。
翌日すべての準備が整い、隊長・副隊長が選別した精鋭部隊と共にエドガーはドラゴンの元へ向かった。
エドガー達が森へ入り少しすると周りから茂みをかき分ける様な音が聞こえ始め兵士たちは戦闘態勢をとった。
「エドガー様、何かが近づいてきていますので止まってください。 総員戦闘準備! 何が来るか分からんから警戒を怠るな‼」
「「「「はっ!」」」」
「隊長? 近づいて来る者に敵意は感じないからそんなに警戒しなくても大丈夫だと思うよ?」
「エドガー様を信じていないわけではないのですが、不測の事態が起こるかもしれない状況で警戒を怠る訳にはいきません!」
「いつも迷惑をかけてすまない」
「いつもの事なので大丈夫です」
そうこうしている内に音の正体が分かる距離まで近づいてきたが、一定の距離で『待て』をするように止まっていた。
「やっぱりお前達だったのかぁ」
「そうみたいですね……何度見ても驚きですよ本当に」
近づいてきたのは過去にエドガーに助けてもらった魔物達だった。 兵士達が戦闘態勢を解くと魔物達はエドガーの周りに集まって来た。
「お前達元気になって良かったな」
エドガーに撫でられながら魔物達は各々嬉しそうに鳴いた。
「エドガー様本当にテイムしてないんですよね?」
「流石にこの数の魔物をテイムしていたらすぐに屋敷が魔物でいっぱいになっちゃうからね。 してないよ」
隊長はいつも見ている光景だが、テイムもしていない魔物の行動とはかけ離れていた為、集まって来る魔物が増える度確認してしまっていた。
「あなたは本当に不思議な人ですね」
「そうかなぁ?」
「こんな事できる人はあなた以外に見た事ありませんから‼」
そんな話をしながらドラゴンの元へ向かって行くのだった。
ドラゴンと出会った場所に近づくにつれエドガーの近くに居た魔物達はどんどん少なくなっていった。
「やはり魔物達は自分より上位の者が居るのが離れていても分かるみたいですね?」
「そうみたいだね。 でも、そのおかげであのドラゴンを見つけられたんだ感謝してもしきれないよ」
「あの魔物達もエドガー様に対して同じことを思って居そうですがね?」
「そうだといいな」
魔物達は強者の気配に敏感の為エドガー達がドラゴンに近づくと一匹も居なくなっていた。
ドラゴンは何者かが近づいてきた為一旦目を覚ましたが近づいてきているのが人間と分かり呆れていた。
「帰ったと思ったら今度は何をしに来た? この傷を見て討伐しろとでも言われたか?」
「いや、討伐に来たのではなく話し合いに来たのだ。 できれば貴方といい関係を築きたくてね」
話し合いやいい関係を築きたいと言う人間の言葉を聞いてドラゴンは怒気を露わにした。
「ふざけた事をぬかすな‼ 人間のそんな言葉が信じられると思っているのか⁉」
ドラゴンの怒気に当てられ数人の兵士はその場で気絶してしまい、何とか意識を保っていた兵士たちも震えて動けずにいたがエドガーだけはドラゴンから目を離さずに向き合っていた。
「すぐに信じてくれとは言わないが、貴方の傷が癒えるまで僕は今後もここへ来て貴方を説得するつもりだ! それでも駄目だった場合は諦めるさ」
「この状況でそんな事を言えるのは褒めてやるが何度来ても説得に応じるつもりなど微塵もない」
「来るのは良いってことだね。 じゃあ今日は貴方の為に用意した薬だけ置いて帰る事にするよ。 皆、今日は街に帰ろう」
これ以上ドラゴンを怒らせてはいけないと思ったエドガーは兵士たちに撤退の命令を出し帰っていった。
エドガー達が置いて行った薬を見ながらドラゴンは『本当に変わった人間だな』と思いながら眠りについた。
何とか気絶した兵士を運びながら街へ戻ったエドガーは兵士たちに休暇を与え、隊長・副隊長と共にドラゴンについての会議をするのだった。
「ドラゴンがあれほど激高するとは過去に何かあったのでしょうか?」
「ドラゴンは人間にとって富や名声といったものが容易に手に入れられる魔物だからな。 そんな人間からの提案だからしょうがないさ」
「そうですね。 我々が想像できないほどの人間と闘ってきたのかもしれないですね」
「だから、今後の関係は我々の関わり方次第で良くもなればこのまま人間に敵対したままと思った方がいいだろう」
「やはり明日もエドガー様は行くつもりですよね?」
「当たり前だ! それに、今日の兵士たちを見たら私以外話し合いなんてできないだろう?」
「それは……」
「明日はここに居る我々だけで向かう事にする」
「流石にそれは危険では?」
「副隊長? 他の者を連れて行っても今日と同じことになるだけだと思うが?」
「ですがもう何人かは必要かと……」
「いや、エドガー様の言う通り我々だけで行こう」
「隊長⁉本気ですか?」
「本気だ。 今日みたいなことがまた起こったら逆にエドガー様を危険にさらすことになる」
「分かりました」
「では今日はこれで終わりにしてゆっくり休んでくれ」
「「はい」」
会議の話もまとまり、溜まっていた領地の仕事を早々に片付け眠りについた。
翌朝、エドガーは三人でドラゴンの元へ向かった。 森に入るといつも通り魔物達が集まって来て途中まで一緒に向かった。 人数が少ない事もありいつもより早くドラゴンの元へたどり着いた。
ドラゴンの元へ着くと手の付けられていない薬が目に入った。
「薬使わなかったんですか?」
使われていない薬を見てそう質問しながらドラゴンを見ると驚いた顔をしたドラゴンが居た。
「昨日あんな事があったのに本当にまた来るとはな。 お前ら人間が持ってきた薬など怪しくて使うわけないだろ!」
そう言われエドガーは『そうですね』と言い持っていたナイフで自分の腕を切り置いてある薬を掛けた。
「エドガー様‼何を⁉」
「信用してもらうならこれくらいしないと駄目だろ?」
隊長たちの心配をよそにそういうエドガーに隊長は「そういう事は私たちがやりますから」と言うとエドガーは「危険は無いんだ誰がやろうと同じだ」と隊長たちを呆れさせた。
そんな二人のやり取りを見てドラゴンが『ガハハ』と痛がりながら笑い始めた。
「久しぶりに笑ったぞ。 この俺を前にしてそんな事をしたのはお前らが初めてだ。 今まで出会った人間とは違う事は分かったが、お前らが信用できるかは別の話だ」
「こんな事で信用されようとは思っていないよ。 ただ、薬は信用してくれるだろ?」
「そうだな。 薬は有難くもらうとしよう」
「大変だろうから薬を塗るの手伝おうか?」
「信用できない相手に頼む訳ないだろ!」
「追加の薬も置いておくのでちゃんと使ってくださいね」
「お前らこんなに薬ばかり持ってきて俺が治ったら襲われるとは思わないのか?」
「そうならないために話し合いに来ているんじゃないですか。 その結果駄目だったら僕たちはそれを受け入れるしかないですけどね」
「戦おうとは思わないのか?」
「戦ったとしてもあなたに勝てる希望はありませんから。 そんな無駄な事をするぐらいなら領民を一人でも多く避難させますよ」
「人間は面倒な事を考えるなぁ」
「あなた達と違って人間は力だけではついてきませんからね」
この日はドラゴンと少し会話が出来た事を第一歩と考えながらエドガー達は帰っていった。
エドガー達が居なくなった後ドラゴンは置いて行かれた薬を使い眠りについた。
それからエドガーは毎日かがさずドラゴンに会いに行き色々な話をしていた。 最初はあまり反応はしてくれなかったが話しかけ続ける度に少しづつ会話をしてくれるようになっていった。 ドラゴンの傷が大分癒えて来たころ初めてドラゴンの方から話かけて来た。
「お前は飽きもせず毎日来るが俺が怖くないのか?」
「本来なら領主として貴方のような強大な力を持った方が国内で発見された場合王都へ連絡をして早急に対処しなければならないけど僕は争いがあまり好きじゃなくて対話で解決できるならそれに越したことは無いからね。 だから、怖いか怖くないかで言うと最初は怖かったけど今は怖くないかな?」
「ガハハハ。 本当に変わった人間だなお前は。 まあそんな性格だから魔物が付いて来るのだろうな」
「……気づいていたのですか?」
「テイマーなのに魔獣も連れず、普段は近づきもしない魔物達がお前が来ると近くまで来ていたからな」
「そうかあの子たちには無理をさせていたんだなぁ。 今度謝らないと」
「はぁ。 テイムもしていない魔物の心配をするとはな。 ところでお前の名前はなんて言うんだ?」
「あぁ。 そう言えば毎日来ているのに名乗って居ませんでしたね。 僕はエドガーと言います」
「エドガーか。 お前気に入ったぞ!特別に俺の名前を教えてやろう。 俺はノヴァと言う。 今後は名前で呼ぶことを許そう」
「ありがとうございます!ノヴァ様‼ 名前まで教えて頂けるとは感激で涙が…… 今後もこの関係が続くようにしていきたいと思います‼」
「分かったから泣くのは止めろ! あと、その畏まったしゃべり方も止めろ。 様呼びもだぞ!」
「はい!」
ドラゴンのノヴァといい関係が築けたエドガーは変わらず毎日ノヴァの元へ通い続けるのだった。
ノヴァとの関係がいい方向に向かったため、エドガーと一緒に付いて来ていた他の魔物も共にノヴァの元へと付いて来るようになっていた。 そのため、エドガーがノヴァの元へ行くと周りには様々な魔物が楽しそうに過ごす楽園のような場所に変わっていた。
それから数か月が過ぎノヴァの傷も完全に癒え別れの時が近いと思っていたがノヴァからありえない提案がされた。
「ノヴァの傷も癒えたしそろそろ住処に帰るのか?」
「その事なんだがな……当分帰る気は無い。 それで相談なんだが、エドガーお前にならテイムされても良いと思っている。 どうだ?」
「「「……え!?えぇぇぇぇぇぇぇ‼」」」
「ノヴァ何をいきなり」
「いきなりも何もここまで世話になって何もしない程俺は恩知らずじゃないからな。 それに、他でもないお前だからこんな事を言っているんだ。 お前ならテイムしたからと言って俺の力を私欲に使ったりしないだろう?」
「それはそうだけどノヴァは本当にそれでいいの?」
「あぁ。 それに、このままここに居るなら従魔になっていた方がエドガーにとっても良いだろう?」
「ノヴァがそれでいいなら僕としては有難いけど……ノヴァがそこまで僕たちの事を考えてくれていたなんて」
ニヤニヤしながらエドガーがノヴァに視線を向けると恥ずかしそうに顔を背け「で、どうなんだ!」と言われた。
「もちろんこれからもよろしくノヴァ」
「あぁ。 よろしくな」
こうしてノヴァを従魔にしたエドガーはその事を国王に報告しに王都へ向かった。
王都に着いたエドガーは国王へ謁見の許可を得てノヴァの事を報告した。
「エドガー伯爵、急ぎ報告があるとのことだが何があったと言うのだ?」
「はい。 陛下、報告というのは我が領地近くの魔の森にて手負いのドラゴンを発見いたしました」
「な、何!? ドラゴンだと‼ そこの者急ぎ兵を集め討伐準備をせよ!」
「お待ちください陛下!」
「なんだ? 事は一刻を争うのだぞ‼」
「そのドラゴンなのですが会話ができるようでしたので対話を続けた結果、従魔にすることに成功しました」
「何を馬鹿な事を。 ドラゴンが人間の従魔になる事等ある訳が無かろう!」
「言葉だけでは信じて頂けないと思いこちらをお持ちいたしました」
「……これは鱗か?」
「はい。 私がテイムしたドラゴンの鱗でございます。 そちらを献上させていただき信じて頂ければと……」
「……従魔にしたと言うのは本当なのか?」
「はい」
「そうなのか。 エドガー伯爵、過去に誰も無しえなかった偉業故褒美として爵位を伯爵から侯爵とする! 今後ともこの国の為に尽力してくれ」
「はい‼」
こうして国王への謁見を終えたエドガーは急ぎ自分の領地へ戻るのだった。
王都から戻ったエドガーは溜まった仕事に取り掛かり空いた時間でノヴァに会いに行き今後の事を話し合っていった。
ノヴァとの話し合いによりノヴァは森へ滞在しエドガーの領地へ魔物が行かないように森の支配者になるのだった。
エドガーの領地はノヴァの存在が大きく魔の森は比較的安全になり資源なども豊富に採取できるようになった為他に類を見ない速度で発展していった。
ただ、領地の急速な成長や様々な功績による爵位の昇格により他の貴族から疎まれ様々な嫌がらせが始まった事によりエドガーは年を重ねるごとに疲弊していった。
エドガーは可能な限りノヴァや他の魔物達に会いに行って居た。 エドガーが会いに来るたびに変わり果てて行く姿を見たノヴァは会いやすくするために領地の近くまで移動しようとしたがエドガーに止められた。 ノヴァが理由を聞くと「ノヴァが森に居てくれるお陰で僕たちは安心して採取や探索に来れるんだ」と言われ移動できずにいた。
その数年後に無理がたたり過労でエドガーは亡くなってしまった。 領民や兵士たちは悲しみに暮れノヴァは従魔の契約が切れた事によりエドガーに何かあったのかと思いエドガーの領地へ飛び立った。
領地に着いたノヴァは異変に気付き駆け付けた隊長にエドガーが亡くなった事を聞き怒り狂い王国を滅ぼそうとしたがエドガーのノヴァに向けた最後の言葉を隊長から聞き冷静さを取り戻し森へと帰っていった。
その後、エドガーが居なくなったことにより住処に帰ろうかと考えたノヴァだったがエドガーが最後まで愛した領地の生末を見届けるため残ることにした。 ノヴァは悲しみから魔の森の奥地へと居場所を移しエドガーに救われた魔物もノヴァに付いて行きノヴァが元居た場所はぽっかり空いた何もない空間だけが残されていた。
そして、長い年月が過ぎノヴァはレオナール達に出会うのだった。
誤字脱字、おかしい言い回し等あると思いますがよろしくお願いいたします。




