第19話 ノヴァの過去 その3
大変お待たせいたしました。
次の話で過去編が終わる予定です。
次の話も大分期間が空いてしまうと思いますが少しずつ書いていくのでよろしくお願いします。
王都の門番はドラゴンが見えてくると緊張した面持ちで様子をうかがっていた。 少しして将軍と共に門の前に降り立ったドラゴンを横目に将軍に挨拶をした。
「将軍、お疲れ様です。 こちらが例のドラゴンですか?」
「ああ。 報告に出した兵は無事戻って来たか?」
将軍の問いかけに兵士は小声で報告をし始めた。
「はい。 今、魔王様を筆頭に準備をし終わった者から配置についている状況です」
「魔王様は今どこにいるか分かるか?」
「魔王様は準備を終えて、民衆たちの前で自ら勧誘すると広場に向かっています」
「分かった。 此方もすぐに広場に向かうとする」
話も終わり将軍は門番から離れドラゴンに魔王が待っていることを伝え動き始めた。
「ずいぶん時間が掛ったな」
「報告をしていただけだ、それぐらい我慢しろ」
「まあいいだろう」
「それで、魔王様がお前に会いに広場に向かっているらしいから付いてこい」
「王自ら会いに来ているというのは良い心がけだな」
「な、そう言っていられるのも今のうちだ」
「ん? 今何か言ったか?」
「何でもない! 早く行くぞ‼」
自分たちの王に対して侮辱された将軍は怒りのあまり思ていたことを無意識に声に出してしまったが、ドラゴンには聞かれておらず難を逃れた。 将軍は急いで広場に向かった。
「魔王様、ただいま戻りました」
「将軍ご苦労であった。 それで、あれが報告に合ったドラゴンか?」
「はい」
魔王は将軍と話し終えるとドラゴンに近づき話し始めた。
「お前が噂のドラゴンか?」
「お前だと? 魔族風情があまり調子に乗るなよ?」
ドラゴンは魔王にお前と呼ばれ少し威圧しながら返答すると魔王は感心しながら会話を続けた。
「これほどとは、流石はドラゴンだな。 それで、何か話があるようだが?」
「そうだったな。 俺は、お前らの争いなどに興味も加担する気もないからこれ以上俺に関わって来るな」
「そんな事を言いにここまで来たのか?」
「そうだ。 来た奴らを殺してもまた新しい奴らが来てきりがないからな。 俺に殺戮を楽しむ趣味はないからな」
「ほう、それはすまない事をしたな。 だが、こちらもやすやすと引くわけにはいかないんだ。 大人しく我に従ってもらう! むざむざやられにここまで来たことを後悔するがいい‼」
「はぁ。 俺を前にしてまだそんな事を言えるとはたいしたものだな。 勘違いしているようだが、殺戮を楽しむ趣味はないが向かって来るなら別だ。 お前らがそれを望むなら相手してやろうじゃねぇか‼」
魔王はドラゴンの話を聞いても引かずに挑発をし始めた。 挑発されたドラゴンは怒りを通り越して呆れていたが、向かって来る者には容赦はしないと戦闘が始まった。
「まずはこれで様子でも見てみるか。 『ドラゴンブレス』」
「ふっ、ここに居る者に今更そんな攻撃が通用すると思っているのか?」
「ほう、そこそこの実力はあるみたいだな」
「こちらからも行かせてもらうぞ! 我に続けぇぇぇぇ‼」
「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」」
戦闘に参加している魔族は難なくブレスをしのいだが、街には甚大な被害が出て居た。
その頃避難場所では、避難した魔族達が遠くからその光景を見て、魔王に対して怒りだす者、絶望するも者、泣き出す者、恐れて震える者、逆に攻撃を防いだ事に勝てるのでは?と希望を抱く者、が避難場所を警備している兵士に押し寄せ大変な事態になっていた。
ドラゴンとの戦闘に命懸けで挑んだ魔王達だったが、いくら魔族の兵士といえどドラゴン相手では苦戦を強いられていた。 兵士達はかすり傷すら与えられない事に戦意を喪失仕掛けていた。 それに追い打ちを掛けるようにドラゴンは言葉を放った。
「お前達の攻撃程度ではいくらやっても傷すら負わす事ができないんだ。 もう諦めたらどうだ?」
その言葉を聞いた兵士達は膝を落とし完全な絶望へと変わっていったが、それを見逃さなかった魔王は魔法と共に大声で何かを叫び始めた。
「魔族達よ我々の力はこんなものではないだろう! あのドラゴンに魔族の恐ろしさを今こそ見せる時だ‼『トワイライト・エンシュラウディング』」
「魔王様! その魔法は……早く魔法を解除してください‼」
「ならん! ドラゴンを怒らせた時点で未来は無いのだ‼ 我の勝手でこんな事に巻き込んでしまったのだ皆の命を無駄には出来ん」
「ですが……。 その魔法で勝利出来たところで魔王様が居なくなってしまっては元も子もない話です」
「では、我の命が尽きる前に終わらせてくれ」
「はぁ。 そうなったあなたは何を言っても無駄ですからね。 早くこんな戦い終わらせましょう」
「あぁ、期待しているぞ。 友よ」
魔王と話していた魔族は話が終わると一直線にドラゴンの元へ駆け出していった。
「ドラゴン! まだ戦いは終わっていないぞ『カースソード』」
兵士たちが戦意を失くしていた為、反応が遅れたドラゴンは突っ込んできた魔族の攻撃を食らってしまった。
「グッ! 俺に傷をつけるとはなかなかやるようだな。 だが、こんな傷ダメージの内に入らんな」
「傷だけならそうだろうが、私の使った魔法『カースソード』は呪いも付与しますよ?」
「こんな呪いドラゴンである俺に効くとでも?」
「普段なら効果はあまりないでしょうが、今なら効果はあるでしょう」
「なんだと⁉」
「今は魔王様の魔法が発動していますから」
「いきなり暗くなったと思ったらそういう事か。 グゥハハハ、久しぶりに楽しくなってきたじゃねーか!」
「楽しむ時間は無いのでどんどん行かせて頂きます」
魔族はそう言葉を残すとドラゴンに向かって行った。 周りの兵士たちはドラゴンとの戦闘音を聞き視線を向けると一人の魔族が戦って居るのが見え驚いていた。
「え! あれは宰相様⁉ でもどうして戦って?」
「宰相様って戦えたのか? てっきり戦闘はあまりできない方だと思っていたのに。 あのドラゴンに手傷を負わせるなんて……」
兵士たちは初めて見る宰相の戦闘姿に驚きの声をあげていたがそこに将軍が話に割って入って来た。
「お前たちが知らないのは無理もないが、宰相様が弱い訳無かろう。 いくら頭がよくても魔王国では宰相の役につけるはずがない魔族は実力が何より重視されるのだぞ。 それに、あの方はこの国最強と言われていたのだぞ」
「将軍! ですが、宰相様が戦って居る所など見た事も……」
「それはそうだろう。あの方が居なくなってはこの国の守りが手薄になってしまうからな。 魔王様と宰相様が居たからどこからも攻められることは無かったんだ」
「そこまでですか‼」
「あぁ」
「そんな方でもドラゴンにかすり傷しか追わせられないのなら僕達では何をやっても無理だったんだ‼」
「何を言っている! 一人でドラゴンに勝てるのなら従わせるなんてまどろっこしいことするはずがないだろう」
「ですが……。 現に我々では手も足もでなかったではないですか‼」
「魔王様も命を張って居るというのにお前らには先ほどの言葉は届かなかったようだな」
将軍は兵士たちにそう言葉を残しドラゴンの元へ駆け出していった。 残された兵士たちは魔王が叫んでいた言葉を思い出しもう少し頑張ってみようと立ち上がった時、体の底から普段の数倍力が湧き上がってくる不思議な感覚に驚くのだった。
「な、何だこの感覚は?」
「お前もなのか?」
「まさか皆一緒なのか?」
「そ、そうみたいだな。 いったいこの力は何なのだ?」
今度はそこに部隊長が現れた。
「これが魔王様の魔法の力だ」
「魔王様の魔法?」
「そうだ。 だが、この魔法は諸刃の剣なのだ」
「諸刃の剣ですか?」
「この魔法は代々魔王になった者しか使えぬ魔法故あまり知られてはいないが、我々魔族が一番力の出せる夜に変え魔族の力を数倍以上にする魔法なのだ。 だが、この魔法は代償があり魔力ではなく生命力を使い発動する魔法なのだ」
「そんな! では魔王様は今そんな危険な魔法を?」
「そうだ。 だから宰相様が出てきているのだ」
「宰相様まで……。 それなのに我々は何をしていたんだ。 皆もう一度力を合わせてドラゴンに一矢報いるのだ」
「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ‼‼‼‼‼‼」」」」」」
部隊長と兵士が話をしている頃、将軍は宰相に合流し一緒にドラゴンと闘い始めた。
「宰相様、微力ながら加勢に来ました」
「おぉ、将軍か。 流石に一人ではどうしようもなかったから助かる。 今は私の魔法の呪いで動きなどが大分抑えられているからいいものの、それもそろそろ切れるだろうから心してかかるのだ!」
「はっ!」
加勢に来た将軍を見てドラゴンが話しかけ始めた。
「おぉ、お前はあの時の魔族か。 また俺にやられに来たのか?」
「そんなわけあるか! 今度こそ貴様を倒しに来たのだ」
「二人だけでか? 俺も舐められたもんだな」
「フン、そんなに傷を負わされて何を言うか。 この前の俺だと思っていると痛い目にあうぞ! 『メガ・フレイムエッジ』」
「はぁ、大きなことを言っておいて前回と同じ魔法じゃねーか」
舐め切っているドラゴンを見て将軍は不敵な笑みを浮かべながらその光景を見ていた。
「グッ、グァァァァァァ。 ハァハァ、な、なんだこの威力は⁉ 俺がこんな傷を負わされるとは何がどうなって……」
将軍が放った魔法は以前かすり傷しか与えられなかった魔法だったが魔王の魔法で威力が上がっている上、宰相の魔法の影響を受けていたドラゴンは大きなダメージを負った。
「俺たち魔族をなめているからそうなるんだ! 当然の結果だな。 このまま畳みかけさせてもらう‼」
宰相と将軍がこの勢いで倒しに行こうとした時、いきなりドラゴンが咆哮を上げ今までとはだいぶ違った雰囲気になっていた。
「グウォォォォォォ。 まさかお前らがここまでやるとはな。 もう遊びは終わりだ! こちらも本気で相手するとしよう」
ドラゴンの咆哮に大気が揺れ周りの建物が吹き飛んだ。 宰相たちに加勢しようと向かっていた部隊長と兵士たちはその光景に足を止めていた。
「今まで遊んでいただと……」
「将軍、気持ちは分かりますがしっかりすのです。 私も驚きましたがあの変わりようを見れば本当の事なのでしょう。 これからが本番です!」
「はっ、はい」
宰相の言葉に武器を構え直し応戦の体制をとった。
「これでも向かって来ようとするとはなかなかだな。 大抵の者は逃げるのだがな」
「まだまだこれからだ!」
「宰相様我々も加勢に来ました」
逃げずに向かって行こうとすると背後から声を掛けられ声がした方を向くとそこには先ほどまで立ち尽くしていた部隊長と兵士たちが立っていた。
「あなた達は……先ほどとは違いいい目をしていますね。 本当のことを言うと、どうしようかと思っていたところだったんです。 では皆さんお願いしますね」
「「「「「「「「「はっ‼‼‼」」」」」」」」」
「呪い系の魔法が得意な者は他の魔法は使わず呪い系主体で攻撃してください。 攻撃に自信のない者は大規模魔法の準備を、その他の者は様子を見つつ攻撃をしてください。 攻撃開始です‼」
宰相の作戦を聞き皆が「はい」と返事をし各自持ち場に着き宰相の合図で皆が攻撃を始めた。
「我々の街をよくも!『カースボール』『カースエッジ』『カースバインド』『エナジードレイン』『カースマインド』」
「お前ら今更そんな魔法が俺に通用するとでも思っているのか?」
「少なくとも効果が無いという訳ではないみたいだが?」
効果が薄いとはいえ止まらない魔法が鬱陶しくなってきたドラゴンは魔法を使い反撃を始めた。
「そうだな。 そろそろ大人しくしてもらうか『ヘルファイヤー』」
「守りの魔法だ!『イージス』」
複数人で同じ魔法を使い何重にもしたが「パリン」と音を立てながらドラゴンの放った魔法は兵士たちに向かって行った。
「何だこの魔法は! うわぁぁぁぁ。 魔王様お助……」
ドラゴンの放った魔法は無慈悲にも後方で魔法を使っていた兵士たちを一人残らず灰へと変えた。
「あんな魔法どうすれば良いというのだ‼」
「あの魔法はヤバすぎる。 大規模魔法の用意を急がせろ‼」
「はい」
ドラゴンの魔法を見た宰相は威力のヤバさに近くに居た兵士に指示を出し魔法の発動を早めさせた。 魔法の準備をしている兵士に指示されたことを説明しようとするとちょうどその光景を見ていた為すでに急いで準備を進めていた。
「流石にあんな光景を見せられたら時間の猶予なんてないからな」
「俺たちも此方に合流して手伝うから急いで終わらせるぞ」
「おう」
人員を追加し短時間で魔法を発動できる段階まで準備が終わった。
「宰相様‼ 発動の準備が整いました!」
「おぉ、やっとですか。 この戦いに終止符を打ちましょう‼ 皆、準備が整いました。 タイミングを見て退避してください。 巻き込まれたら命の保証はありませんよ‼」
「何か企んでるようだが簡単にはやらせると思ってるのか? 大方後ろの方に居る奴らだろ?」
ドラゴンが魔族たちがやろうとしていることに気づきまた魔法を発動しようとしたが一早く気づいた宰相が間に割って入り魔法の発動を阻止しようと行動した。
「させませんよ!『アンチマジック・プリズン』これで少しは時間が稼げます。 ただ、流石にこの魔法は消耗が激しすぎて逃げる時間は……なさそうですね」
「なんだこれは⁉ 魔法が発動できないだと」
「宰相様‼ 何を!」
「私の事は気にしないで早く発動を‼ この魔法はもう持ちそうにないですから」
「クッ、発動しろ‼」
「大規模魔法発動‼『ニヴルヘイム』」
大規模魔法が発動し辺りに冷気が蔓延し始めドラゴンも足の方から凍りつき始めた事によりどんな魔法が使われたのか分かり始めて来た。
「懐かしい魔法を使うなぁ。 大人数で使うから大規模魔法なのか。 本来ならば一人で使う究極魔法だがそれを再現するとは大したもんだ。 だが、こんな魔法じゃ俺は止められないぞ‼ 忌々しい魔法も効果が無くなったみたいだしな。 本物を見せてやる! 究極魔法『インフェルノ』」
ドラゴンが魔法を唱えると先ほどとは打って変わって灼熱に変わり、凍りついていた場所は解けて無くなっていた。
ドラゴンの近くに居た筈の宰相の姿は無く、宰相が居た場所には魔王の姿があった。
「そんな……。 これでも駄目なのか」
「おい、辺りが明るくなってきているぞってあそこに居るのは魔王様では?」
「お前何言っているんだよ。 あそこに居たのは宰相様だろ!」
数人の兵士は魔王の存在に気づき始めざわざわし始めた。
「何故魔王のお前がここに居るんだ? そこには別の奴が居た筈だが?」
「あ奴は移動させてもらった。 あ奴が居なくなるとこちらも困るからな」
「次の相手は魔王って訳か?」
「できればあの魔法で何とかしたかったのだがな。 『ブラッティー・ストライク』」
魔王はすぐさま魔法を使い攻撃を仕掛けた。
「やはり魔王だけあってできるようだな。 魔王にのみ使える魔法もあるそうだし早く使ってみてくれよ」
魔王の攻撃はドラゴンにダメージを与える事は出来たが決定打になる攻撃は無かった為、しびれを切らしたドラゴンは魔王のみが使える魔法を催促し始めた。
「そうだな。ここまでの被害が出るとは思いもよらなかったが、我も命を懸けて答えよう。『ライフブラッド サクリファイス』」
魔王が魔法を唱えると空間が裂け一体のモンスターが出て来た。 ドラゴンはそのモンスターを見て『ヘルファイヤー』を唱えると片手で打ち消された。
「まさかここまでの者が出て来るとは……。 ヘルファイヤーがこうもあっさりと破られるとはな。 面白くなってきたじゃないか」
「この魔法で召喚されたモンスターは貴様を殺すまで止まることは無いからな。 街の被害が少ないうちに終わってくれることを願っているよ」
魔王はそう言葉を残しその場に力なく倒れた。
「本当に命と引き換えにするとはな。 大した奴だ」
ドラゴンとモンスターの戦闘は激しさを増し、唯一効果のあった魔法が究極魔法だった。 ドラゴンは究極魔法『二ヴルヘイム』『インフェルノ』『スターメテオ』など様々な魔法を使い倒すことが出来た。
「まさかこんなモノを呼び出す魔法が存在するとは……。 流石の俺もこのままじゃヤバそうだな」
ドラゴンは戦いが終わるとそのままどこかへ飛び立っていった。 魔王国があった場所は周りには何もなくなり更地へと姿を変えていたのだった。 兵士や住民たちはというと、事前に魔王が魔法で被害の及ばない場所へ転移させており魔王以外は皆無事だった。 魔王は最後の力を使い宰相の元へ行くと遺言のようなものを残し体が崩れ去っていった。
「魔王様‼ 何故あの魔法を使われたのですか! 残された私たちは今後どうすれば……」
「宰相……いや、友よ。 こんな我に最後まで付いて来てくれた事感謝している。 魔王の座はまだ幼いが息子に譲るとしよう。 もし息子が困って居たら助けてやって欲しい。 お主になら任せられる。 どうか頼んだ……ぞ」
「魔王様、うっ、うっ、あなたは本当に昔から無茶ばかりして、こちらの苦労も少しは考えて欲しいものです。 後の事は私たちに任せて魔王様は何も気にせずゆっくり休んでください」
宰相は泣きながら魔王の最後を心に刻み約束を果たすため奮闘するのだった。
ドラゴンは戦いが終わり瀕死の重傷になり、意識が朦朧になりながらどこかの森へ倒れこむのであった。




