第18話 ノヴァの過去 その2
将軍はどう魔王国にSOSを伝えるか考えながら案内を続けていたが、国境の警備隊のいつもと違う態度に不安を感じながらも歩みを進めた。
魔王国に向かっている最中、退屈なノヴァは将軍に話しかけた。
「おい魔族。 そんなアイテムまで使って何故俺を従わせようとしていたんだ?」
「我々魔王国以外の国を攻め落とすために決まっているだろ」
「はぁ。 飽きもせずお前らはまだそんな事をしていたのか」
何百年経っても同じことをしている魔族に呆れながら返答すると将軍が苛立ちながら答えた。
「飽きもせずだと⁉ そりゃあ最初は平和に行こうとしたさ。だが、こちらが下手に出て居れば付け上がって来る奴らに力の差を分からせるのの何が悪いというのだ‼」
「悪いとは思わんが……。今のお前たちのやっていることと
何が違うというんだ?」
「そっ、それは……」
ノヴァに正論を言われ自分達も他の国と同じ事をしていた事に気づいた将軍は言い返せず黙り込んでしまった。
そのころ魔王国の王都では、将軍とドラゴンが国境を越えたと知らせが入っていた。
「魔王様。 将軍が国内に入ったと連絡が入りました」
「本当か‼ すぐに歓迎の用意に取り掛かれ。 それと、ここまで一人で大変だっただろうから部隊を編成して手伝いに向かわせろ」
「はい‼」
魔王の居る部屋を後にした部隊長は他の兵士たちに指示を出しに向かった。
「皆集まってくれ」
部隊長は先ほどの魔王の指示を共有すべく兵士を集めた。 集まった兵士の一人が何かあったのか部隊長に聞き他の兵士の視線が部隊長に集まった。
「部隊長。 何かあったんですか?」
「今しがた将軍がドラゴンと共に国内に入ったと知らせが入った」
「それは本当ですか!」
「ああ。 将軍は一人でドラゴンとこちらに向かっているが、それでは不測の事態が起きた時対処できないかもしれない。 なので、将軍の応援に行く部隊と歓迎の準備をする部隊を編成する」
「はい!」
部隊長は事情を説明をしてすぐに部隊の編成に取り掛かったが、皆が将軍の方に行きたいと言い出しそれを収めるのに苦労するのだった。
「では各自準備を済ませ迅速に行動しろ!」
「はっ!」
多少揉めたが全ての兵士は指示に従い準備に取り掛かり、将軍の応援部隊は早く合流する為に空の飛べる魔族のみで編成され出発していった。
王都から兵士が出発して少し経った頃、ドラゴンが此方に向かって来る何かの気配を感じ取った。
「何か此方に向かって来る複数の気配があるな」
「なに、気配だと⁉ 私には感じ取れないが……」
「当たり前だ! お前らと一緒にするな」
そのまま進んでいるとドラゴンの言ったとおり前方から味方の魔族が複数人向かって来ていた。
「本当だったとは……」
「将軍、応援来ました」
「ああ、すまんな」
「流石将軍ですね! ドラゴンを従え『まて‼ それ以上言うな‼ 理由は後で説明する』……。 わっ、分かりました」
応援に来た兵士は言おうとした言葉をすごい剣幕で将軍に止められ少し腰が引けてしまっていた。
「だが、何故応援なんか寄越したんだ?」
「そ、それは。 将軍が一人でドラゴンと共に戻ってきていると報告があり、不測の事態が起きた時対応できるようにと魔王様から言われたので」
「もう魔王様の耳には入っていたのか。 飛行能力のあるものをこんなに此方に寄越して王都の兵力は大丈夫なのか?」
「はい! それは大丈夫です。 なんせ、将軍がドラゴンを連れて来たという事で王都はお祭り騒ぎですから‼」
「なっ、何だと‼ それは本当か!」
「どうかしたんですか将軍? そんなに驚いて。 ドラゴンが味方になったのなら喜ぶのは当たり前じゃないですか。 ところで……。そのドラゴン隷属の首輪をつけてないようですが使っていないんですか?」
王都の現状を聞き焦りだした将軍だったが、応援に来た兵士に隷属の首輪の事を聞かれドラゴンに聞かれないように注意しながら小声で状況の説明を始めた。
「その事なんだが……。 実は任務は失敗した」
「えっ。 でも、ドラゴンと一緒じゃないですか?」
「それは、ドラゴン自ら警告に行くといって案内をさせられているんだ」
「そ、そんな……」
「王都にさえ戻れば全兵力を使って何とかできると考えて居たんだ。 だが、王都がそんなになっているとはな。 合流そうそうすまないが、二名ほど王都へ戻り今言ったことを至急魔王様に伝え準備を整えてくれ」
「ですがそれだとドラゴンに怪しまれませんか?」
「ドラゴンはこちらで何とか誤魔化しておくから急いで向かってくれ」
「わっ、分かりました‼」
将軍の説明を聞いた兵士はすぐに二名選出して王都へ戻っていった。 戻っていった魔族を見てドラゴンは不思議に思い将軍に問いただした。
「なんだ、合流したばかりなのに何故もう戻っていくんだ? まさかまた何か企んでるんじゃないだろうな?」
「そんな事はない。 魔王様に今からドラゴンが行くと報告をしに戻ってもらっただけだ」
「それならいいが、もし馬鹿な事を企てているのなら次は本気で潰しにかかるから覚悟しておけよ‼」
「わ、分かっている」
ドラゴンの圧を受け魔族たちの額からは汗が大量に流れ震えが止まらずにいた。
王都へ戻っていった二人の魔族は事の重大さから疲れも気にせず全速力で戻っていった。
王都へ着いた二人を見て門番の兵士は急いで駆け寄っていった。
「どうした⁉ 何かあったのか?」
「ああ。 至急部隊長と魔王様に報告しないといけない事がある‼」
「何があったというんだ? 少し休んでからの方がいいんじゃないか?」
「すまない、そんな時間はないんだ」
全力での飛行で疲れ切っている二人を見て門番の兵士は休む提案をしたが聞く耳を持たずそのまま城の方へ向かって行った。
「部隊長! 魔王様と部隊長に報告が」
「お前らは朝応援に出した部隊に居た二人だな。 他の者はどうした?」
「無事将軍と合流する事は出来たのですが……」
「そうかそうか合流できたか。 それで、その報告をするためだけに戻って来た訳ではないよな?」
「はい。 将軍から今回の任務は失敗したと」
「失敗だと⁉ だが、将軍はドラゴンを連れて帰って来ているだろ!」
「それは……。 ドラゴン自らもう来るなと警告しに向かっているらしく……」
「それは本当か!」
「はい。 なので、全兵力を使ってドラゴンを従わせようと将軍は考えているようです」
「分かった。 すぐに魔王様に報告に行かねば!」
城に着いた二人は部隊長に戻って来た経緯を説明して魔王のもとへ向かった。
「魔王様。 緊急事態です‼」
「なんだそんなに慌てて」
「今回の任務は失敗したようで、今ドラゴンが此方に向かっているのは警告するためだそうです」
「なんだと⁉」
「なので、将軍から全兵力を使いドラゴンを何とかしようと報告が来ました」
「分かった。 祭りの準備は中止だ! すべての兵士を集め戦闘の準備をしろ。 準備の出来た者から市民を安全な所に避難させろ! 今回は我も出る‼」
「はっ!」
部隊長は退室すると兵士たちを集めすぐに準備に取り掛かった。 ドラゴンと闘うと聞いた兵士たちの中には怯える者や実力が試せると喜ぶ者等様々な者が居り、事態を収めるのに苦労しそうだと思ったが魔王も参加すると伝えると騒ぎが収まった。
「今までにないような戦いがこれから始まるが皆の頑張りに期待している! 我々を下に見ているドラゴンに魔族の力を思い知らせるのだ‼」
「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」」
魔族たちが慌ただしく準備をしている中、ドラゴンは王都の目の前まで迫っているのだった。




