第15話 絶体絶命!?
最近領地の事に忙しく構ってあげられなかったシレンは元気が無かった。 領地で出来ることが一段落したレオナール達は森の調査に行く準備をしていた。 森に行くと分かった瞬間シレンはその喜びを体全体を使って表していた。
「兄様、森の調査に行くために必要なものは揃ってそうですか?」
「大体揃っては居るけど、初めて行くところで何があるか分からないからポーション類がもっと欲しいかな? ところで、シレンがすごい事になってるけどあのままでいいのかい?」
「ハハハ。 最近忙しくて構ってあげられてなかったじゃないですか?そのせいで森に行けると分かったとたん喜んでしまって……」
「(主様、準備終わった?)」
「流石にまだ終わらないよ」
「(えぇ~。森に行ったらいっぱい遊んでくれるんだよね?早く終わらせて行こうよ。)」
「森の調査に行くんだからずっとは遊んであげられないからね?それに、もう暗くなるから行くのは明日だよ」
「(そんなぁ~)」
森に居る間ずっと遊んでもらえない事と森に行くのが明日と言う事実にシレンはしょんぼりしてしまった。 そんなシレンの態度の変化を見ていた二人は不意に笑ってしまい、それを見たシレンは不貞腐れて寝室に行ってしまった。
「怒らせちゃったかな?」
「明日になれば元気になってると思うので大丈夫ですよ。 気になるなら明日すぐに行けるように早く準備終わらせちゃいましょう!」
「そうだね。 もしすぐに行けないって知ったらもっと怒っちゃいそうだしね」
そんな会話をしながら急いで準備を終わらせたレオナールとアルバートは眠りにつくのだった。
案の定起きてすぐにシレンの森に行こうコールが始まった。 予想通りの行動に二人は笑みを浮かべながら前日準備していた荷物を持って森へ向かった。
「(主様、ここの森にはどんな魔物が居るのか楽しみだね!)」
「嬉しいのは分かるけど何があるか分からないからちゃんと警戒するんだよ」
「(分かってるもん!)」
「それじゃあまずは、周りを警戒しながらルーンを探そうか」
「(うん!)」
ルーンを探しながら進んでいると本などでは見た事あるが、出会うのは初めての魔物ばかりで思う様に進めずにいた。
森に入ってすぐの場所にはスライムやウルフが居り、ウルフはすんなりと倒せたがスライムは打撃系の攻撃が効きづらく最初は苦戦していた。
「森に入ってそんなに進んでないのにこんなに魔物が居るなんて思いませんでしたね」
「ウルフがこんな入り口付近に居るんだ、奥にはシルバーレイク領の森に居た魔物より危険な魔物が居るかもしれないからもっと慎重に進んでいこう」
「そうですね。シレンも魔物を見つけても無暗に突っ込むのはやめてね」
「(は~ぃ)」
「こんな未知の森だとルーンが無事か心配です」
「心配だけどルーンは強いからきっと大丈夫だよ!ルーンの事だから逆に僕たちの心配をしてるかもしれないしね?」
「(お母さんはここに居る奴らなんかに負けないから大丈夫‼)」
より一層警戒しながら進んでいき中層部までたどり着く事が出来たが、時間も大分掛かってしまい安全そうな場所を探し野営の準備をすることにした。
「兄様、ここら辺とかどうですか?」
「周りもよく見えるし良さそうだね。でも、何でここだけこんなに開けて居るんだろう?」
「辺りも暗くなってきていますし考えても仕方ないので急いで準備しちゃいましょう」
「うーん?そうだね」
アルバートは違和感を感じていたがレオナールの言葉で気持ちを切り替えて野営の準備をすることにした。
野営の準備や食事も終わり眠る準備をしていた。周囲には魔物の気配はなかったが、何が起こるか分からない森の中に居るため交代で見張りに着くことになった。
「交代で見張りに立とうと思うけど、先にレオナールが休んでいいよ。朝から動きっぱなしで疲れているだろ?」
「それは兄様も同じじゃないですか。先に兄様から休んでください!」
「僕はあまり疲れてないから大丈夫だよ」
「本当ですか?」
「うん」
「分かりました。でも、時間になったらちゃんと起こしてくださいね!」
「分かったよ」
「絶対ですからね!」
「分かってるから早く休んでおいで」
「はい。おやすみなさい」
先にレオナールを休ませアルバートが見張りについた。シレンは久々に暴れまわって疲れたのかすでに眠りについていた。
交代の時間になりレオナールは自分で起きて来た。
「兄様、起こして下さいとお願いしたじゃないですか!」
「え?もうそんな時間? ちょっと考え事していたから気づかなかったよ。ごめん……」
「考え事ですか? 時間も忘れるなんて珍しいですね?」
アルバートは先ほど感じていた違和感が気になってしまって考え込んでいた。
「もう交代の時間なので兄様はゆっくり休んでください」
「分かったよ。お休み」
「はい」
レオナールと交代してテントに入って眠っていたが違和感が気になり過ぎて一時間ほどで起きてしまい結局眠れずにレオナールのもとへ向かった。
「兄様どうしたんですか?」
「いや、眠れなくて……」
「しっかり休まないと明日持ちませんよ?」
「少し眠れたから大丈夫だよ」
「でも何で眠れないんですか?」
「ここに来た時の違和感が気になっちゃって眠れないんだよね」
「違和感ですか? 僕は何も感じなかったんですが……」
「森の中なのにここだけ開けていて魔物も寄ってこないから変だと思ってずっと考えちゃうんだよね」
「言われてみれば確かにそうですね」
アルバートに言われてレオナールも違和感には気が付いたが考えても分からなかった為その話題はそこで終わった。 結局魔物の襲撃もなくこの場所に魔物達が近づいて来る気配もなかった。
朝になりシレンも起きて来たので朝食をとり森の調査とルーン探しを再開した。
「それにしてもあの場所はいったい何だったんですかね?」
「ルーンなら何か分かるかもしれないから早く合流したいね」
「はい。 シレン、ルーンが何処にいるかまだ分からなさそう?」
「(うん……。こっちの方から少し気配がするからこのまま行けば会えると思うけど、まだ大分先の方だと思う)」
「ありがと。じゃあ、このまま進もう!」
シレンが感じ取るルーンの気配を頼りに進んでいくのだった。
奥に行くにつれて魔物もどんどん強くなっていき苦戦を強いられていた。
「兄様、この森の奥の方に生息している魔物はどれも冒険者ランクB以上の冒険者が数組必要なレベルで僕たちだけでこれ以上進むのは無理です!」
「そうだね……。イビルボアやベノムヴァイパーは魔法で何とか勝てたけど、あそこに居るシャドウスパイダーは流石に今の僕たちじゃ無理だね」
「でも何でこんな凶悪な魔物が居るのに領地は無事だったんでしょうか?」
「やっぱり、この森には何か秘密があると思うよ?昨日から色々おかしすぎるからね」
「屋敷に戻ったら昔の文献とかをもっと調べてみましょう」
「(もう終わり?)」
「ごめんねシレン、流石に僕たちじゃシャドウスパイダーには勝てないから……」
「(う~ん。分かった)」
レオナール達は戻って森の事を調べることにした。
戻ろうとしたその時、シレンが吠えた。
いきなり吠えた事に驚きシレンの方を見ると『(来るよ!)』と言い、シャドウスパイダーが此方に攻撃を仕掛けようとしている所だった。
「やばい!気づかれた!」
「もう逃げられそうにないな。諦めて戦おう!」
シャドウスパイダーの攻撃をギリギリ躱しながら反撃を試みたが、ダメージが入る様子が一切なくどんどん追い込まれていった。 何もできずやられると思った時『グウォォォォォ』と言う咆哮と共に此方にすごいスピードで向かって来る影が見えた。
「なっ、なんですか今の声は!」
「分からないけど……。ここは森の中だ、味方というわけではない。ただ、声の主とシャドウスパイダーが争ってくれれば逃げる時間があるかもしれない!」
声の主に興味を移してくれるよう願いながらもシャドウスパイダーとギリギリの戦闘を繰り広げていた。 後衛の為、周りの状況を把握していたアルバートは一早く声の主の姿を捉えることが出来た。 声の主の姿を見たアルバートは絶望の表情に変わっていった。
「なっ、何であんな奴がこんな森に……」
「兄様、どうしたんですか!」
アルバートの焦った声にレオナールはシャドウスパイダーから目を離さずに問いかけたが、レオナールの声は届いておらず何かを呟きながら一人絶望していた。
「もう無理だ。僕たちは助からない……」
「兄様‼ しっかりしてください! 何があったと言うのですか‼」
アルバートの状態がつかめないレオナールは声を荒げた。
レオナールが声を荒げた事により我に返ったアルバートの体は震え、言葉に詰まりながら声の主の事を伝え始めた。
「れっ、れお、レオナール……。声の主が何なのか分かった。 あれは戦う以前の問題だ」
「兄様がそんな事を言うなんて。声の主はいったいなんだと言うのですか」
「声の主はドラゴンだ‼ だから……もし僕たちが逃げれても助かる事はない」
「そっ、そんな……」
声の主の正体がドラゴンだと分かりレオナールも絶望の表情に変わり、その隙を突かれシャドウスパイダーが攻撃を仕掛けて来た。
「(主様! 危ない‼)」
「えっ?」
攻撃をしようと飛び掛かって来ていたシャドウスパイダーにシレンが体当たりをしてレオナールな難を逃れた。 吹っ飛ばされたシャドウスパイダーの前にドラゴンが降り立った。
初めてまじかで見るドラゴンの迫力にレオナール達は足が竦んでその場から動けずにいた。
ドラゴンに勝てる筈もなくシャドウスパイダーは瞬殺された。 次にドラゴンはレオナール達の方に顔を向けた。
ドラゴンに見られたレオナール達は、戦闘とも言えないその光景を前に死を覚悟した。その時、ドラゴンの後ろから物音がした。 物音がした方に視線を向けるといきなりシレンが『(お母さん‼)』と声を上げ、物音がした方に駆けて行った。
シレンの駆けて行った方を見ると、そこからルーンが現れたのだった。




