第13話 旅立ちと領地の問題
翌朝レオナールはゼフィルに会いに屋敷へ向かうと、扉の前でメイドに止められた。 来た理由を聞かれ、任される領地の事を聞きに来たと答えるとメイドは「確認してきます」と言ってその場を後にした。
戻ってきたメイドに「今は忙しくお会いできない」と言っていたと言われ追い返されてしまったので、その日は仕方なく部屋に戻る事にした。 それから数日待っていると、部屋にメイドが訪ねて来た。
「旦那様がお会いになるそうなので付いて来て下さい」
メイドに連れられ執務室に入るとゴミでも見る様な目を向けられた。
「この忙しい時に何の用だ」
ゼフィルは機嫌の悪そうな口調でそう聞いてきた。
「僕の行く領地の事を教えて頂きたくて来ました」
「そんなどうでもいい話の為に私の貴重な時間を無駄にさせたのか!」
「どうでもいいって……大切なことです!」
「そんな事自分で調べろ。通達だけはこっちで出しておいてやるから十五歳になったら三日以内に準備をしてこの領地から出でいけ」
「分かりました。 それと、アルバート兄様も一緒に連れて行かせて頂きます!」
「あんな役立たず、連れて行きたきゃ勝手に連れていけ」
「終わったなら早く出ていけ!」
怒り始めたゼフィルを前にレオナールはすぐに屋敷を出て、準備をしアルバート達と合流した。
結局領地の状況が聞けなかったレオナールは、アルバートと共に冒険者ギルドや商業ギルドに情報収集に向かい情報を集めた。
情報をある程度集めたレオナールは領地に向かう準備を少しずつ進めていくのであった。
とうとう十五歳を迎えたレオナールは、お世話になった人たちに挨拶を済ませ自分の領地[ミストヘイズ領]へ向かうのだった。
ミストへイズ領は馬車で一週間以上かかるのだが、ルーンに乗せてもらうことで四日で着くことが出来た。 流石に街道を走ることが出来ないため、人目につかない森を突っ切る事になったのだった。
着いてそうそう目に入ったのは今にも倒壊しそうな家や瘦せ細った領民たちだった。 領主の屋敷の場所を聞くために話しかけようとしたレオナールだったが、家に戻られてしまい話すことすら出来ずにいた。
仕方なく道を進んでいると立派な屋敷が視界に入った。そのまま門まで近づくと兵士に止められた。
「そこの奴ら止まれ。魔物なんぞ連れて怪しい奴め!何の用だ」
「なっ……この度新しくここの領主になったレオナール・シルバーレイクです。そこを通してください」
「分かりやすい嘘をつくな!新しい領主が来ることは聞いているが、お前みたいなガキが新しい領主な訳無いだろう」
「通達が来てるはずですが……」
「確認してきてやるからそこで待って居ろ。もし嘘だと分かったら牢にぶち込んでやるからな!」
一人の兵士が確認の為に屋敷に走っていった。 確認に行った兵士が血相を変えて戻って来た。
「どうしたそんなに慌てて?やっぱり嘘だったか?」
「馬鹿やめろ!この方は本当に新しい領主様だ!」
「なっ、なんだって!……先ほどは無礼な態度をとってしまい申し訳ありませんでした!」
本当の事だと分かったとたん態度を変えた兵士に呆れながらも質問をした。
「はぁ。分かってもらえてよかったです。ここを任されていた代官は今どこに居ますか?」
「代官様は新しい領主が来るからと出ていかれました」
「えっ……それは本当ですか!」
「はい」
引継ぎもせずに出て行ったことを知ったレオナールは、アルバートとの話し合いの結果、これはゼフィルの嫌がらせだと結論付けた。
屋敷に入ったレオナール達は、領地の状況を確認するために書類に目を通す事にしたが、思っていた以上に悲惨な状態だったため頭を悩ませていた。
「こんな状態で良く持っていたなぁ。領民の態度にも納得がいったよ」
「そうですね……僕は明日領内を見て回ろうと思います。兄様はどうしますか?」
「僕はもう少し調べてみるよ」
「分かりました。そちらの方はお願いします。僕もスキルで何とか出来そうな所は頑張ってみます」
「明日から忙しくなりそうだね。でも、今まで苦労を掛けた領民には幸せになってもらいたいから僕たちが頑張らなくちゃね」
「はい!」
レオナール達は着いてそうそうこれまで苦労してきた領民の為に良い領地にしようと決意するのだった。
早速とばかりに領民たちへ挨拶に行ったレオナールだが、新しい領主が子供だと知った領民たちの不安は増していった。
領主と言う事もあり、最初のような態度では無く話を聞いてもらえはしていたが、歓迎はされて居ない事はレオナールでも感じ取ることは出来ていた。
根気よく話しかけていたレオナールだが、どの領民も畑ややる事があるなどを理由に相手にされずに居た。結局その日は何の成果もなく帰っていくのだった。
「兄様調子はどうですか?」
「大分酷い状況だね。レオナールの方はどうだった?」
「こちらも全然駄目でした。話しかければ少しは会話してくれますが、素っ気ない感じで良くは思われて無いみたいです」
「それはしょうがないよ。今まで酷い目に合ってたみたいだから、すぐには信用できないでしょ」
「そうですね。何とか認めてもらえるようにならないと!でも、何から始めればいいですかね?」
「そうだなぁ、まずは食料からどうにかした方がいいかな」
「食料ですか?」
「うん。家はまだ住めているからいいけど、現状だと圧倒的に食料が足りていないんだ」
「分かりました。明日は畑関係を重点的に見て回ってみます」
「よろしく」
畑を回ってみたレオナールは、畑の作物が殆ど育ってない事に気づいた。領民に許可を取り数か所の畑にスキル【土壌改良】を使わせてもらい様子を見ることにした。
畑を使わせてくれた領民も半信半疑だったが、スキルを使った後の土を見て驚いていた。まだどのような効果が見込めるか分からない為、種を植えて数日様子を見ることにしたのだが翌日、兵士と領民が言い争っているのを見たレオナールは門の方へ急いだ。
「いい加減落ち着け!」
「領主様に早く伝えないといけないのです。通してください」
「今確認に行くから大人しくしてくれ。これ以上騒ぐなら『どうしたんですか?』……え?」
「「レオナール様‼」」「領主様‼︎」
「言い合いなんかして何かあったんですか?」
「確認するから待てと言ったのですが、この領民がレオナール様に会わせろと無理やり屋敷に入ろうとしてまして」
「それは……畑の事ですぐにお伝えしたい事がありまして」
「畑で何かあったんですか!?」
「はい。領主様もう畑に芽が出てるんです!」
「えぇ!昨日植えたばかりの所ですか?」
「はい。急いで報告をと思いまして……」
レオナールは報告に来た領民と急いで畑へと向かった。 畑に着いたレオナールはその光景に驚愕していた。
「一日でここまで成長するとは……」
「はい。私も朝見に来た時に驚きました」
そのままスキルを使った他の畑を確認に行くと、すべて同じ状態だったのを見てスキルを使ってない残りの畑にもスキルを使って回ったレオナールは、屋敷に戻りアルバートに報告した。
「兄様、食料問題は解決しそうです!」
「えぇ!もう? 昨日始めたばかりだよね?」
「はい。数日様子を見ようと思ってたのですが、畑を確認したらすでに芽が出てきてました」
「じゃあ、後はちゃんと育つかだね」
「そうですね」
食料問題が解決に向かって行ったので、次の問題を解決する話し合いがされていた。 話し合いの結果次は家の問題に着手する事にした。
領民の家は今にも倒壊しそうなほどボロボロな為、前世の記憶とスキルを頼りにアパートのような建物を先に作ることにした。
領民を集めて家を作り直す事を伝えた。 畑の件で信用しだした者は出てきたが、未だ信用出来ていない者が大多数を占めていた為反対意見が多かった。
「集まってもらいありがとうございます。食料問題がある程度解決に向かっているので、次は皆さんの住居を作り直していこうと思います」
「そんな簡単に作り直すなんて言われても、私たちには生活があるのでいきなり言われても困ります」
「そうです。これまでされて来た仕打ちを考えると信用する事は出来ません」
「少しぐらいは信用してもいいんじゃないか? あの畑を見ただろう?これまでの領主と違って私たちの事を考えてくれてる気がするぞ」
「どうだかな。畑の作物だって育ったら税とか言って殆ど持っていかれるに決まっている!」
レオナール達の事を信用できていない領民たちは「そうだ、そうだ!」と反対意見に賛同し始めた。 過去の領主によって虐げられていた領民たちのこの反応は当たり前とも言えた。 昔は豊かで住みやすい領地だったが、何代か前の領主に変わってから全てが一変した。
領主が私欲を肥やすために重税を課し、その事に意見しようものなら罪に問い投獄される為、町を出て行こうと考える領民が後を絶たなかったのだが、周りが森に囲まれている為諦めるしかなかった。
「皆さんに来たばかりの僕を信用できないのは分かっています。なので、少しでも信用してもらうため先に仮の住居を作るので家が出来るまでそこに住むと言うのはどうでしょうか?」
「ここまで言ってくれているんだ少しは信用してみないか。こんな子供がここまで言ってくれているんだぞ!」
「そうだな、少しは信用してみるか」
レオナールの真剣な表情を見て少しずつ心を開き始めた領民はその提案をのんだのだった。 レオナールはそのまま開いている土地に二階建てで十部屋あるアパートを五棟建て、領民は見た事のない家に困惑しながらも移り始めて来た。
「領主様、これが家ですか?」
「はい。見た目はあれですがちゃんと住めますよ」
「はあ、大きい街ではこんな家があるんですね」
「いや、この家はアパートと言って他にはないと思いますよ」
「あぱーと?ですか?」
「はい。まずはこのアパートの使い方の説明をしますね」
アパートの説明を聞いた領民は、住んでいた家と違いやその快適さに驚きながらも喜んでいた。
その日は荷物の移動などに時間が掛り辺りが暗くなって来てしまった為、本格的に始めるのは翌日からという事になった。




