相対
その軽装の女戦士は、目の前にいる敵と相対していた。
レンガブロックを無造作に積み上げて人の形にした無骨な魔物、ゴーレムと。サイズは人の大きさ程であり、胴体には不釣り合いな大ぶりな剛腕を両脇にぶら下げている。
ゴーレムは無感情に体を向け、女剣士は毅然とした態度でロングソードを両手に握っている。
このゴーレムが出現したのは突然のことだった。というのも、女剣士が冒険の途中でとある村に立ち寄って休んでいる時に不意に現れたのだ。
そして、ゴーレムを見て慌てた村の村長は、邪悪な魔導士が村を襲撃しようと目論んだに違いないと判断し、村を守るためにゴーレムを討伐してほしいと頼まれた。
ゴーレムを討伐すれば、報酬は弾むし村の宿屋の料金は特別に支払わなくても良いと言う。もらえるものはもらう主義であり、手持ちの少ない現在で金を払わずに好きなだけ宿屋を使わせてもらえるのは大変ありがたいことだった。
しかも、目の前にいるのは何度も打ち倒してきたものと同じゴーレム。これほど好都合なことがあるのだろうか。恐らく討伐すれば英雄視されて好待遇を受けることができるだろう。
女剣士はにやりと笑って剣を構えなおし、ぼんやりと佇むゴーレムに向かって疾走した。長い髪が風にたなびく。
ゴーレムの弱点は分かり切っている。本体の心臓部分にある、魔力の塊を剣の切っ先で串刺しにすればいいだけの話だ。そうすれば、ゴーレムは文字通り崩壊して無残なガラクタと化す。
これまでのゴーレムはそうだった。だから今回も同じようなものであるに違いない。
剣の射程範囲に入り、女剣士は助走をつけたまま、ゴーレムのレンガブロックの隙間に剣を滑り込ませて魔力を潰した。
手ごたえがある。次に聞こえてくるのはゴーレムが崩れ落ちる音。そう考えつつ、自分が村人たちからどのようにもてなされるべきか思考を巡らせる。
だが、その考えは、後頭部への強烈な一撃を受けて無残にも消え失せた。
何が起きたのか分からなかった。女剣士は、頭から血を流しながら恐る恐る顔を上げる。
そこには、心臓部分を貫かれてもなお平然としているゴーレムの姿があった。
「え・・・どうして・・・」
混乱する女剣士をよそに、ゴーレムは女剣士の首根っこを片腕でがっしり掴み、もう片方の剛腕でその腹部に強烈な一撃を叩き込んだ。
唾液と血液が混ざった吐しゃ物を噴出しつつえづくような声をあげる女剣士。
「だ、誰か・・・助け・・・」
そんな声など誰にも届かない。誰も助けてはくれない。
ゴーレムは冷酷に女剣士の腹部を殴り続ける。
このゴーレムを作った魔導士は賢かった。
巨大な魔力の塊を心臓部分に1つ挿入するのではなく、その塊を分割して四肢と頭部にも入れておいた。
これらが全て破壊されない限り、ゴーレムは動き続ける。だが、それを女剣士が知る由もなかった。
そのうち、グチャという音が響き、それが子宮の破壊される。
それと同時に女剣士は痛みのあまり気絶したが、当然これで終わるわけがない。
ゴーレムは、自身の心臓部分に突き刺さった剣を引き抜くと、おもむろにそれを振り下ろす。
その後、女剣士の首が飛び、その断面から噴水のごとく血液を吹き出してゴーレムの下半身を赤く染め上げていった。