修羅場の罠
ピーンポーン…
部屋に鳴り響く2度目のインターホンチャイム。
くそ、普通1度目のチャイムで出なかったら帰るだろ!!なんで2度も鳴らすんだよ!!
すると突然ピルルルル!と着信音が鳴り出す。
「っ!?」
今度は何だよ!?
ビックリしたのを隠すように音の先を見ると、鳴っているのは俺のスマホだ。
「咲夜、そんなに焦ってどうしたの?インターホンも出ないし…ほら、スマホも鳴ってるわよ?」
急かすようにそう言いながら俺のスマホを手に取り俺に差し出してきた。
それを若干奪うような形で取り上げると、画面には【夢々】と表示されている。
「…っ!?」
驚いてインターホン画面を見てみると、スマホ片手に外で待つ夢々の姿が映っている。
なんなんだよ!?なんで電話までしてくる!?
いや待てよ、まさか何か約束でもしていたか…?いやいやいや、それは有り得ない!俺が夢々相手にそんな凡ミスするはずが無い。
「咲夜さん、どうかしたんですか?大丈夫ですか?」
俺の焦りようを察し始めたのか、遥が少し不振そうな表情で声をかけてくる。当然、真奈美も首を傾げて俺を見つめている。
美優に至っては何だか不敵な笑みでこちらを見ている。
まさか…こいつ、何かしやがったな…?
俺の交際関係を調べて夢々に何か吹き込みでもしたか?
そうこう考えているうちに、突然美優がインターホンのボタンを勝手にONにし始めた。
「…なっ!お前、何勝手に…!?」
『もーー!咲夜、やっと出た!!呼び出しておいて居ないかと思ったよ!電話にも出ないし!寒いから早く開けてよー!』
「は、…よ、呼び出した?俺が?」
すると俺を遮るように美優が俺の目の前に出てきた。
「夢々、ごめんね。私よ、美優」
『え!美優?なんで美優がここに?』
「詳しくは中で話すから、上がってきてくれる?」
俺を他所にそんな会話を勝手に進める美優が俺の部屋からセキュリティロックを解除し始める。
「おまっ…!美優、お前何勝手な事を!いやそれよりも、夢々と知り合いだったのか!?」
「真奈美も遥も、話をちゃんと聞いていた方が身の為よ。本当は愛華と優子にもいて欲しかったんだけど…仕方ないわね」
コイツは一体なにを言っているんだ?
俺の問い掛けには応えず遥と真奈美にそう声をかけ、夢々が部屋へ来るのを待つように腕を組んでいる。
「おい、美優…!どういうつもりだ!?俺の交友関係でも調べて探偵気取りか?俺の彼女はそういう事はしないって約束だろう?」
「…そう慌てないでよ。夢々は元々私の友達なの。別に咲夜の身辺調査なんてしてないから安心して。ああ、でもまあ、そうは言っても少しだけ調べさせてもらったけど…」
ピピ、ガチャリ…
美優が話しているとロック解除音が玄関の方から聞こえてきた。
「咲夜ー?美優ー?いるの…?」
そんな声とともに、リビングのドアがゆっくりと開かれた。
「なんでこんなに静か……?ってこれどういう状況?」
リビングで皆が立ち尽くしていて、ドアから入ってきた夢々に全員の視線が集中する。
そりゃあ「どういう状況?」と口にしたくもなるだろう。
俺だってよく理解出来てないんだからな。
「さあ、美優…どういうつもりか聞かせてもらおうか?」
もういい。この際、夢々以外は切るか。
そうすれば何とでも適当に言って、夢々にさえ分かって貰えればいいからね。三軍のコイツらはどうだって良い、つべこべ言うようなら後始末は事務所に丸投げすれば解決だ。
正直、遥は惜しい事をするが…夢々と天秤にかけると…いや、遥レベルの見た目じゃ天秤にかけるまでも無い。
「どういうつもりって?そうね…言いたい事は山ほどあるけど結論から言うわ。夢々、この男は駄目よ、正真正銘のクズだから今すぐ別れた方が良いわね」
いや待てなんだコイツ、突然なんて事を言い出すんだ。
「おいおい、美優何を言い出すかと思ったら…突然何のつもりなんだ?」
どういうつもりかと思ったらコイツ、まさか夢々と俺を別れさす為にわざわざ三軍彼女になったのか?大金まで注ぎ込んで結構な事だな。
まあ夢々とは別れず、お別れはお前ら三軍だけどね。
その為にはまず美優より先手を打つ必要がありそうだ。コイツは何か俺の不利になるような事を掴んできたに違いない。
じゃなきゃこんな修羅場みたいな状況にする必要もないしな…
「はは、もしかして美優は何か勘違いしてないかい?」
「…勘違い?」
美優に話の主導権を握られないよう、少し大袈裟な身振り手振りで皆を見ながら話す。
「ファンだって押し掛けて来たから、無下にも出来ずにこうして一緒に何度か食事もしたじゃないか…なんでクズだなんて酷い事を言われなきゃいけないんだ?」
「…っえ、咲夜さんそれはどういう、」
遥が何やら言いたそうだが、正直どうでも言い。
この場では如何に夢々を信用させるか、が大事だ。
まあ、大体こいつらがおかしな事を言っているで済ませておけば良いだろう。夢々はそんなに頭は良さそうなタイプでは無いしね。
「どうもこうも、そのままの意味だよ。君たちは俺の追っかけをしていただろう?家まで割り出して数人で押し掛けてくるから…まあでも、悪い子達でも無そうだしって数回食事に招いたんじゃないか」
「ちょ、ちょっと待ってよ咲夜、!そんな…、」
ちっ、真奈美まで出しゃばって来たか。
まあいい。夢々は黙って話を聞いているし、不振そうな表情もしていない。このまま行けばコイツらをおかしな奴だって事に出来そうだ。
あとは事務所にポイすれば面倒臭い事はおわりだな。
「夢々、この子達はそういうファンの集まりなんだ。驚かせて悪かった…それに家に上げたのも軽率だったよ、」
そっと夢々の手を取り、目を見つめてやる。
キョトンとした表情で俺を見つめ返している夢々は、理解出来たのか、それとも訳が分かっていないのか「えっと」と困ったように眉を下げた。
「夢々、騙されちゃだめよ。この男はついさっきまで他の女にもキスしていたような男よ。それに、ここにいる2人だけでも幾ら咲夜に貢いでいると思う?数百万円は優にに超えてるのよ。それに女性を何人も囲って一軍〜三軍までランク分けまでしてるんだから」
な、コイツ…!どうやってその事を…!
というかなんて言う事を暴露しやがるんだ。くそ!
遥と真奈美は自分達の立場を少しずつ理解し始めたようで、少し顔が青ざめている。が、何度も言うがコイツらはどうでも良い。サラ金で借りてきた金を俺に貢いでいようが、身体を売って稼いできた金であろうが俺には全く関係の無い事だ。こいつらが好きでやっていた事なんだからね。
「夢々、美優の言っている事はデタラメだよ。彼女は今ちょっと気持ちが動揺しているんだ。自分の事を俺の彼女だって妄想で勘違いをしていたみたいだからね…」
「はぁ!?何言って、ーーー」
ピンポーーン、
「…、?」
なんだなんだ、またインターホンが鳴ったぞ。
まさか美優の奴、まだ他に誰か用意しているのか?
そう思い美優の顔を見るが、当の本人も眉をひそめてインターホンのモニターと俺を見比べるように目線を動かしている。
「夢々、悪いね。ちょっとインターホンを見てくるよ」
「えっ、ああ、うん」
握っていた夢々の手を離し、インターホンモニターを覗いた。
「………は、?」
その先に映っていたのは思わずアホな声が出てしまうような相手。
何故今このタイミングに何の為に来たんだと若干の苛立ちを隠しながらも、ピ、とインターホンマイクをONにした。
「…何の用、ーーー」
「やっほおぉおおぉお!咲夜ぁあー!開けろおー!」
「すみませんッス!止めたんスけど!!」
「まあまあ、良いじゃないか。良い機会だろ?」
「お、怒られますよ!それに夜遅いんでもう少し声を…!」
…………。
一体何がどうなっているんだ。
「………。」
「咲夜?…誰だったの?」
「なんか大人数いるみたいね」
夢々と美優が口々にそう言いながら、モニターへ目線を送る。
「…ああ、えっと」
くそ、インターホンに出た事を今心から後悔しているよ。