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咲夜キャバクラ

「じゃあ咲夜さん、お話した通り明日からは事務所でゲームの練習お願いしますね!」


 自宅マンションへ到着するとマネージャーがそう一言言い、運転席から振り向いて俺を見た。


「ああ、了解」


 お話した通り、とは来月出演が決まったゲーム番組の収録の事だ。


 なんでも、番組出演にあたってゲームをやり込んでおいて欲しいと。

 あの人気バンドheaven's kissもハマっている超人気ゲームというタイトルになるらしく、これからハマれと言う事らしい。


 なんともヤラセ臭いハマり方ではあるが、ゲーム自体は好きな方だ。それに、あのファスプレだ。興味はある。


「とは言っても、実際ちゃんとしたハードのゲームなんて何年振りだってくらいやってないからなあ」


「はは、ですよね。咲夜さん忙しいですし、ゲームなんてやる時間ないですよね。あ、でもスマホゲームとかは結構やってますよね」


「んー、まあそうだね。ゲーム自体は割と好きな方だしね。フルダイブ系も昔はよくやってたよ」


 話しながら車のドアロックを解除し、ノブへ手を伸ばした。


「へえ!そうなんですか!…と、長話してすいません!では、明日また事務所で」


 俺がドアを開け始めた事に気がついたマネージャーが慌ててそう言うと「りょーかい」と軽く返事をし、車から降りるべく足を伸ばした。


「では、お疲れ様でした」


「はいはいお疲れ〜」


 再度軽い返事を返し車を降りると、バタンと車のドアを閉める。

 それを確認したマネージャーが俺に軽く会釈し、車を発進させた。


「あ〜疲れた〜」


 両手を上げ、ぐーと身体を伸ばしマンションの入り口へ足を進めると、エントランスで様々なセキュリティを解除して中へ入る。最近新しく引っ越したタワマンだ。

 前の家より、かなりグレードアップした部屋に気分よく足を踏み入れると、パタパタと足音が聞こえてきた。


「咲夜!おかえりなさい!ずっと待ってたんだからァ!」


「あぁ、ただいま」


「あー!ズルイ!抜けがけはダメだって言ったじゃない〜!」


「ふふ、そんなガツガツしてると咲夜に引かれるわよォ〜?」


 玄関先で声をかけて来た女性達。

 彼女たちは今夜、咲夜キャバクラとして家に呼んだ数多くいる彼女の中の三軍彼女達だ。


 俺程の男にもなれば勿論、彼女も一軍から三軍までいる。

 三軍はファンの中から良さそうな子を厳選して選んだ、所謂(いわゆる)特別になれた女の子たちだね。顔やスタイルは勿論の事、口が硬いのも大切だ。ああ、それとお金を稼いで来られるのも条件だね。

 専用の口座に月々10万円以上振り込める子じゃなきゃ残念ながらお付き合いは無理だ。

 三軍彼女共は俺に切られたく無ければ出来るだけ高額入金が必須って訳さ。


 ちなみに三軍の彼女達は俺が複数人の女と付き合っているのも承知の上なのが扱いやすい所だね。


 だが二軍ともなれば、話は別。

 三軍の女どもより数は減るが、質はかなり上がる。

 読モやインフルエンサー、SNS等で活躍する様な女達だ。ファンから取って持ってきた様な女とは訳が違う。

 だが、気をつけなければならないのが、二軍の彼女達は他に女がいるのは何気無く知ってはいるが、皆自分が本命だと思っている。

 こういう女共は放っておくと匂わせってヤツを発信しかねない。

 まあ、あんまり面倒臭い事をするようならすぐに切ってしまえばいいんだけどね。


 そして肝心の一軍彼女だが…

 勿論、一軍は超スーパースターとも言える彼女達だ。

 数もそうそう多くない。名高い歌姫に、超人気女優…

 現在一軍の彼女はこの2人のみで、両者とも自分としか付き合っていないと思っている。

 流石にこのレベルの女ともなればそれくらいの扱いをしなければ手に入らないからな。

 ま、それでも簡単に手に入れられてしまうのがこの俺なんだが…はは、我ながら罪な男だ。こんなにも多くの女性に愛されてしまうなんて。


 そうそう、そう言えばそろそろ二軍から一軍に昇格させてやってもいい子が1人居るんだけど、彼女はただのインフルエンサーらしい。

 正直彼女のSNSには興味無いし、見た事も無いんだけど話によるとSNS上ではそこそこ人気者らしい。二軍の女は自分が1番じゃないと気づくと、俺を諦めて他の低レベル男に乗り換える奴も少なくない。が、彼女は他の男にやるには勿体ないレベルの見た目だ。それに、二軍女には珍しいそこそこ貢いでくるタイプなのも得点が高い。

 けど俺の一軍彼女になるなら、それなりのスター性がないとね。ただのインフルエンサーだなんて話にならない。

 見た目や性格は一軍レベルだし、モデルでも勧めてみるか…?それでヒットすれば昇格って言うのも有りかもしれないな。


 とまあ、お気づきだとは思うが…俺はただのモテ男ではない。

 超スーパーモテ男なのだ。


 どれくらいモテるのかって言えば、この世にある言葉では表しようがない。が…強いて言うなら俺を見た女は全て俺に惚れる、とでも言っておこうか。


 まあそんな訳だから、咲夜キャバクラとは銘打ったが、この女どもは俺が金を払って呼んだ訳じゃない。

 なんなら一円たりともくれちゃいない。むしろ女の方が喜んで金を運んでくる。

 高級な酒と食事を持参し、無償で俺を接待しに来た女達なのだ。


 どこかのモテない芸人が10億払って極上の女を裸で踊らせる、なんて馬鹿げた事を言っていたが、そんなもの俺にかかればノーマネーで叶うって訳だ。


 とまあ、そんなアホみたいな事をするかどうかは別として、その辺のただのモテ男とは次元が違うって話。


 ちなみに今日呼んだのは、優子、愛華、遥、真奈美、美優の5人だ。

 最近この5人は金払いランキング上位だからね。手厚くもてなしてやらないとな。


「咲夜ァ〜!そんな所で立ってないで、早く飲もうよ〜?今日はライブお疲れさまァって事で、すっごく良いお酒持って来たんだからァ♡」


「ああ、そうだな。ありがとう」


 俺が帰る前に女だけで少し飲んでいたのか、少しの酒の匂いとともに甘ったるい口調の彼女、優子が俺の腕を取った。


「そーね!早く乾杯しましょ!」


 それに続き、愛華が仕切る様にパン!と軽快に手を叩く。


「待たせて悪かったね、さあ俺のグラスも用意して」


 三軍の彼女達は実に優秀だ。

 嫉妬だの妬みだのは表に出さず、彼女達同士もそれなりに仲良くやっている。

 というか、それがいかに無駄なことかをよく知っているのだ。

 過去に問題を起こした女は俺が切り捨ててきたからね。俺は誰のものにもならない。みんなの咲夜なんだとよくよく分かっているらしい。まあ、それでも分からない奴はたまにいるが、そうなればまた新しい女と交換すればいい話。


 そもそも誰か一人に絞るなんてのは一般人の考えた下らないルールだ。俺はその辺の奴らとは土俵が違うんだから、俺だけ一夫多妻制っていう新ルールを作ってくれないと困るね。

 とは言ってもまあ、養う気はさらさら無いから自分で稼いできてくれないと俺の妻にはなれないがな。はは!


「はい、咲夜さんどうぞ」


 丁寧な口調で俺に酒を渡すのは遥。

 こいつは他の彼女とは違い見た目はまぁまぁで、あまり喋らず大人しい。本来ならば三軍にも入れるか迷うレベルの女だが、金払いがとにかく良い。それに大人しい分面倒臭い事も言わないし、口も堅い。

 三軍以上に上がる事は絶対にないが、俺が手放す事もまず無いだろう。


「ありがとう、遥」


 透き通る高級なワイングラスに美しい赤色が揺れている。


「はァ〜い!じゃあ、改めて…咲夜お疲れ様ァ〜かんぱァ〜い♡」


「「「「かんぱーい」」」」」


 リン、とベルのような美しい音色が響く。


「いいね、やっぱり良いグラスは音が綺麗だ。新しい物か?もしかして遥が買ってきてくれたのかい?」


「ええ、以前にワイングラスが一客割れてしまったと言っていたので…折角なのでセットの物を...」


「さすが遥だね、俺の好みをよくわかってるよ」


 遥の頬にチュッとキスし、美しいグラスを眺める。

 これはバカルのワイングラス…セットで10万円くらいか?

 流石は遥、俺の新居に相応しいグラスだな。


「ええー、遥さんばっかり褒めちゃずるいー!アタシも咲夜の為にコレ買ってきたんだから!」


 口を尖らせてそう言う真奈美は、綺麗に包装された箱を俺に差し出してくる。


「これは?」


「開けてみて?」


「!これは…俺が欲しがっていたロレクシィの腕時計じゃないか!真奈美、すごく嬉しいよ。ありがとう」


 お礼を言いながら優しく頭を撫でてやると、さも満足そうにしてる。

 彼女達にはこれが報酬のようなもので、何ともイージーだ。


「えへへ…そんなに喜んでくれるなんて、奮発して買った甲斐があった!」


 いつもプレゼントを持ってくる遥に対抗でもしたのか、遥のワイングラスの10倍以上の値段もする時計だ。

 GPSとか盗聴器がついていないか後で念入りに調べた方が良さそうだな。


「咲夜は明日もお仕事なの?」


 もらった腕時計を付けていると、覗き込むように美優が首を傾げた。


「そうだよ、事務所でゲームしろだってさ」


「え?ゲーム?」


「そ、ゲーム。来月の出演番組で特集されるゲームなんだけど、それを一ヶ月練習しとけってさ。まあ、ゲーム自体は好きな方だし、少し楽しみでもあるかな。First(ファースト) place(プレイス)ってやつなんだけど知ってる?」


 ワイングラスに口をつけながら彼女達の顔を見たが、ゲームなどには興味無さ気な彼女達はやはり知らないのか、顔を見合わせて首を傾げている。


 まったく…夢のない奴等だ。化粧やアクセサリーで自分を着飾るのも良いが、こういう遊び心が無いのはマイナスポイントだよな。

 次はもうちょっとこういう話も分かる子を探してみよう。


「あ、それ知ってる!アレでしょ?あのフルダイブ型とか言う仮想空間に入れるタイプの。ちょっと面白そうよね!」


「……!」


 次の女は、なんて考えていたら人差し指を立てた美優が笑顔でそう言った。美優がファスプレを知っているのは正直意外だな。


 ここに来る彼女たちは皆ゲームに興味なさそうではあるけど、その中でも美優は特に興味が無い思っていたが…


 他の女は全員、俺の気を引く為に俺と同じスマホアプリを必死になってやっているというのに、美優だけはインストールすらしていないのを知っている。まあ、課金用の金だけは俺に送金してくるがな。

 そんな彼女から()()()()()()なんて言葉が出たのも驚きだ。

 それともファスプレが有名なだけか?


「へえ、美優がゲームに興味あるなんて知らなかった。いつも俺がやってるスマホアプリとかには特に興味なさそうだったじゃないか?」


「うーん、まあそんなに詳しい訳じゃないけどね。仮想空間ってちょっと興味あるなって」


「あ~、なに〜?もしかして美優ちゃんもやっと咲夜と同じゲームやる気になったって訳ェ~?だったら、はい!これ!パズポンもインストールしなよォ~!咲夜凄いんだからァ、全国ランキング入ってるのよォ~!ふふ、私もガチャいっぱい回してやっとSSR?ってのが出てね、咲夜にスケット登録してもらってるんだからァ~♡」


 嬉しそうに話す優子がスマホの画面を美優に見せ、全国ランキング4位に位置する俺の名前を指さした。


「へえ!全国ランキングって、咲夜凄いのね!…て、サク?名前はサクヤじゃないの?」


「はは、そうだね。さすがにサクヤって名前だけじゃ特定は無理だろうけど、一応ね。フレンド申請が溢れかえっても困っちゃうだろ?」


「そんな事よりね、咲夜はすっごくゲーム上手いんだからァ!…でもねェ~なかなか3位以内に入れないのよねェ」


「あぁ、それは仕方ないよ、上位3人は有名なゲーマーだし。最近のゲームでランキングがある物はどれもその3人が上位独占してるレベルだからね」


 そう、どのゲームも最近は同じハンドルネームが並んでいる。

 シュウシュウ、ラウラウ、ミュウミュウの3人だ。

 名前の付け方からして、3人とも友達同士なのではと言われているが、全員一切の顔出しをしていない事から、どんな人物なのかとネットでもよく話題にあがっている。

 そして特にこのミュウミュウはずば抜けてポイントが高い。いつもどのゲームでもこいつが1位だ。

 そして噂によると…この3人はファスプレにもいるらしい。

 ゲーム内で見たと言う奴が何人かいるらしいけど、顔出しをしていない以上、本物かどうかは不明だが。


「あれぇ〜?でもミュウミュウって美優ちゃんと名前似てるゥ〜!もしかしてゲーム興味無い振りして、美優ちゃんがランキング1位のミュウミュウだったりして〜♡」


 優子の赤く長い爪が美優の頬をツンツンとつついている。

 まさかそんな事ある訳が無いだろうと思いつつも、美優の顔を見てみると意外にも目を逸らされた。


「あ、…いやいや!そんな訳ないじゃない。私ゲームとかそういうの苦手だし…!」


「ええ〜!美優ちゃん、なんか怪しいィ〜!」


 優子の言う通り、何だか歯切れが悪く否定の仕方も少し気にはなるが…ミュウミュウが美優?

 いやいや、有り得ないね。はは、だってこの女は俺の彼女になる為に必死で稼いでいるんだ。普段はOLをやっているらしいが、話によると金が足りず風俗にまで手を出してるらしい。

 そんな奴が俺以外の様々なゲームに課金、さらにファスプレ購入なんて出来るはずが無い。

 それにミュウミュウだとしたら、ゲーム配信や大会でかなり稼いでいるはずだからな、そもそもOLも風俗もやる必要なんて無いだろう。


「いやいや、怪しくない怪しくない!それに確か、あのゲームって結構高いって話じゃない?前に気になって調べた事あるんだけど、100万円近くした気がするけど…」


「ひゃ、ひゃくまん!?ゲームがァ〜!?」

「ひゃ、ひゃくまん!?ゲームがですか!?」


 美優の発言に優子は勿論、愛華と真奈美、普段大人しい遥でさえ驚きを隠せないでいる。


 が、正直遥は驚かないと思っていたが……まあ驚くのも仕方がないか。

 実際、遥にはそれ以上の金や物を貰っているし、優子同様俺のゲームフレンドになる為に、自分のアカウントにも相当金をつぎ込んでいるはずだ。がしかし少しずつ課金して100万かけるのと、100万のゲームを買うのとでは感覚も違うか。

 それにもしかするとゲームに課金、と言うよりは俺への課金だと思っているのかもしれないな。


 まったく、俺の人生はイージーすぎて楽しいよ。

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