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ファスプレオール

 ファスプレのプレイ人口は夕方がピークだが、深夜でもまだまだ人は多い。

 夜行性の人間が今からが本番だと言わんばかりにログインしてくる。


 そして私はと言えば、受け取った金貨を握りしめたままブラブラと歩いていた。


「そういえば、あのゴブリンなんであんなにお金持ってたんだろ」


 まさか、あいつも誰かから盗んできてたり…?

 いやいや、ショウも言っていたが私から見てもアイツは正真正銘ど初心者だ。

 だとしたら支度金以外であんな大金、どこで手に入れたんだろうか。


 最初の支度金はみんな金1枚なはず。

 がしかし、あのサクとかいうゴブリンは金を10枚も持っていた。

 明らかにおかしい、がそれももうショウに全て取られてしまったんだけども…


 お金やアイテムは、基本的に所有者が使おうという意思で出し入れ出来るシステムだ。

 わかりやすく言うと目に見えない四次元ポケット形式になっている。

 もちろん、バッグ型の収納アイテムもあるが、ほとんどの人が手のひらで召喚したり消したりの方法でアイテムを収納している。かっこいいし便利だしね。


 無論、言うまでもなく初心者はみんな初期設定のまま、この方法でのアイテム収納になっている。


 だが、この方法は少しリスクもあって、HPやMP、体力等の様々な体調ゲージが一定数落ちていると、背中を叩かれたり、転んだり、そんな少しの衝撃でドロップしてしまうのだ。


 そしてそのシムテムのおかげで、プレイヤーキルも後を断たないって話。

 まあ、バッグ型の場合は引ったくりなんて事もあるらしいが、そもそもバッグ型を所収している人は腕に自信のある強者が多い。そんな人に引ったくりを行おうものなら返り討ちに遭う可能性大だ。

 逆にあまり変に手出しはされないって話も聞く。

 というか、そもそもバッグ型はアイテム収納数追加用の臨時収納アイテム。普段の見た目装備に使っている時点で強い人に決まっている。


 で、まあ今回ショウがやったのが当然前者。

 エールで泥酔させ、体調ゲージを著しく落とし、さらには謎のアイテム使用。

 で、財布を叩き落とす。


 弱者を食い物にするなんて卑劣なやり口、…とはもう私の口からは言えたもんじゃないか。


 悶々とそんな事を考えながらファスプレ内をうろつき、気がつけば朝日が見え始めている。


「うわぁ…まさかのファスプレオール…ゲーム内で朝日見たの初めてかも」


 そろそろログアウトしようかななんて思ったが、何となくその朝日を眺める為に近くの公園のベンチに座った。


「わあ、結構綺麗かも…本物みたい」


 心の声が漏れ出すような感じでそう言葉にする。

 少し高台の公園から見下ろしていた太陽がゆっくりと時間をかけて頭上へと移動していく。

 これがゲームの世界だなんて、本当に驚きだ。


 なんてまた、ぼーっと時間を過ごしてしまっていたらしく、気がつけば辺りはすっかり朝。

 夜行性プレイヤーや徹夜組が「おやすみー」「そろそろ寝るかー」なんて言いながらログアウトしていくのが、ちらほら見える。


 昼や夜と違って朝は静かだ。

 私もこんな朝からファスプレ内にいるのは初めてなんだけど、人はまばらだ。

 私がログインした中で一番空いている時間帯かもしれない。

 だが、その中でもNPCたちがせかせかとお店の準備や、朝市へ買い出し、NPC同士の世間話…って、NPC達ってこんな事もしてたの!?

 いやどこまでリアルなのこのゲームは。こんな細かい所まで誰も見てないでしょ!


「って、まあ今私が見てたんだけどさ」


 誰に話しかけるわけでもなく、そう一言声にすると「あら、昨夜の冒険者様」なんて声が聞こえた。


「え?」


 冒険者様、なんて呼び方するのは基本NPCだけだ。


「ふふ、こんな所で朝まで起きてらしたんですか?お身体に触りますよ」


 そんな風に柔らかい笑みで私に話しかけてきたのは宿屋のステファだ。


「え、…えっ!?」


 驚きすぎて振り向いた首がもげそうだ。

 いやてか、何事!?NPCって話しかけてくる事なんてあるの!?


 3ヶ月くらいファスプレをプレイしているが、こんな事は初めてだ。

 朝の特別イベ、とかなのか?


 驚きの事態に困惑している私の肩にブランケットをそっとかけてくる。


 え、何?まさかファスプレって恋愛イベントとかあるの?え?

 さらに困惑する私を見てクスクスと笑うステファ。


「本当は私たちから冒険者様に声をかけるのは禁止事項なんですけど」


 え、禁止事項なの?は?NPCに禁止事項とかあるの?え、何!?まじで何が何だかわからんのだが!?


「なので、これは内緒でお願いしますね」


「な、内緒って…話しかけた事、?…それとも話の内容って事?」


「両方ですね!…んー、でもまあ貴女も禁止事項犯しちゃってますしね」


 可愛らしくそう言うステファはベンチに座る私の横に座ってにっこりと笑う。

 いや本当にこれ何イベ……じゃなくて、え?


「き、禁止事項…?」


「はい!禁止事項!」


 ぱん、と手を叩き楽しそうに返事をするステファ。

 とりあえず意味が分からない状況は変わらないが、一体私が何の禁止事項を犯したのか、つい口から出た疑問はそっちだった。


「禁止事項って…ファスプレは基本そんなもの無いよね?縛りやルールがないから辻斬りみたいなのも出てきちゃってる訳だし」


「ええ、そうですね。まあそれはここに限っての話だけど…と言うか話しかけたのも実は私の気まぐれでして!ふふ、貴女昨日からとっても後悔されているように見えたので」


「え、こ…後悔、?」


 ギクリ、なんて少し身体が強張ってしまった。

 そう、私はこの金貨を受け取った事を昨日からずっと後悔している。

 いいや、受け取った事というよりアルバイトを引き受けた事自体後悔している。


「て…、てかそうだ、禁止事項ってなによ!」


 NPCなんかに内心当てられ、焦って話題を変えるとステファが立ち上がった。


「禁止事項?はて、何のことでしょうか?さあ、私はそろそろお店の準備に戻らなくては」


「えっ、…ちょっと、!?」


「昨日は深夜まで飲み明かした冒険者様が2名ともお泊まりになっているので、早くお店に戻らないと!あれから宿を出ていないようですし、まだお眠りになっているのかしら?」


 深夜まで飲み明かした冒険者2人って…ショウとゴブリンって事?

 てか、それを私に一体どういうつもりで言って…


 私を無視するかのようにスタスタと立ち去るステファは「ああ、そのブランケットは差し上げますね」と振り向きもせずに言い放ち、混乱や驚き、色んな感情がぐるぐると頭を駆け巡っている私には、その背中を見つめているのが精一杯だった。


「まじで…何なんだよ、…」


 ずっと握りっぱなしだった手のひらを広げ、手中に収まる金貨を見つめる。


「……、」


 ふう、と息を吐き立ち上がると手のひらの金貨を一旦しまった。

 そして、宿屋へ向けて足を動かした。


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