ログアウト
寝たフリをし、目を閉じて話を聞いていると驚いたような声を出すゴブリンが、ガタンと椅子を鳴らしながら「お、おい…今なんて言った?」なんてショウに問いただし始めた。
そんな変な事言ったか?なんて思ったが、ゴブリンの方はなんだかやけに真剣な声色だ。
「は?ファスプレでも眠れるかってお前が聞くから、眠れるぞって」
「ゲーム内で5時間以上寝ると強制ログアウトだと!?そう言ったのか!?」
自分が聞き返したくせに強引に話を進めるサクは声高々に、そして焦ったような口調で強くそう言った。
「ちょっ…やめ、目がまわる~…!」
「あ、ああごめん、つい」
少しだけ気になってしまい、薄目を開いて二人の様子を伺うと、ぐわんぐわんと揺らされるショウの姿がぼんやりと視界に映る。
「…たく、なんだよ急に!別に5時間以上寝なければ強制ログアウトにもならないし、それに強制ログアウトさせられたからってペナルティがある訳でもないって!」
「違う、逆だ!逆!強制ログアウトされたいんだよ!俺は!」
「は…はあぁ??」
はあ…?いや、え?どう言うこと?
流石のショウもポカンと口を開け、間抜けな声を出している辺り、素で驚いているようだ。
「サク、お前そんな訳の分からねえ事ばっか言ってっからファスプレ初日から迷惑ゴブリンだなんて言われんだぞ」
今日初めてショウがまともな事を言った気がするけど、触れないでおこう。
「良いんだよ、見た目がこんなのも今だけだし。これは俺の本来の姿じゃないんだよ」
いやまじで何言ってんのこのゴブリン野郎は。
しかもなんだか得意げなのが更に意味不明。
「本来の姿じゃないって、そんなモン当たり前だろ。ゲームなんだから」
「ハハ、そういう意味じゃないよ。実は俺の姿なんだけど…」
そこまで言って、ゴブリンが口を閉じる。
「…?お前の姿が何だって?」
「いや、何でもないよ。次、会えたら…その時はとびきり良い事をショウ、君に教えてあげるよ」
いやなんだよ!気になるじゃん!言えよ!今!すぐに!お前とアタシらに次はないんだよ!
なんて大声で言いたくなる衝動をグッと抑えつつ、ぎゅっと目を閉じる。
「ハハ、何だそれ。まあいいや、そん時を楽しみにしてるわー」
ショウはそれ以上追求する気はないようで、ヘラヘラと笑い声を上げている。
「よし!今日は飲むぞ!」
「ヒュウ!よくわかんねーけど、そりゃ良いね!賛成だぜ!」
その言葉にテンションが上がった二人はステファを呼び、またエールを追加注文している。
ゴブリンの話が少し気にはなるが…まあ、いいか。
スウスウと寝息を立てているふりをしていると、だんだんと泥酔し始めたゴブリンが「ルミは酒弱いんだな!あはは、ファスプレの酒の良さを堪能できないなんて勿体無い!」なんて言い出している。
今日始めたばかりで、散々噂になっていたやつがよく言ったもんだ。
その後も当たり障りのない、いや中身の無いくだらない話をしている二人。
早く23時になんないかな〜、なんて思っているとチョンチョンと指で肩を突かれた。
「…?」
「おい、ルミ起きてるか?」
ショウ?なんでわざわざ起こすんだ?
小声で話しかけてきたショウは「もう寝たフリは大丈夫だよ」と言い出した。
「え?」
言われるがまま目を開け身体を起こすが、まだゴブリンは楽しそうに酒を飲んでいる。
「おお〜ルミおきたか〜おまえもエール頼んじゃえよ〜」
「ちょ、ちょっと!話が違うじゃん!アタシは23時にログアウトしてって…」
コソコソとそう話すと「ああ、もうログアウトしていいよ!この後1時にまた集合ね」と笑顔で堂々と声に出して話し始める。
「おいおい〜深夜に二人で密会か〜?」
もちろん目の前にいるサクにも聞こえているので、ニヤニヤとした気持ち悪い表情のゴブリンがこちらを見てくる。
「ちょ、っショウ、あんた一体どう言うつもりで…って、」
…これは、なんの小瓶?
にっこり笑うショウがトントンと机を叩き、指をさした先には空になった小瓶が転がっていた。
おそらく何かのアイテムなんだろうけど…もう中身がないから正体は不明だ。
「こいつはもう5分くらい前からの記憶は残らないよ。この会話も全部覚えてないからね。だから大丈夫!堂々とログアウトしちゃって」
「いや、えっと…これなんのアイテム?」
ファスプレって記憶消すとか、そんな恐ろしいアイテムあんの…?
聞いた事ないけど…
「はは、聞きたい?まあ、ルミがどうしても聞きたいって言うなら教えても良いけど…」
「っい、いやいい。やめとくわ…」
「そう?まあ、そう言うなら君のためにも黙っておくよ。じゃ、また1時に」
「う、うん。じゃあ…」
そう言いながら笑顔で手を振るショウを横目に、腕に浮かぶファスプレマークに触れ、メニューからログアウトを選択する。
「ああ、2時頃からはこいつの記憶、普通に残るから。時間は必ず守ってね」
そんなショウの言葉を聞きながら、目の前が真っ暗になった。
………。
目を開くとヘルメット型ハードギア越しに部屋の天井が見えた。
「ふう、…ったく、一体なんなんだよ、あーあ、関わるべきじゃなかったかなあ〜…」
ハードギアを頭から外し、そんな声を漏らした。
「しかもあんなのログアウトの間際に言う事じゃないでしょーが!」
ハードギアをベッドに放り投げると、自身の身体もベッドに投げるように再び倒れ込んだ。




