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アルバイト

「ア、アンタ…何させるつもり…?」


 身を守るように自分の身体をギュッと抱いて、ジットリと疑いの眼差しを目の前の男に向ける。


「はは、そんなに驚かなくても大丈夫だよ。別に売春して来てとかそんな恐ろしい事言わないからさ」


 その発想がもう既に恐ろしいのだが……とは思いつつも銀貨2枚。

 ファスプレ内で銅貨以上の硬貨はかなり貴重だ。

 内容だけでも聞いておく価値はある。


「…で、内容は?一応聞かせてよ」


「宿屋の食堂で俺と仲良くエールを飲んでくれるかい?」


「……は?いや私は金に困ってるって言ってんじゃん、そもそもエールなんて高価な物飲めないっつーの」


 何言ってんのコイツ、もしかして友達欲しいだけのアホ?

 あーあ、話聞いただけアホらし。時間の無駄だったわ。


「大丈夫大丈夫、はは!」


「はあ?何が大丈夫なんだよ。付き合ってらんないね、アタシはゾンビ犬攻略に忙しーの。友達探しなら他でやってな、じゃーね」


 ヒラヒラと後ろ手に手を振ってその場を立ち去ろうとした。

 が、ソイツの言葉に足を止めた。


「エール代はもちろん俺が持つよ。契約の銅貨2枚は先払い、君は横で俺のフレンドの振りでもして仲良く酒飲んでてくれれば良い。どう?悪い話じゃないだろ?」


 ジャラ、と音を鳴らし、銅貨2枚を手のひらに出して見せたソイツは、受け取れと言わんばかりにアタシに差し出してくる。


「……」


 振り返ってソイツの顔を見てみれば、最初の印象を崩す事の無い優しそうな笑顔でニッコリと笑っている。


「…で、成功報酬の条件は?」


 まんまとその男の思惑通りに手のひらから銅貨2枚を受け取ると、一言そう聞いた。


「その前に…俺の名前はショウ。君は?」


「ああ、そうだね、ごめん。アタシはルミ」


 短い自己紹介をし合うと「よし、じゃあ契約完了って事で!よろしく、ルミ」なんて馴れ馴れしい呼び方で手を差し出してきた。

 まあ、そもそもフレンドの振りして仲良くエールを飲んでくれって依頼な訳だし、呼び方は馴れ馴れしいくらいが調度良いのかもしれない。


 そんな風に思って「よろしく、ショウ」と差し出された手を握り、アタシも呼び捨てで呼ぶ事にした。


「で、肝心の成功報酬の条件だけど…ズバリ!ファスプレ初心者1人をエール漬けにする!です!」


 ビシッと人差し指を立てて得意げに言い放つショウ。

 また何を言ってんだコイツは。何がしたいのか全く分からない。


「何言ってんの?って顔だね。んー…」


 表情でアタシの言いたい事が伝わったらしい。

 そりゃそうだ、誰だって同じ顔するに決まってる。


 だが、当の本人はいたって真剣らしくその先の言葉を考え込むようにし、チラリとアタシの顔を伺い見た。


「ほら、初心者は()()持ってるだろ?」


「は?初心者ほど金無いヤツいないっしょ。スライムとかの雑魚モンスター倒すので精一杯、しかもスライムなんて討伐報酬銅貨以下のたった一銭だけ。そんな奴が金持ってる訳無いじゃん」


「いやいや、それは装備品とか一式揃えちゃうからね。その前の段階なら?」


「あ、ああ……最初の支度金の事?…て…、それをブン盗るって事!?」


 はあ!?何考えてんだコイツ!?まさか成功条件って泥棒の片棒担げって事!?

 何も知らない初心者を、なんのバフも無いただの娯楽用ドリンクで酔わせてその隙に金をアタシに盗めってか!?


「嫌だなぁ、ブン盗るなんて強盗みたいな言い方。はは、それに思っている様な悪い事、君にはさせないから安心して」


 君には、て…自分はするって言ってるようなモンじゃん。


「ほら、良く考えてみてよ。君は別に何も知らない。ただ僕は仲良く一緒にエールを飲んでくれる友達が欲しい。そこに初心者の友達も加えて皆で朝まで飲み明かそう!って言ってるだけ。ね、簡単で高報酬なバイトだと思わない?」


 ……確かに、アタシが頼まれてるのはエールを一緒に飲むだけ。

 たったそれだけで銀貨2枚はかなりおいしい話だ。


「本当にアタシはアンタと仲良くエール飲むだけでいいんだな?」


「ああ、もちろん!あとは時間見て…そうだな23時頃でいいか、そのくらいで酔ったフリでもなんでもしてログアウトしちゃって。その後深夜1時にまたログイン出来るかい?成功報酬はその時に渡すって事で、どう?」


「1回ログアウトって、アンタまさかバックれるつもりじゃ…」


 泥棒の手伝いのような事をさせられた挙句、報酬バックレなんて御免だ。


「バックレだなんて酷いなぁ。君が()()()でいたいっぽいから、せめて何も見ないように知らないようにって、俺は善意でログアウトさせようとしたんだけど…まあ、そう言うなら別にログアウトせずにずっと一緒にいても構わないよ?」


 ぐっ……こいつ、優しそうな顔して……。

 …まあ、仕方ない。確かにアタシだって見て見ぬふりをしようとしてるんだ。バックレられても文句は言えない。

 それに時間を無駄にはしてしまうが、銅貨2枚はもう手に入っている。万が一バックレられても損は無いのも事実。


「…わかった。深夜1時に再ログインするよ」


「OK!交渉成立!じゃあ、とりあえず宿屋の食堂でエールでも飲もうか!」


 そう言われ、足取り軽いショウの後を着いて行くように宿屋へと足を踏み入れた。






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