鉄拳
「ほお、嘘まで付いてここに居座って、この子に難癖つけて…迷惑ゴブリンだなんて呼ばれる訳だな。嘘をつく目的はなんだ?まさか強盗じゃないだろうな?さっきからやたらと胡散臭い顔で主張をしていたが…最近変な勧誘や同情を誘う手口で詐欺を働く者が多い。見るに耐えない見た目の迷惑ゴブリンめ…お前もその類だな!?」
この俺の表情が胡散臭いだと!?しかも見るに耐えない、だと!?
俳優デビューのオファーまで来ていた俺に向かってなんて失礼な奴だ!見た目で決めつけやがって!このクズ野郎が!
ん、ん?ちょっと待てよ。
ていうかなんで先にログアウトしたはずのルミが俺の寝た時間なんで知っているんだ?
「…ルミはなんで先にログアウトしたのに、俺がステファに起こされて寝に行ったのを知っているんだ?」
「…っ、!あ、あの後またログインしたんだよ!そしたらたまたまアンタが閉店間際のこの店でステファに起こされてるのを見て…」
怪しい。やはりこいつ何か知っている!
「そんな訳無いだろ!俺が起こされた時、食堂の客はひとりもいなかったぞ!何を隠しているんだよ!?お前、もしかして俺がログアウト出来ない理由でも知ってるのか!?」
「はあ!?そんなのは知らねーよ!!離せよ!すぐ腕掴むな、気持ち悪い!お前の汚い爪が腕に食い込むんだよ!この嘘つき迷惑ゴブリン!」
「おい!止めないか!」
オーガが大声で制止してきたが、そんなのもお構い無しにルミを問い詰める。
「お前は昨日ここの食堂で、俺と同じ席でログアウトしたハズ!だとしたら再ログインは酔い潰れている俺の目の前だった事になる!おかしいじゃないか、俺は目の前でお前が再ログインしたのを見ていないぞ!?」
「…お、お前が酔っぱらって記憶無いだけだろ!ね!ステファ!?アタシがあの後この店にログインしてきたの見たっしょ?」
「ええ、確かにこの方は昨晩私が冒険者様を起こす少し前に再ログインされておりましたよ。ただ、…いえ、そうですね。ふふ、冒険者様は酔っておられましたので身に覚えが無いのかも知れませんね」
そ、そんな!?NPCのAIまでこいつらの味方かよ!?しかもなんだから心做しかNPCにまで馬鹿にされた気もするんだが!?
くそ、それよりも本当に再ログインしていたなんて…
これじゃますます立場が、なんて思った矢先だ。
メキ!なんて音が頬と顎から聞こえ、宿屋の扉をぶち破って俺の身体が店の外まで吹っ飛んだ。
「っ、痛っ…!!!」
なんだ、なんなんだ。
信じられないぐらいに痛い。人生で経験したことの無いレベル痛み。
思わず涙が出て来てしまいそうだ。
俺は今、目の前で拳をゴキゴキと鳴らすオーガに殴られたらしい。
が、しかし、おかしい。何故こんなにも痛いんだ。
顎の骨も折れてしまったのではないかと思うくらい、下顎が上手く動かせない。
「ほら、立てよ。ゲームなんだから大して痛くもないだろう。はは、そうかそうか、なるほど。痛そうな演技だけは一丁前に上手いんだな」
いや違う、演技なんかじゃない。
本当に上手く喋る事が出来ない程に痛いのだ。
口の中は血だらけで、恐らく歯も何本か折れている。
顎の骨はずれ、手で押えてやらないと「はひふへほ」でしか喋れなさそうだ。
「ひゅう!迷惑ゴブリンを退治してくれ!」
「いいねいいね!迷惑ゴブリンなんてやっちまえ!」
「ゴブリン退治だって?なになに?モンスターなの?」
「うわ!あいつ昨日の嘘つきゴブリンじゃん!」
外にいたやつと食堂から出てきた奴らが野次馬になり始め、気がつけば俺とオーガは囲まれ「迷・惑!ゴブ・リン!退・治!」なんてオーガへの盛大な声援までが聞こえ始めている。
それに調子着いたオーガも満更でも無さそうに「ほら、立て!痛い演技はもう良い、俺が弱いもの虐めをしているようで気分が悪い!」なんて言っている。
そうだよ、現にお前がやっているのはレベル1の初心者を殴っているれっきとした弱い者虐めだ。
少しでも話のわかるやつだと思ったのが間違いだった。
「ちょ、ちょっろ…まっれくれ…!本当にいたいんら!」
「は?何だ?何を言っているのか分からんぞ!きちんと話さんか!」
くそ!どうなっているんだ!
戦闘時多少の衝撃は感じるとは聞いていたが、こんなにリアルに痛いなんて聞いていない!
顎と頬がジンジンと痛み、殴られた側の目からは痛みでじんわりと涙が滲んできた。
「ほら周りをよく見てみろ、お前に迷惑をかけられた人達がこんなにたくさんいるじゃないか!これでもまだ認めないと言うのか?もう一発殴った所で大した痛みも無いだろうが…」
「も、もういいよ…、こいつレベル1だし流石に可哀想だって…それにここまでぶっ飛ばしたら多少は痛いでしょ」
「む…?まあ、迷惑をかけられた張本人の君がそういうのであれば…だがしかし迷惑ゴブリン、貴様同じ事を繰り返しているのを見たあかつきにはこれくらいでは済まないからな!覚悟をしていろ!」
そう言い放ち、ビシッと人差し指を俺に向けるオーガは「カッケー!」「このままオーガ警備隊になっちまえよ!」なんて歓声を受け、さぞ気持ちよさそうな顔だ。くそ!現実世界なら賞賛を受けるのは俺1人のハズなのに!!
それに事の元凶であるルミの一言で助かってしまったのも気に食わない。
「あ、あの…ところで君はルミ、と言ったか?」
「ん?ああ、そうだけど」
「これも縁だ…よ、良ければフレンドにならないか?」
なんだよなんだよ、クソオーガのやつ顔を赤くしやがって…結局女目当てにカッコつけに口出しした馬鹿男だったって訳か。
「は?いや、いいよ。」
「よ、良いのか!?では俺のフレンドコードを…!」
「はぁ!?違ぇよ!今の【いいよ】はお断りの方のいいよだっただろうが!」
ルミの言葉を早とちりし勘違いしたオーガが鼻息を荒くし、嬉しそうにズイズイとルミに顔を近づけているが、全力の拒否と言わんばかりに手のひらで押し返されている。
ぶわはは!ザマァないな!
お前はお世辞にもイケメンとは言えないからな、仕方ないさ!
それにしてもいい気味だ!今だけは全力でルミの味方をしたい。
「ぐくっ、…貴様何をニヤニヤと笑っている!」
ドガッ、!
「ぐふッ…」




