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俺の言う事だけ聞いてろ

「お疲れ様でした〜!いやあ、今日も最高のライブでしたね!」


「ああ、ありがとう。君たちスタッフの協力あっての事だよ」


 アンコールも終わり、ライブの全てが終了すると、メイクルームで可愛らしい女性スタッフがタオルを片手に話しかけてきた。

 ふうん、なかなか可愛い子じゃないか。


「えー!そんな事言って貰えるなんて!咲夜さんって本当にお優しいと言うか紳士と言うか…こちらこそ、こんな素敵なライブのお手伝いが出来たなんて本当に光栄です!」


 頬を赤めた女性スタッフは、俺に持ってきたであろうタオルに顔を埋め、少し恥ずかしそうにしている。


 ふっふっ。女というのは実にチョロイな。

 まあ容姿、性格共にパーフェクトなこの俺だもんな。仕方がないさ。


「はは、そんな風に言って貰えて嬉しいよ。おっと、そのタオルは俺に持ってきてくれたんじゃ…?」


「あ、ああ!ご、ごめんなさい!どうしよう、私の顔に当ててしまって…!!すぐに新しい物を!」


「あはは、面白い子だね!大丈夫、可愛い子が使ったタオルなら大歓迎だよ」


 そう言って手を差し出すと、フワリとした感触のタオルが手の上に乗った。


「す、すみません…」


「本当に大丈夫だよ。気にしないで。」


「あ…えっと、あの、」


 少し照れるスタッフの頭を優しくポンポンとしていると、ガチャリとドアが開いた。


「咲夜ー!お疲れー!」


「あっ、お!お疲れ様です!!」


「…ああ、お疲れ」


 突然入ってきた湊と純樹を見るや否や、パッと俺から離れた女性スタッフがそちらにもタオルの用意を始める。

 っち、良い所だったのに…邪魔しやがって。


「とても素敵なライブでした!お二人も、お疲れ様でした!」


「おお、ありがとう!」


「あれ?君、新しい子?いつもの子がいないね」


「ええ、そうなんです。事情はわかりませんけど、突然やめちゃったみたいで…なので今日は派遣会社から急遽私がここへ呼ばれて…って、いけない!すみません、私会社へ報告の電話をしなきゃいけないので、一度失礼します!」


 そう言い残すと慌てた様子で部屋を出て行った。


「おい」


「ん?」


「ん?じゃねえーよ。お前らさ、何でノックしない訳?」


「はあ?自分らのメイクルームに入るのに、なんでわざわざノックしなきゃならないんだよ」


「何でって俺が先にいただろ」


「はあ!?だから何でお前が先にいたら俺らがノックしなきゃなんないのかって聞いてんだよ!」


 苛立ちを隠せない様子の純樹がつっかかる様に俺の側までツカツカと足音を立てて寄ってくる。


「はは、何イライラしてんだよ。前から言ってるだろ?俺がいない時はどうでも良いけど、俺がいる時は必ずノックしろってさ。中で喋ってたら俺がいるって何となくわかるだろ?あーあー、今もあの子と良い感じだったのに。お前らのせいで恥ずかしがって逃げちゃったじゃないか」


「良い感じってお前な…!!何回も女絡みの問題起こしておいて、いい加減にしろよ!」


「まあまあ、純樹も咲夜も…せっかくライブも終わって盛り上がってた所なんだからさ、今日はそういうの無しで行こうよ」


 俺たちの間を取り持つように奏が間に割って入ってきた。


「そーそー、奏は話がわかるなぁ。それに俺がどんな事してようが事務所が勝手に対応するだろ?今までに一度だって大々的に問題になった事なんてあったか?ないだろ?ほら、純樹もそう熱くなるなって。別にあの子に今ここで手を出してた訳じゃあるまいし」


 軽く鼻で笑いながらそう言ってやると純樹の眉間に皺が寄り、怒っているのが手に取るようにわかる。

 こんな事でいちいち怒り散らかして、本当にうるさくて迷惑なヤツだ。


 そんな事を話しているとコンコンとドアの方からノック音が響いた。


「どうぞ」


 俺がそう答えるや否や、ガチャリとドアが開く。

 おそらく先ほどのスタッフの女の子が戻ってきたのだろう。勿論、俺目当てだろうね。

 そういう事なら週末あたり俺と仲良くなれる食事にでも誘ってやるか?


「お疲れ様です、失礼します」


「…っ、…?」


 誰だこいつ。

 ドアの横からひょっこりと顔を出したのは、さっきの子とは似ても似つかない、デブでメガネの女。

 一つに束ねた分厚く長い髪を揺らし、パツパツのジーンズに俺たちのバンドTシャツを着ている。

 バンドTシャツはオーバーサイズで着る事を想定している為、ユニセックスのフリーサイズだ。

 それがどうだろう、ギリギリ腹が収まっている程に伸びている。

 なんとも見苦しいったらないな。


「はは、どうしたんだい?部屋でも間違えちゃったかな?その間違えた部屋がheaven's kissのメイクルームだったなんてラッキーな話だよね。…なーんて、わざと間違えたんだろう?はあ、困るんだよなぁそういう事されちゃうとさ。何?写真?サイン?…はぁ、しょうがないから特別にサイン書いてあげるからさ、さっさと帰んなよ」


 言いながら近くにあったペンを手に取ると女の立っている入り口へと近づいた。


「えっ!あ…いえ!そうじゃなくて、違います!私、派遣スタッフです!今日の打ち上げの話をしてくるように言われまして…!」


「あ!ああ、ありが…!」


 奏が急いで口を動かし始めたが、言わせる前に俺が口を開いた。


「……は?スタッフ?何言ってんの君。ウチはデブ、ブスはお断りしてんの。君みたいなのがウチのスタッフになれる訳ないだろう?」


「え…っ、あの…その、えっと……」


「おまっ…!なんて事言って、!」


 あーあー、今にも泣き出しそうなデブスが震えてるよ。めんどくさいなあ…これだからブスは嫌いだよ。


「ご、ごめんな?咲夜の言った事は気にしないで。俺たちの打ち上げの話、だっけ?」


 はあああ、コイツら。女に飢え過ぎてんのか?こんなデブス相手に何ヘコヘコ謝って気使ってんだよ。

 こういう事するから、こういう奴が勘違いして平気な顔で俺のスタッフに紛れ込むんだよ。全く。


 何とか話を付けたのか、目に涙を溜めたままの女が奏と純樹にペコリと頭を下げて部屋を出ていこうとする。


「何だよ、俺には挨拶もなしかい?」


「あ、あ…す、すみません!お疲れ様、でした…」


 口早にそう言い終えると、ガチャン!と音をたててドアが閉まった。


「咲夜!お前いい加減にしろよ!?どういうつもりだよ!?」


「どういうって何が?」


 純樹が大声でまた怒鳴りだす。

 おいおい勘弁してくれよ。


「…咲夜、今のは流石に俺でも許せないな」


「奏まで…ハァ…どうしたっていうんだよ?俺はただ事実を伝えたのみ。デブでブスの救いようがない現実を教えてやったんだ、努力するきっかけを与えてあげたようなものじゃないか。ほら、彼女の為にもなっただろう?」


「それは彼女にとっては余計なお世話だったと思うよ。それに、誰が見た目や体型でスタッフを選んでるなんて言ったんだ?そんな事俺たちは一言も聞いた事もなかったけど」


「余計な世話だって?いやいや、ああいう子には誰かがキツーーーく言わなきゃ気が付かないんだよ。ま、気がついた所でもはや手遅れだとは思うけどね。あ、そもそも素材の問題か?」


 本当、呆れすぎて笑えてくるよ。


「ああ、それとスタッフの件だけど定期的に俺がチェックしてるんだよ。知らなかった?ほら、いつもの子じゃないって話、お前らもさっきしてただろ?」


 その話を聞いた純樹がハッとした表情でまた俺に怒鳴り散らしてくる。


「お前…!あの子クビにしたのか!?」


「んー、クビとはちょっと違うかな。あの子可愛かったし」


 何かを察したような奏がため息を吐いた。

 やれやれ、こんな面倒臭い状況でため息吐きたいのは俺の方だよ。


「成程な。あの子と付き合って、それで捨てたんだな?だからクビと言うよりは半ば強制的にスタッフを辞めさせたって所だろ」


「は、はあ…!?」


「はは、捨てたなんて酷い言い方するなぁ。面倒臭い事言い出したから、お別れしたんだよ。」


「ハァ…勘弁してくれよ…」


 すると突然、純樹が俺の胸ぐらを掴んで「てめえな!」なんて大声を出し始める。うるさいったらないな。唾も飛んでくるし、俺の高級な服が汚れたり伸びたりしたらどうしてくれるんだ。


「おいおい、純樹。お前誰の胸ぐらなんて掴んでるんだよ。誰のおかげで今お前らがここに居られてると思ってるんだ?よく考えて行動しろよ。お前らは俺をクビに出来ないけど、俺はお前らをクビに出来るんだぜ?」


「…っな、!」


「………おい純樹、もういい。やめとけ」


 そう言いながら奏は、俺の胸ぐらを掴む純樹の手をそっと離させた。


「奏は純樹と違って物分かりが良いからなぁ、本当助かるよ」


 掴まれてシワになった襟元を正し、奏の肩をポンと叩いてやった。


「さて、俺は先行くよ」


「は?おい、お前この後の打ち上げは…」


「あー…その打ち上げ、どうせいつもの派遣スタッフ達は来ないやつだろ?いつものメンバーならパスパス」


「パスってお前また、!」


「まあ良いじゃん、純樹。な?皆も咲夜が疲れて帰ったってわかってくれるだろ」


「そーそー。奏はマジで、そう言うところ気効くよな。純樹と違ってさ」


 チラリと純樹に目線を送ってみると、また苛立ち始めたのが手にとるようにわかる。

 本当に単純馬鹿な奴だ。その点、奏は多少の文句は漏らすが何だかんだと俺の言う通りに動く。実に扱いやすい奴らだ。


「ったく、お前らもうちょい俺に感謝の気持ちでも見せてみろよな。Heaven’s kissの人気をキープしてるのだって全部俺のお陰なんだぜ?その辺わかってんの?とにかく、お前らは俺の言う事だけ聞いてれば良いんだよ。」


 そんな言葉を残しながら、荷物を適当にまとめてメイクルームを後にした。


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