強制ログアウト
「ん?こんな時間からどこかへ行くのか?」
「ああ、この時間にノース鉱山行くと出るモンスターがいるんだけど、そいつが落とすレアドロップのアクセサリーが欲しくてな、それを取りに行くんだ。せっかくだからサクも、と言いたいところだけど…」
苦笑いで俺の姿を見るショウが言いたい事は何となくわかった。
「気にしないで良いよ。俺は装備も何も揃えてないし、何だったらレベルも1のままだしね。そんな事より、ショウはこの時間に出発するのに宿を取る必要あったのか?」
「ん?まあちょっと短いけど30分は寝れたしな。それに帰ってきてからも寝れる所を確保しておいた方がいいしな」
「あれ、そういえばこっちで宿を取る意味って何だ?長時間眠ったら強制ログアウトだろう?なんの為に宿に泊まるんだ?」
「おいおい…お前何も知らねーで宿取ったのか?もったいない事するなぁ。宿の部屋にも限りがあるからな、意外と埋まってて泊まれない事あるんだぜ?」
そうだったのか…。
なんの効果があるかは知らないが、たまたま空いててラッキーだったって事か?泊まれなければ野宿で5時間以上はキツいしな…。
「宿泊って言っても本当に眠る為に泊まるやつなんてそうそう居ないって。眠たいならログアウトすりゃ良い話だし。基本はみんなベッドに座るか横になるだけ。まあそのまま寝ちまう時もあるっちゃあるけど…んで、まあベッドである必要はないんだけど、自分が借りた部屋にいりゃHPとMP、それと疲労ゲージが回復すんだよ。10分につき10%くらい回復するかな!で、宿泊最大のメリットは防御バフだ。10分宿泊毎に防御力+10UPが10分間つく。ちなみにこれは最大1時間までな。それ以上寝ても1時間以上のバフはつかないから気をつけろよ」
なるほど…そんな効果があったのか。
だが、その効果は少し効率悪くないか?ゲーム内で何もせずに何十分も寝っ転がっているだけだなんて、退屈でしかないし時間の無駄な気がする。
「あ、今時間の無駄だし効率悪いって思ったろ」
心中を見透かし、俺に向かって指をさしてくる。
「ハハ、俺も始めたばかりの時にこのシステム聞いて効率悪ぃー!って思ったからな。てか、これだけ聞くと殆どみんなそう思うよな!」
笑いながらそう話すショウは「それが違うんだよなぁ」と腕を組んで話し続ける。
「ゲーム上だからそれなりに身体は軽いし、運動能力も現実世界とは比にならないくらい動ける。けどさ、ファスプレって良くも悪くも…なんでもかんでもリアル志向に作られてるんだよな。意味わかるか?」
「ああ…なるほど、結局は元々の運動能力や反射神経も必要な訳か。身軽感はみんな平等だけどそれ以上の動きに関しては各々次第って事か」
「そ!そういう事!そうなってくると防御力10UPってかなりデカいんだぜ?そもそも、ちょっと身軽に動けるからって、モンスターの攻撃を簡単に避けれる奴なんて、そうそういねーよ。当たるの前提で、盾使ったり魔法でシールド張ったり、それこそ防御力を少しでも高めるしかないんだよなー」
「へえ、結構大変なんだな…」
ゲームだからって張り切ってた引きこもり陰キャ共が大勢死んでいくのが安易に想像できるな…
「そりゃ運動神経に自信がない人は大変そうだな」
最大限オブラートに包んでそう口に出すと、ショウは笑いながら俺の想像とは違う手の動きをしてみせた。
大仏の手?いやいや、どう見てもこれはマネー、金のポーズだよな。
「はは、そうだな!確かに、そういう奴はファスプレで体づくりからやらなきゃ始められねえな!ま、とは言っても割と金で解決もするんだよな」
「金で?」
「そ。まあリアルマネー注ぎ込むっつう超簡単な方法もあるけど、ゲーム内マネーでも十分可能だぜ。防御力バフの薬やら攻撃力バフの薬、その他にも疲労軽減ドリンクとかモンスター弱らせる薬とか…まあ色々あるからな。それこそ高い装備や武器を買っても良いって話だしな」
なるほど、運動能力が低くても金さえ払えばそこそこは補えるって事か。ファスプレめ、上手い事金儲けしてやがるな…。
「ま、その肝心なゲーム内マネーは稼ぐのかなり大変なんだけどな…」
はあーとため息交じりにそう言うショウは「あ、あと宿屋に泊まるのは単純に回復薬が割と高いってのもあるけど」と言いながら、ショウの手のひらに、いかにも回復薬っぽい丸型のフラスコが現れた。
そのフラスコの様なガラス瓶の中には、たぷんたぷんと青い液体が揺れている。
「大型モンスター倒さないと報酬はしれてるし、かといって大型モンスターは強えし…回復特化の魔法使いがな、一緒にいてくれれば多少は楽なんだけど、みんな攻撃型の魔法使いばっかりで…」
そりゃそうだろうな。みんな自分で倒す方が楽しいに決まっているし、討伐がそんなに難しいのであれば尚更だ。回復特化にしていたら、自分ひとりではモンスターを倒しにも行けないしな。
「回復と攻撃両方スゲーやつがいるって噂もあるけど…見たことないんだよな、そんな奴」
「…あ、ていうかショウ。こんな所で俺と話してて大丈夫なのか?せっかく寝た分の回復と防御バフが無駄になっちゃうんじゃ」
「あ、ああ!本当じゃん!悪いな!んじゃ、俺は行ってくる!じゃーな、サク!」
俺の言葉を聞くなり慌てた様子で回復薬を戻し、ガシャガシャと装備の金属音を鳴らしてその場を去っていった。
全くあわただしい奴だな。
「ふん、まあいいや。俺は今から5時間以上眠れば良いだけだ。さっさと寝て、起きたら純樹と奏に俺の課金財布になって貰わないとな」
そう、それとペレにも文句を言ってやらないと気が済まない。
俺をこんな目に合わせて運営はいったい何をやっているんだってな。
ギイ、と木製の扉を開くと、簡素なベッドが部屋の真ん中に置かれている。
カーテンの無い窓からは、外の月明かりが差し込んでいて暗い部屋を照らしているのが少し綺麗だ。
「いかにもファンタジーの宿屋って感じだな」
ベッドの上に座ると、ギシッと古めかしい音が静かな部屋に響く。
そのままゆっくりと身体を倒し寝転ぶと、なんだか長い一日だったなと急に疲れと眠気に襲われる。
夜と言えど、まだまだたくさんのプレイヤーがいるのだろう。目を閉じ耳を澄ますと外からはワイワイガヤガヤと楽し気な声が聞こえてくる。
明日起きたらあいつ等にキャラメイクをし直させて、俺もちゃんとゲームをプレイしよう。
うん、きっと楽しいファスプレライフになるぞ。こっちで咲夜の楽園を作っても良いかもしれないな。
そんな事を考えていると徐々に意識が遠のいていく。
ああ、そうだ…そういえば、みんな手のひらにアイテムを出したり消したり、あれは一体どうやっていたんだろうか……まあいいか、またログインした時にでも聞けば…………
「……………」
静かな部屋に、すやすやと寝息だけが音を立てる。
よっぽど疲れていたのだろう、考え事をする間もなく簡単に眠りに落ちた。
明日は本来の姿でファスプレにログインし、今日出来なかった事をたくさんやろう。そんな風に思いながら。
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