そんな最優良情報は最初に言ってくれ
……え、今なんて?
「お、おい…今なんて言った?」
「は?ファスプレでも眠れるかってお前が聞くから、眠れるぞって」
いや違う!そうじゃない!
「ゲーム内で5時間以上寝ると強制ログアウトだと!?そう言ったのか!?」
驚きの発言に勢いでショウの肩を強く掴んで揺さぶる。
酔った人間にそんな事をするもんだから、ショウの目はグルグルと回りカクンカクンと前後に揺らされるがままだ。
「ちょっ…やめ、目がまわる~…!」
「あ、ああごめん、つい」
「…たく、なんだよ急に!別に5時間以上寝なければ強制ログアウトにもならないし、それに強制ログアウトさせられたからってペナルティがある訳でもないって!」
「違う、逆だ!逆!強制ログアウトされたいんだよ!俺は!」
「は…はあぁ??」
何言ってんだこいつ、と言わんばかりの表情だが、まあいい。
なんて言ったって、今日一番の最優良情報をくれた恩人だ。
俺をどんな表情で見ようがコイツだけは許してやる事にしよう。
「サク、お前そんな訳の分からねえ事ばっか言ってっからファスプレ初日から迷惑ゴブリンだなんて言われんだぞ」
「良いんだよ、見た目がこんなのも今だけだし。これは俺の本来の姿じゃないんだよ」
ふふん、と鼻で笑いながら気分良くエールを口に運んだ。
ああ、なんだかさっきよりも美味く感じるな!最高の気分だ。
俺が何を言っているのか理解できていないショウが首を傾げている。
「本来の姿じゃないって、そんなモン当たり前だろ。ゲームなんだから」
「ハハ、そういう意味じゃないよ。実は俺の姿なんだけど…」
酒の席だし、コイツには俺の正体を教えても良いか、なんて思ったがやめておこう。
いや、厳密に言えば今はやめておこう。
次に会った時、あの時のゴブリンは俺だったと教えてやる。そうすればコイツは驚くに違いない。
そして、今日俺に出会えた幸運に感謝するだろうな!その時に仕方ないからフレンドに加えてやろうじゃないか。
まあ、どうせその時がくればショウの方からフレンドに加えてくれと頼んでくるに違いない。
「…?お前の姿が何だって?」
「いや、何でもないよ。次、会えたら…その時はとびきり良い事をショウ、君に教えてあげるよ」
「ハハ、何だそれ。まあいいや、そん時を楽しみにしてるわー」
今日一日中最悪な思いをし、悩んだが…それももう解決したも同然!
そう、俺は今日ファスプレで眠ればいい。ただそれだけ!それが分かったんだ!
「よし!今日は飲むぞ!」
「ヒュウ!よくわかんねーけど、そりゃ良いね!賛成だぜ!」
その言葉にテンションが上がった俺とショウはステファにもう一杯エールを持って来るよう頼む。
ルミはと言うと、もはや限界だったのかテーブルに突っ伏して寝てしまっている。
俺に関する速報の事やファスプレ内に関してなど、こいつらに聞きたい事が山ほどあったが、今はもう良い。
どうでも良い訳ではないが、焦って情報取集する必要がなくなったからな。
なんて言ったって、5時間眠ればログアウトできるのだから。
今日一日中悩んでいたのが馬鹿らしいったらない。
今日はファスプレでの酒を堪能して、気分良く眠るとしよう!
その他の事はログアウトしてからでも全然問題ないからな!
スウスウと寝息を立てるルミを横に、俺たちはエールを飲み続けた。
◇
「ほらほら冒険者様、そろそろお部屋に行かれないと」
「ん、…んん、」
「そろそろ食堂は閉店の時間になりますから、立てますか?」
「ん、あ…ああ」
くそ、いつの間にか酔い潰れて少し寝てしまっていたのか…
今は一体何時なんだ?と言うか何時間寝ていた…?
いや、強制ログアウトが起きていないと言うことは大して時間は経っていないという事か…
「ん、あれ…一緒に飲んでいた奴は、」
「あのお客様なら随分前にお部屋へ行かれましたよ。ふふ、冒険者様も手を振ってお見送りになっていたじゃないですか。あ、もうお一方は先にログアウトなさっていましたけど」
そうか、ルミはログアウトしてショウは宿を取っていたんだな。なるほど。全然記憶にないぞ。
それに少し頭が痛い…飲み過ぎると記憶が飛んだり、頭が痛くなるなんて、どこまでリアルなんだよファスプレ…
「…ありがとう、俺もそろそろ部屋で休むよ。酔い潰れてしまって悪かったね」
肩を貸してくれていたステファにお礼を言うと階段を上がった。
リアルすぎるからかNPCだとわかっていてもつい、普通の女性を相手しているように振る舞ってしまう。
「お、サク!やっと起きたか!心配したぜ、そのまま強制ログアウトになるんじゃなかって。て、ああでもお前、強制ログアウトになりたいんだっけか…?」
階段を登り切ると、奥の扉からショウが出てきた。
俺を見るなり話しながらこちらへ歩いてくる。
「ああ、店仕舞いだってステファに起こされたよ。」
よく見るとショウは先ほどよりしっかりした装備を身につけて、背中には大きな剣を背負っている。




