酒
ゴッゴッゴッゴッ…!
「ッ!プハァーーーー!」
喉の奥で刺激的な炭酸飲料が勢いよく流れ込む感覚がとてつもなく快感だ。そして何だこの味は!
「……う、美味いぞ…!!?」
「だろだろー!?この店のエールはマジで最高なんだよ!」
「あははウケるゥー!エールはどこの店でも美味いっつーの!あんたはステファがいるこの店で飲むエールが好きなだけっしょー」
ファスプレはこんなに鮮明に味覚まで感じる事が出来るのか!?
そうか...だから夜のクエストにも行かず、食堂には人がこんなにたくさんいるのか。
いや、だが今はそんな事どうでも良い。
目の前のこのエールを飲み干したい…!もはやそんな気持ちしか湧き上がってこない。こいつ、俺に何か魔法でも掛けやがったんじゃないだろうな?
くそ、普段なら一気飲みなんて事は絶対にしないが…
ジョッキの中に、4分の1程度残っているエールを一気に流し込む。
「…プハァ!」
「いいねいいね!ゴブリンいける口じゃん!ウェーイ!」
「まあね」
男が手をかざして来るものだから、勢いでパン!とハイタッチをしてしまった。
な、何をやっているんだ俺は……!
ん…、あ、あれ…なんだか少しフワフワするぞ。
心做しか顔も火照っている気がする。
「…!お、お前!もしや俺に何か盛ったのか!?エール飲み干したら何か、おっと…おかしいぞ!」
急に立ち上がったからか、少しふらついてしまう程にフワフワとした感覚がある。どういう事だ、こいつ!やはり俺を迷惑ゴブリンだと嵌めやがったな!!
「は?何言ってんだ?ハハ!そりゃエール飲んだんだからな、酔うだろ」
「ゴブリンウケるゥー!」
酔う……?酔っ払うって事か……?
「っえ、こっちで酒飲むと酔うのか!?」
「ウェーイ!やっぱり知らなかったのか!アハ!最高な気分だろ?因みに、現実世界のビールとかと違って、こっちの世界で飲むエールはかなり酔っ払うから気を付けて飲めよー、コレはファスプレ歴半年の俺様からの忠告だぜ」
な、なんて事だ!ファスプレ、ここまでとは!!
ゲームの世界で酒を飲んで酔っ払うだと?こんな事ありえるのか!?
だがしかし現に俺は少し酔っているし、こいつらが元々酔っ払っていたのも納得だ。というか、よくよく周りを見渡してみると、あちこちで酔っ払いが騒いでいる気がする。
どういうシステムになっているのか、全く不明だが凄く良い気分になってきたのは確かだ。
「ホラホラ、エール足りてないんじゃないのぉ〜?」
空になった俺のジョッキを指さし、女がニヤニヤとしている。
まったく、こちらのタイミングを無視して酒を次から次へとグイグイ飲ませようとする、こういう安い合コン女は好みじゃない。
むしろ嫌いだ。が、しかし今は…。
「ステファちゃん、だっけ?エール一杯貰える?」
「はい、わかりました。お待ちくださいね」
女の好き嫌いよりも、エールが先だ。
「フゥ!いいねいいね!ゴブリン最高じゃん!」
俺がエールを注文するや否や盛り上がり出す、目の前の無神経男と合コン女。こんな奴らと友達だと思われてしまっては俺のイメージが悪くなる。勘弁してくれ。
だが、どの道情報収集する為にも、少しは合わせておいた方が良いかもしれない…。昼間の様な状況になってしまっては元も子もないからな。
「ファスプレ初日で君たちみたいな人と知り合えて良かったよ、エールの良さも知れたしね!」
ステファから新しいエールジョッキを受け取ると、そのまま2人に向けて腕を伸ばした。
「だろだろー!?ゴブリン話わかる奴じゃん!いいねー!」
「はー?アタシは最初からゴブリン最高って思ってたしい〜!」
それに応えるように、2人も自身のジョッキを持って俺に向けて腕を伸ばす。よしよし、いいぞ…この調子でこいつらを少しでも味方につけて昼間の印象を変えていかねばな。
コン!と木製のジョッキがぶつかり合い、そのまま3人ともエールを喉の奥へと流し込んでいく。
「プハァ!」
「ウェーイ、最高!」
「本当エール最高過ぎ〜!」
そう口々に言うと、無神経男が「俺はショウだ、宜しくな!お前は?まさかゴブリン、なんて名前じゃないよな?」と手を差し出してきた。
「違うって!俺は咲、…サクだ。よろしく」
危ない…危うく咲夜と名乗る所だった。が…困った事に、フレンド登録をしようとすると偽名は直ぐにバレてしまう。
これはフレンド登録の話にならないよう、プレイヤープロフィールを開くのを避けなくては。まあ、幸いこの二人はかなり酔っ払っているし、何とか話も逸らしやすいだろう。
「何男だけで友情育んじゃって!私も入れてよ〜!私はルミだよ、よろしくねー」
小さく手を振りながら笑っている合コン女事、ルミはどれだけ酒を飲んでいるのか目がトロンとしており、もはやこの場で寝てしまいそうだ。
「えへへー、サクくんだっけ?せっかくだしフレ登録しようよー」
おっと、早速きたか…。
「あ、ああ…そうしたいのは山々なんだけどさ…俺今日始めたばっかりで、変な噂も立てられたりで…だからフレンド作るのはもう少し後にしようと思ってるんだよね」
「ええー、別に良いジャーン」
っく、そう簡単に引いてはくれないか。と思っていたのも束の間、ショウが「そんな無理にフレンドにならなくても良いだろ、人には人のタイミングっつーもんがあるんだよ」とルミの言葉を制止した。
「ま、そういう俺もサクとフレンドにって今思ってたんだけどな!だけど、そういう事なら今じゃなくても良いよな。また次、縁があれば次こそはフレンドになってくれよ!」
何だこいつ、なかなかに話のわかるやつじゃないか。
まあ、こいつのいう通り、次があればショウとはフレンドになっても良さそうだ。
ファスプレ内にも詳しそうだし、俺のガイド代わりに使ってやってもいいかもしれない。
「って…おいおい、ルミ…お前流石に飲みすぎじゃね?ログアウトする?」
「え〜、大丈夫大丈夫!最悪こっちで寝てくから〜!」
ヘラヘラと笑うルミは体勢が崩れだし、テーブルに身体を預けている。これはテーブルが無ければ床に転がっているだろう。
「こっちで寝てくって、ゲーム内で眠れるの?」
「ああ、一応眠れるぜ。ただ、5時間以上眠っちゃうと強制ログアウトになっちまうけどな!ハハ!」




