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魅力的なシュワシュワしたアレ

 とは言ったものの、何を食べようか。

 良い匂いはするが、そもそも何を食っても腹がふくれる訳でも無いし...1番安いものでもいいか。


「ええっと...」


 テーブルの縁に立ててある木製のメニューを手に取り、上から順に見ていく。


 ふわふわオムライス(銅7)

 スタミナ唐揚げ丼 (銅7)

 魔兎のコトコトシチュー(銀1)

 ビックリザドのワイルドステーキ(銀1.5)


 なるほど...メインメニューはこの4品で、あとはデザートのスライムゼリー(銅3)に、飲み物がエール(銅5)、ミックスジュース(銅5)、水(銅1)か。


 思ったよりも充実したメニューだな。

 というか、これって食べたら何かしらのバフみたいな物がついたりするのか?

 今更だがよくよく考えてみると、戦い方やプレイヤーモードについては詳しく説明を受けたが、通貨の事は勿論、過ごし方や様々な初歩的なアイテムや効果等については全く聞いていない。


 仕方が無い。気は進まないが横のテーブルのやつから色々情報収集をするしかないか...。


「あの〜」


「ん?なんだ?...って!お前、もしかして噂の迷惑ゴブリン!?」


「うわ、本当だー!マジでゴブリンじゃん!」


 俺に声をかけられて振り向いた男女2人は頬が薄紅色に染っており、何だか少し酔っ払った様な表情と話し方だ。


「いや、あはは...そんなつもりはなかったんだけど、いつの間にかそんな呼ばれ方をしていたようだね...」


 くそ!なんで俺がこんな雑魚底辺なやつらにヘコヘコしなきゃならないんだ!!

 だがしかし...ここは我慢して謙虚にいくしか…くそ、これ以上ありもしない変な噂を立てられでもしたら堪らない。


「俺、ファスプレやったの今日が初めてで、色々分からない事が多いんだよね、良かったら教えてくれると嬉しいなー...って」


「ウェーイ!今日が初めてのファスプレ?最高じゃん、迷惑ゴブリン!何が知りたいん?ファスプレ歴半年の俺様がレクチャーしてやんよ〜フゥ!」


 な、なんだコイツ。酔っ払ってんのか?

 ファスプレやる前にしこたま酒飲んできたような状態に見えるぞ。


「ウェーイ!アタシも教えてあげるゥ!」


「...えっと、ふたりともなんだか凄い酒に酔っているように見えるんだけど、ファスプレやる前に一緒に居酒屋でも行ってきたのかい?」


「はぁ〜?なわけないじゃーん!アハハ、このゴブリンウケるゥ!ウチらそもそもリアルで会った事すらないってえ!」


 ゲラゲラと笑いながらそういう女は明らかに酔っ払っている。

 じゃあ何だ?お互い酒飲んだ後にファスプレにログインしたのか?


「おいおい、お前ファスプレの楽しみ方をまだ知らない様だな!」


 急に肩を組んで絡み出す男は、なんだか少し酒臭い。

 そして、ドン!と音を立て俺の目の前に木製のジョッキを置いた。


「よし、そんな可哀想なゴブリンの初日を祝って、俺が1杯奢ってやるよ」


「え...1杯って、」


「おーい、ステファちゃん!こっちにエール1杯頼むよ!」


 俺が言い切る前にそう大声を出した男は、先程の女性に手を振った。

 宿屋の店員はステファというのか。「はーい」と笑顔で振り向き、返事をしている。

 それにしても本物の人間の様に返事をし、会話も普通に出来ている。

 雑貨屋で主人と話した時にも思ったが、本当に凄いの一言に尽きるな。これは噂にもなるはずだ。


「はい、お待たせしました」


「おっ、ありがとう!勘定は俺に着けといてくれな!」


「ふふ、わかりましたよ」


 微笑みながらテーブルから離れるステファを見ながら「NPCながら本当に可愛いよなあー、本物なら口説いてるぜ」なんて言い、ウットリした目線を送っている。なんだコイツは、AI相手に馬鹿げた事を考える。


「ほら、奢りだ!飲め!」


 そして得意げにそう言い放ち、俺の目の前にエールが入ったジョッキをドン!と置いた。


 エールか...要するにビールだよな。

 木製のジョッキに注がれている為色さえ見えないが、これは正しく(まさしく)見覚えのある炭酸飲料。テーブルに置いた拍子に、真っ白な泡がジョッキからだらりと溢れだしている。


「ほら、遠慮せずに飲んでみろって!疲れた1日の終わりに飲むエールは最高だぜ?」


 確かに今日は色々あってすごく疲れた。

 なんならまだログアウトボタンだって消えたままだ。純樹の野郎も奏の野郎も迎えに来やしないし、こんな見た目のせいで俺が咲夜だと信じて貰えもしない。本当に人生最悪の気分だった。昨日の修羅場なんて屁でもない。今日が人生最悪の日に決定だ。


 それに今は真夏という程では無いが日中が暑く、座ってじっと待っていた俺はじわりと汗さえかいている。


 ゴクリ、と唾を飲み込むと、目の前のエールがシュワシュワと小さな音を立てている。


 この俺がこんな雑魚底辺から施しを受けるなんて有り得ない。が、しかし…今日ばかりは仕方が無い、か。

 寧ろ、俺が咲夜だったと知ったら飲んでくれてありがとうとさえ思うはずだ。


「ほらほら〜グイッといっちゃいなあー!」


 俺がジョッキに手をかけると、女も楽しそうな声を出して煽ってくる。まるで安っすい合コンのノリだな。くそ、こんなやつと一緒になって酒を飲めだと?安い居酒屋で下品なコールをしながら手を叩いて一気飲みを煽っていそうな女に、飲めと言われて飲むのか?くそ、こんな三軍以下のような女に!!


 ぐ…しかし、確かに喉が乾いているのも事実……!

 いやいや、金を自分で払えばこいつらからの施しを受ける事にはならないのでは…いやいやいや!現状ただでさえ貴重な金だ。こんな所で飲み代に使っている場合ではないんだ!

 俺はただ、飲み物や食べ物でプレイヤーに与えられるバフ効果が知りたかっただけなのに!何故こんなシュワシュワした飲み物ひとつで、こんな雑魚共に惑わされ無ければいけないんだ!!!くそ!



 …ええい!色々考えていても仕方がない!!


 ごちゃごちゃした思考回路を一気に吹き飛ばすように、ジョッキを取り、握った手に力を込めた。


 俺は疲れている!!そして喉が乾いている!!!


 思考がまとまった瞬間である。

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