お金
一体今は何時頃なんだろうか…
ファスプレ内も時間経過はリアルタイムだが、そもそも時計を持ち合わせていない。
というか、今更だが装備が汚い腰布しかない。
「ハァ、」
ここに座り込んで何時間たったのだろう。
最初に来た時は太陽がまだ真上にいた気がするが、今はもはや見る影もない。
暗くなった空には雲ひとつなく、月明かりが俺を照らしている。
夜空にはたくさんの星が散りばめられていて、ゲーム内という事を忘れてしまいそうな程に綺麗だ。
街並みも昼間とは変わり、閉店した店、夜から賑わう店など様々で、まるで現実世界かのよう。
もちろんプレイヤーもまだまだたくさんおり、これからが本番と言わんばかりの夜型人間プレイヤーで溢れている。
そんな中、閉まった武器屋の前で俺はぽつんと座り込んでいた。
純樹も奏も来ない。
それどころか、あちこちから聞こえてくる俺が死んだというニュースの話。
現実世界で俺の身体は一体どういう状態になっているんだ…
どうする事も出来ず、ボーッとしているとグゥとお腹がなった。
そういえば朝からほとんど何も食べていない。
そりゃ腹も減るか、なんて思った。
「…え、腹が…?いや、減るもんなのか…?」
正直何も飲まず食わずでゲーム内にいた事なんて一度もないから不明だが、現実世界では寝たままになっているんだ。不思議な事でもないのか?
そう考えてみると、たしかに喉も乾いている。
「…そういえば、金って持っているのか?」
今更だが、自分の所持金を確認していなかった。
プレイヤーモードに変え、自分の所持金のマークに触れるとそこには「金10、銀0、銅0」との表示がある。
なるほど、初期装備を揃えたりする為なのか、そこそこにはもっているらしい。
とは言ってもファスプレ内の物価が分からないから、この金貨10枚がどれほどの価値なのかは不明だが…
「とりあえず何か食べてみるか…」
こちらで飲み食いしたって腹が満たされる訳が無いのは分かっていても、この空腹感には勝てない。
気分だけでも味わった方がまだマシだ。
よっこいしょ、と立ち上がるとお尻に着いた砂埃をパタパタと払い、辺りを見渡す。
「ええっと…何か食べられそうな店は…」
酒場に食事処、それと宿屋か。
まあ食えれば何処でもいいんだが、所持金に限りがあるからな。
迎えがいつ来るかも不明な今、出来るだけ節約はした方が懸命だ。
くそ、俺が節約なんて…!有り得ないが、今は我慢するしかない。
「とりあえず、あそこに入ってみるか」
ギィ…そんな音のなる木製のドアを開けると中は想像以上に賑わっている。
「あら、いらっしゃい」
気立ての良さそうな、可愛らしい女性がニッコリと笑いながら俺を見て挨拶をしてきた。
おそらくこの女もNPCなのだが、この数時間散々な言われようだったからか、なんだか少しほっとしてしまう。
「おひとりかしら?」
「あ、ああ」
入ったのは宿屋。値段にもよるが、外で待ちぼうけを食らうよりは部屋があった方がマシだからな。というかそもそも俺が野宿とか有り得ないだろ。まあファスプレ内で眠るという行為が出来るのかは謎だが…
辺りを見渡す限り1階は食堂の様で、そこそこに賑わっている。
階段があるから、おそらく2階に宿泊施設があるのだろう。
それにしても良い匂いがする。
このゲームは嗅覚も感じる事が出来るらしい。今更ながら本当に凄いな…
「食事と宿泊がしたいんだけど、料金はいくらだい?」
「お食事はお出しするメニューにもよりますが、宿泊は一泊銅貨5枚になります」
銅貨5枚か…安い、のか?ううん、よく分からんな…
そもそも銅貨何枚で銀貨、金貨なんだ?
仕方ない、金貨を出して釣りで確認するしかないか。
「なるほど、じゃあとりあえず一泊お願いするよ」
言いながら金銭のやり取りをしようとした瞬間、腰に紐でくくられた巾着の様なものが現れた。
これは、金銭のやり取りがある時だけ現れるシステムなのか?
よく分からないが、おそらく俺の財布なのだろう。それを手に取るとジャラっと音がなり、ずっしりとしているのが分かる。
中身を覗くと、金色の硬貨が10枚はいっている。
「一泊ですね、では銅貨5枚お願いします」
ニッコリと笑うその店の娘に、袋から取り出した金貨を1枚手渡す。
「はい、では金貨1枚お預かりしますね。お食事はどうします?」
「ああ、頂くよ」
「では、お席にご案内しますね。あ、それともお部屋でお食事されますか?」
なるほど、そういう事も出来るのか。
まあでも今は情報収集も兼ねた方が良いからな。
「いやいい、ここで食べるよ」
「はい!わかりました。こちらがお部屋の鍵ですので、お帰りの際にお返しくださいね。ではこちらのお席へどうぞ。お食事のメニュー表はテーブルにあるのでそちらをご覧下さい」
そう言われながら空いていたテーブルに案内され、座った俺に先程のお釣りと思われる硬貨を手渡してくる。
受け取ってすぐにジャラリと音を鳴らし、テーブルの上に広げるとさっそく数をかぞえ始めた。
いち、に、さん、し、ご...銅貨が5枚に、銀貨が9枚か。
さっき支払ったのは一泊分の銅貨5枚。という事は各硬貨10枚で1枚になる訳だな。なるほど、これは数え易くて助かった。
おっと、この俺がこんな所で金を広げて数をチマチマ数えている所を人に見られる訳にもいかない。
さっさとしまって食事の注文を済ませてしまおう。




