迷惑ゴブリン
「だ、ダメだ…」
かれこれ1時間程経っただろうか。
何人もの人に聞いて回ったが、誰一人としてログアウトマークが消えている奴が存在しない。
「一体どうなっているんだよ…」
少し疲れ、道の端に座ると出っ張ったお腹がズシッと重たく感じる。
くそ、鬱陶しい腹だ。ガリガリの身体な癖に何でこんなに腹だけ出てるんだよ。しかもこの腹を支えながら歩くからか、細々しい足が軋むように痛い。
「…あれ?」
いや、というか何でこんなに腹が重たいんだ…?
なんで足が疲れているんだ…?
ゲーム内ではどんな体型であろうと戦闘時など動きに支障が出ないように、身体はかなり軽く動けるようになっているはずだ。
それに、攻撃を受けた際に多少の衝撃はあるが痛みなんて起きるはずが無い。
疲れに関してだってゲージが半分以下になると少し身体が重たくなるとは聞いたが、多少の疲労デバフのような状態になるだけで、身体に直接疲れが出るなんて有り得ない。
それに疲労ゲージをチラリと確認すると、半分どころか1だって減っていない。そりゃそうだ、疲労ゲージはダッシュしたり、戦闘になったりと、それなりの動きがないと減らない仕様になっているはずなんだから。
本当に一体何がどうなっているんだ…
ハァ、とため息を漏らしながら道行く人を眺める。
すると皆がチラチラとこちらを見ながら歩いていく。
「ねえねえ、あいつでしょ…?なんかログアウトマーク消えるバグ起きてるとか嘘ついて回ってる迷惑ゴブリン…」
「うん、たぶんそうだよ…うわっ!ヤバい…こっち見てるよ、行こ行こ!」
くそ、目が合うだけで走って逃げていく。
大して見た目が良い訳でもない雑魚女共の癖に!ファスプレ内は本当に失礼なやつばかりだ。ゲーム内治安悪いんじゃないか?
人を見た目で判断するような性格の悪い人間しかいない。
俺はあんなブス共にも差別すること無く笑顔で話しかけてやっているというのに。
「お、あいつだろ?噂のゴブリン…ぷ、マジでゴブリンじゃん」
「うわぁ…ホントだ。街中でほら吹きまくってる迷惑プレイヤーなんだろ?」
それによくよく耳を澄ましてみると、見た目だけでは無く先程の聞き込みが悪影響を及ぼしているらしい。
「うわ、見て見て…迷惑ゴブリンいる…!」
「なにそれ?」
「えー、知らないの?さっきからファスプレ内でバグが起きたって嘘つき回ってるって噂になってるゴブリンだよ」
「あー…さっき向こうで話してたあの…本当だったんだ〜…」
「そーそー、ホント辻斬りとか強盗もやるなら、ああいう迷惑プレイヤーを狩ってほしいよね」
くそ…たった1時間で迷惑ゴブリンなんて言われていたのか…
ログアウト出来れば元の姿を再スキャンするから、となりふり構わず声をかけまくっていたが…
さすがにずっとログアウト出来ないなんて事は有り得ないが、もし暫くこのままだとしたら評判が悪くなったのは失敗だった。
だが、それにしたってゲーム内で運営とどうにか連絡とる方法はないのだろうか。
リアリティがどうのって理由でゲーム内から運営への通報システムも無いみたいだし、その辺のヤツらにログアウトさせて運営に通報させようにも、まずそもそも信用してもらえないのが現状だ。
「一体どうすりゃ良いんだ…」
今日何回言ったか分からない言葉を繰り返しながら途方に暮れていると、なんだか街中がざわつき始めた。
「…っえ!?ま、マジで!?」
「嘘でしょ!?」
「本当だって!」
「さっきログインしたばっかりの奴も言ってたぞ!」
「う、…嘘でしょ…!?嫌!」
「そ…そんな…!」
な、なんだ?何かあったのか…?
あちこちで驚いたような声と悲しむ様な声が飛び交っている。
も、もしや!やはり、やっとみんなにもログアウトマークが消えるバグが起き始めたんじゃ!?
そう思った途端、疲れているのも忘れて勢いよく立ち上がり一番近くにいた奴の腕を掴んだ。
「お、おい!まさか君たちもログアウト出来ないのか!?」
「…う、うわ!なんだよ!迷惑ゴブリンじゃん!」
「あ、ああ…、いきなりごめん!ただ、君たちがザワついていたから、俺と同じでログアウト出来なくなったんじゃないかって」
「は、はぁ?ログアウトなんて普通に出来るだろ…コイツこの期に及んでまだそんな事いってんの?」
「…な、っ…ち、違うのか?」
コイツらの反応を見るに、違ったらしい。
周りの奴らもまた何を言っているんだとコソコソとこちらを見てきやがる。
「だ、だったら何でこんなに騒いでいたんだ?」
「お前しらねーの?」
「知らないって、何を…」
「さっきニュース速報出て大騒ぎだよ」
大騒ぎ…?一体何がそんなに騒ぎになっているんだ?
ふん、この俺がこんな姿でゲーム内に閉じ込められた上に、こんな扱いを受けていると言うのに…
それ以上の騒ぎなんて無いだろう。ふざけやがって!
「heaven's kissの咲夜が死んだって」
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