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俺の人生イージーモード

「キャー!咲夜(さくや)ー!愛してるー!」


「こっち見てー!」


「咲夜ー!」


 大きなステージに向かって黄色い声が飛び交っている。

 頬を紅色に染めた女子たちがキャアキャアと声を上げ、スポットライトに照らされるステージに釘付けだ。

 勿論、その目線と声の先はこの俺。


「みんな、今日は来てくれてありがとう!」


 俺がそう一言発するだけで、会場中から声が上がる。


「おいおい、俺たちもいるんだぜ?」


「咲夜ひとりに良い所持ってかれちゃあ困るよなあ!みんなあ!」


 ジャジャーン、ドンドンシャーンなんてギターとドラムの音を鳴らし自己主張を始めたのは、バンドメンバーである(かなで)純樹(じゅんき)だ。

 その音ともに観客席からもワアッ!と、より一層盛り上がりの声が響く。


「はは、悪い悪い!」


 笑顔を見せながら二人に軽く謝り、冗談を交えながら笑い合う。


「よしよし、じゃあ俺が目立つためにも次の新曲は俺がボーカルでもやるかあ!?」


「あはは、良いね!純樹の新曲!」


「おいおい、そりゃないぜ。純樹が歌ったら俺は用無しじゃないか!奏と純樹も俺の事愛してるだろ?」


「うおおい、気持ち悪い事言ってくれるなあ!」


 そんな俺たちの仲の良いやり取りに会場中のファンが楽しげな声を上げている。


 が…俺の心はそう楽しくはない。

 …っち、くそ。空気読めよな。

 さっきのは完全に俺だけの時間だっただろうが…!くそ、気持ち良くやっていたのに邪魔しやがって…!

 ライブは基本、常に俺だけのステージだ。

 なんて言ったってこのバンド、Heaven’s kissは俺の存在あってのもの!

 俺のこの圧倒的ルックスがなければ奏と純樹、お前ら二人なんて売れないその他大勢のインディーズバンドに埋もれてるカスみたいな存在!大した演奏も出来ない癖に、俺のお陰でこんな大ホールのステージに立てている事に土下座して感謝しやがれ!


 おっと…だが、そんな本音は間違ってもファンの前では口にしない。

 なんて言ったって、俺に群がる可愛い子羊ちゃん達なんだからな。

 存分に俺の魅力に酔いしれて、大金を落としていってくれよ。


「二階、三階席のみんなもー!ちゃんと見えてるぜー!愛してるよー!」


 爽やかな笑顔を振り撒くように大きく手を振った。

 すると米粒程度にしか見えない席に座る観客共が、咲夜、咲夜と、より一層声を上げる。

 なんて最高に気持ちが良いんだ。


 ♢


 物心がついた頃には既に、自他共に認める超絶的イケメンだった俺。

 高身長で脚長、筋肉も程よく付きやすい体質らしく、多少の筋トレで引き締まった身体が手に入った。そして、何よりも顔面が良い。何度も言うが俺のルックスは完璧なのだ。

 ここまでの人生で学んだ事はたったひとつ。顔が良ければ全て良し!多少何をやっても許されると言う事だ。


 女は勿論、金にも困った事なんて一度も無い。

 無論、今後も困るなんて事は有り得ないだろう。


 性格?性格なんてのは、少し取り繕えばどうにだってなる。

 それに俺のこの見た目さえあれば、信用度だって爆上がりな訳だ。

 多少理不尽な事を言ったって許されるんだからな。


 元々目立つ事が大好きだった俺は、中学でこいつら二人とバンドを組んだ。

 まあ俺は楽器なんて出来ないし、練習も面倒臭い。あいつらが曲を仕上げてくれば俺が歌ってやってるって訳だ。

 それに、俺の引き立て役も必要だしな。両サイドに奏と純樹がいれば俺のカッコ良さが更に際立って丁度いい。


 当然と言っちゃあ当然だが、俺のお陰で直ぐに地元では有名な人気バンドになった。学園内外でファンクラブも出来て、俺の認知度も一気に上がって行った。SNSのフォロワーも閲覧数もイイネ数も桁違い。


 高校生にもなると、俺の見た目は更に磨きがかかっていた。

 もはやバンドのファンクラブなんてものは存在感が薄くなる程の、俺個人のファンクラブが出来上がっていた。

 校門前に女子が出待ちしているなんて日常茶飯事。学校内を歩けば嬉しそうな女子の声が飛び交った。


 そうこうしている内にあっという間に終わった高校生活。俺たち三人は大学には行かず、就職をした。

 とは言っても、奏はバーテンダー見習い、純樹は楽器屋、とバイトみたいなもんだ。言っちゃえばフリーターってやつ。メジャーデビューなんて夢見始めて、時間の融通が聞く仕事を選んだらしい。

 俺はというと、あちこちの事務所から声を掛けられ、モデルになった。

 ふふん、就職先も格の違いってやつだよな。


 ただ、俺達はインディーズバンドとしてもそこそこ売れていたという事もあり、就職後数ヶ月、何件かの大手事務所から声がかかった。まあ、俺がいるからに決まっているがな!


 そんな訳で、一番金払いが良さそうな事務所を選んで、モデル事務所はすぐに退所した。

 バンドが本格的に売れ始めたら当然、俺はモデルとしても引っ張りだこになるに決まっているしな。

 それと、奏と純樹が事務所選びにゴチャゴチャと言っていた気がするが、知ったこっちゃない。俺のお陰で事務所に入れるんだから、アイツら二人に意見する資格なんて無いに決まっているだろう。図々しいにも程がある。


 そして俺の予定通り、俺達はすぐにメジャーデビューを果たした。

 テレビにも出たし、CMにも出た。アルバムもたくさん出した。ライブももう数え切れない程やってきた。

 何度も言うが、勿論全てが俺のお陰だ。テレビに呼ばれたのだって殆ど俺ひとり!CMも、バンドの曲さえ使われていたが、出演は俺だけ!俺がいなきゃ、あいつらは大して何も出来ない能無しだ!

 せいぜい俺のルックスに感謝して、細々と俺の引き立て役に勤しんでくれ。


 それに比べて俺の人生は最高に楽しい!周りは俺の言う事は何でも聞くし、女だってよりどりみどり!金も持っている!最高級のタワマンに住んで、良い酒、良い料理、良い女に囲まれた最高の人生だ。


 俺の人生はここまでも、そしてこれから先もイージーモードだ。

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