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街中のゴブリン君

「お、おお…!」


 意気込んで通った先に広がっていたのは、想像の何倍もの大きさの街。

 心躍る景色に、思わず声が漏れ出てしまった。


 そして、あちらこちらで人が行き交う中に混ざって俺も歩き出した。


「これは凄いな…!」


 他社のフルダイブゲームもやった事があるが、これは訳が違う。

 今までにやってきたものは、なんだかんだゲームの中感が強く、現実感という感覚を感じる事は出来なかった。が、これはどうだ、ゲームの中感なんてものは一切感じさせない。

 ペレが何度もリアリティ、リアリティと言うだけはある。

 何もかもが現実と遜色ない、どころか本当にこちらが現実なのではないかと錯覚するレベルだ。


「…見ろ、凄いのがいるぞ」


「うわ、ホントだ…」


「え、ゴブリン選択してる人初めてみたかも…」


「ええ、てか種族選択にゴブリンなんてあったっけ…?」


「見た目凄すぎぃ…」


 キョロキョロウロウロしていると周りからクスクス、コソコソと後ろ指指されているのを感じる。


 くそ、周りのヤツらみんな、俺があの咲夜だとも知らずに…!!

 勝手な事ばかり言いやがって…!


「…色々見て回りたい所だが、これは純樹達を探すのが先だな」


 道行く人皆が俺を見ている。

 勿論、普段感じる様な眼差しでは無く、ゲテモノを見る目だ。


 ったく、アイツら一体どこへ行ったんだ?

 流石にそう遠くまで行っていないはずだが…もしかして店の中にでも入っているのか?


 そう思い、近くの雑貨屋に足を踏み入れる。


「いらっしゃい」


 人の良さそうなオッサンの店員がそう声を発したが、こいつはNPCだろう。

 本当に誰かが操作しているのではと噂になっている程の出来らしいが…。ちょっと話しかけてみるか。


「すみません、この店にちょっとした芸能人みたいな奴来ませんでしたかね?」


 あいつら2人も芸能人の端くれ。流石に普段の姿のあいつらがファスプレ内を歩いていたら、多少は騒ぎが起きてもおかしくは無い。


「芸能人?さて、どうだったかな…」


 うむ、と顎に手を当て考える素振りをするオッサンは、本当に人間が動いているかのようだ。

 だがやはり所詮はNPC、質問に対して考える素振りをしているだけで期待する様な答えは出て来なさそうだ。


 冒険に関しての質問ならまだしも、今起きた話や日常会話は流石に無理か。


「…いや、いいよオジサン、ありがとう。また来るよ」


 そう言いながら、雑貨屋を出ようとした時「ああ、芸能人!さっきお客さんが騒いでいたな!」と指をパチンと鳴らした。


「…え?」


 ま、まじか…そんな普通の会話が出来るのか!?


「そうそう、店には来ていないが、お客さんがなんとかキッスとかいう芸能人がって騒いでいたよ」


 kissの部分でいちいち気持ちの悪い投げキッスのモーションを取るオッサンは、「ん-まっ」なんて効果音までつけて二回目の投げキッスをしてきやがる。だがしかし、これはすごいな…。


「そ、それだよ!それ何分前くらいの話だ!?」


「たしか10分くらい前かね?向かいの並びにある武器屋にいたみたいだよ」


「あ、ありがとう!」


 オッサンに礼を言うと直ぐに店を出て、向かいの武器屋へと向かった。


「それにしてもアレ本当にNPCか…?めちゃくちゃ普通に会話出来たんだけど…」


 まさか、スタッフがゲーム内で店を出してるって事ないか?

 いやいや、だとしたら莫大な人件費がかかってしまうな。

 NPCの数は数名なんて数では足りないはずだから、実は全部スタッフがって言ったら雇う金がいくらあっても足りない。


「…いや、でもゲーム自体馬鹿みたいに高いからな…まさかその為の値段設定…いや、それでもこのゲーム内は24時間動いてるんだ…もしスタッフだとしたら…店は閉まったとしてもそれ以外のNPC自体は24時間労働も同然…そんな奴に金を払うとなるとやっぱ無理があるか……って、…ここか」


 余りの出来の良さに、ブツブツと独り言を言いながら歩いていると、目的の武器屋の目の前だ。


 周りではまだコソコソクスクスと話し声が聞こえてくる。

 くそ、言いたい事があるなら直接言ってこい!陰湿な奴らめ!


 苛立ちをぶつける様にドアを強めに開けると、店内にいた数名の客がこちらを見た。見たところパーティか。魔法使いの女と弓使いの男、そして戦士の男の3人だ。


「…お、おい、なんだあいつ」


「びっくりした〜…街中なのにモンスターが入ってきたかと思った…」


「…ぷっ!なんだよあいつ!凄い見た目してんな」


 まったく、口々に言いたい放題だ。

 ただ、こんな姿の俺が咲夜だとバレるのは非常にマズイ。言葉を選ばねば。


「…お、おい君たち。この辺にheaven's kissがいたって聞いたんだけど、見ていないか?」


「あー、いたよ!この店にいたんだけど、人が集まっちゃって大変だったから、すぐに出ていったんだけど」


 なるほど、やはりあいつら2人でもそこそこ話題にはなるようだ。

 はは、そこに俺なんかがいたらもっと凄かっただろうね。


「でも店を出ても人が集まるばっかりで収拾つかなくて、さっきログアウトしたみたい」


 そう教えてくれた女は「あーあ、私もフレンド申請送ってみれば良かったあ」なんて残念そうに言っている。


「はは!無理無理、送った所でOKなんてしてくれないだろ。」


「だよねえ〜」


 ふ、目の前にその咲夜がいるとも知らずにな。


「…て、なんでお前がカッコつけてんだ?」


「あっ…、いやいや!カッコつけてなんかないよ…!」


 いかんいかん、つい癖でイケメンオーラを出してしまっていたか。


「で、ゴブリン君はheaven's kiss見たさにここに来たのか?」


「んなっ…!誰がゴブリン君だ…!!!」


 馬鹿にしているのか、コイツ!

 本体の俺には遠く及ばない見た目をしている癖に、誰をゴブリン呼ばわりしているんだ!


「あ、ああ、ごめんごめん!そんなつもりじゃ、えっと名前は?」


「俺は、さく…」


 い、いかん!思わず咲夜と名乗りそうになってしまった。

 いや、でもどの道プレイヤープロフィールを見られれば名前はバレる…


「さく?サクさん?」


 派手な装飾が着いた杖を片手に女が俺を覗き込んでくる。


「あ、ああ!そう、俺はサクだ。よろしく」


 俺がそう言うと、3人も「よろしく」と笑った。

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