カウントダウン
ステージに無事降りられたとは言われたものの。
「…どこなんだ?ここは?…ん、扉?」
誰もいない、草原の様な場所だ。
後ろを振り向くと、ズッシリとした見た目の大きな扉が佇んでいる。
「皆様、聞こえますか?そこは最初のチュートリアルを行える【始まりの草原】と言う場所です。そしてそこにある大きな扉の先がファスプレ最大の都市、first placeに繋がっています」
ペレの声が聞こえてきたと思ったら、目の前に剣と盾が現れた。
「これは?」
「そちらは、チュートリアル用のアイテムとなります。手に取ってみて下さい」
そう言われ、剣と盾に手を伸ばす。
……。
「…?」
伸ばした手に違和感を感じる。というか、違和感しかない。
待て待て待て待て。
なんで俺の腕が緑色なんだ!?!?
自身の全身をくまなく見てみるが、どこからどこまでも全て緑色だ。
そしてよくよく見てみると、手足がガリガリじゃないか!!
しかもなんだ、この腹は!!!
全身ガリガリの癖に妙にぽっこりと出っ張っていて足元が見ずらいったらない。
一体何が起こったと言うのだ。
俺の身体をスキャンしたはずなのに、こんな事ありえないだろ!
「お、おい!ペレ!?これは一体どういう事だ!?」
「これ、とは?」
「決まっているだろう!俺のこの見た目の事だ!!ありえないだろ!!なんなんだ、この身体は!?」
「あぁ、私も少しおかしいなとは思っていたのですが…どうやら咲夜様の装着したハードのスキャンカメラ部分に誰かが、何かしらのイタズラをしていた様ですね。種族もゴブリンが選択済みになっていましたし」
「…ゴっ……!?」
ゴブリンだと…!?
「…まさか、くそ、純樹と奏か……!!あいつらの仕業だな!?」
「さあ、そこまでは私にはわかりませんが…とりあえず姿を確認してみますか?」
そんな言葉と同時に大きな姿見が現れる。
「…なっ……!?…あ……ぁ、…あぁ…」
自分の姿を見て、驚きのあまり言葉が出てこない。
なんなんだよ、これは!ありえないだろ!!!
ガリガリの体に、出っ張った腹、汚い色でゴテゴテした爪、そして何よりもこの……不細工な顔面!!!!
緑色の分厚い皮膚が顔のあちこちでシワになっている。
驚いて口を開ければギザギザに尖る黄ばんだ歯が剥き出しになり、心做しか口の中がネバネバしてる様な気さえしてくる。
アニメや漫画でよく見る、デフォルメされた可愛らしいゴブリンなんかじゃない。この見た目はマジのモンスター、Theゴブリンだ。
それになんだこのゴブリン定番の汚い腰布は…。
「ちょ、…こ、これは流石にキャラメイクやり直し…出来るよな…?」
「そうですねぇ…ですが先程も申し上げました通り、一度決定した見た目を変更する事は基本的に不可能な仕様になっておりまして。ただ、課金アイテムの使用で変更も可能ですが…こちらも先程も申しました通り、スキャンした姿からかけ離れた見た目には出来ない仕様になっているのですよ。あと残された手立てとしては…1時間のお化粧アイテムでしょうか。そちらを使っていただければ、普段の咲夜様のお姿に近づいた見た目に変更可能ですよ!ただし、アイテムを使い続けないと1時間で戻ってしまいますが。」
そんな馬鹿な話があってたまるか!
自分の姿を元に戻したいだけなのに、1時間毎に課金アイテムを使えだと!?ふざけてる!
「ちょっとまってくれよ…そもそもコレは純樹達のイタズラであって、俺の姿は正常にスキャン出来てない訳だろう?それなら、いっそゲームをリセットして最初からやり直せば…」
「残念ながらそれも出来ません。何度も言いますが、ファスプレはリアリティを大事にしているのです。リセットなんてありえませんよ。それに装着したハードには生体認証機能が着いていますので、一度使った方はどのハードからもアクセス可能、すなわち、どのハードを使おうが咲夜様は例外なくそのお姿でゲームインする事になります。」
リアリティ、リアリティ、リアリティと!!!
リアリティが大事なら、この姿をどうにかしてくれよ!!
天下の咲夜がこんな姿、どう考えてもリアルじゃないだろう!!
「おっと、ここで押し問答を繰り返している間に、純樹様と奏様がチュートリアルを終えたようですね。そろそろ扉を開けてお2人は合流出来そうです。咲夜様、貴方はどう致しますか?」
ど、どうするかって……
くそ!こんな所で手をこまねいていても仕方がない。
「分かった、とりあえずチュートリアルをやるよ。見た目の話はまた後だ。先に進もう」
ハァー、と大きくため息をついて、地面に転がる剣と盾を拾った。
嫌でもゴテゴテとした不細工な形の手が視界に入る。
ついでに腹もな…全くもって腹立たしいったらないな。
「はい、では武器の使い方から…ーーーー」
◇
「なるほど、了解だ。何となくわかったよ。後は要領よくやるさ」
10分程の説明と実践を終えると、ギギギと古く鈍い音が聞こえてきた。
「いよいよだな」
振り向くと、大きな扉がゆっくりと開いており、向こう側は先程の宇宙空間の様な暗闇が広がっている。
こんな姿なのも忘れて、少しワクワクした気持ちさえこみあげてくる。
「咲夜様お疲れ様でした。そこを通れば大都市firstPlaceに入れます。私のナビゲーションはここまでとなりますので、一旦休憩するのであれば、先程お教えした方法で現実世界へとお戻りくださいませ。では、良きファスプレライフを!」
ペレが言い終えると同時にドォン!と大きな音が鳴り、扉が完全に開いたらしい。
一旦休憩も良いが、とりあえずはファスプレの世界を見てみたい気持ちが強い。
そして、純樹と奏をとっ捕まえてこの姿の話をしようじゃないか。
くそ、あの馬鹿共のせいで!俺がこんな目に!
よくよく考えたら昨日からアイツらのせいで散々な目にあっているからな。
土下座でもさせないと気が済まない。
だが、後に後悔する事になる。
そう、俺はここでログアウトをすべきだったんだ。
「よし、行くか…!」
意気込むようにそう言葉に出し、扉へと一歩踏み出す。
おお、ワープゲートのようになっているんだな。
片足を突っ込むと吸い込まれるような感覚がする。
そしてそのまま通ろうとした時。
「…っ痛、!!?…」
な、なんだ?
急に腹に痛みが…
「ぐっ……ッ、」
その場に膝を着くように座り込んでしまった。
「………、…?…あ、あれ?」
が、しかしそんな痛みも数秒、直ぐに痛みは治まった様だ。
「…ん、?なんだったんだ?」
出っ張った腹をペチペチと触ってみるが、特に何もなっていない。
そう当たり前だ、そもそもこれは俺の本来の身体ではないのだから。痛くても何かある訳が無いんだ。
この時、何故そんな事にも気が付けなかったのか。本体の方で痛みを感じていたという事に…。
本当に後悔をしている。この時、この瞬間に直ぐログアウトしなかった事を……
「まあいいか。さて、気を取り直して行くぞ!」
痛みが直ぐに引いた事に安心し、俺は何も気にもとめず、大きな扉のワープゲートをくぐった。
今日が俺のチート人生終了の日になるとも知らずに。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ぜひ、ブックマーク登録していただけると嬉しいです!
↓の⭐︎をタップいたしますと、本作の評価ポイントとなりますので、ぜひ評価もしてくださると嬉しいです!




