長い長い夜の終幕
「いやちょっと待てよ。でもあの時の女はたしか腫れぼったい一重だったはずだ。体型はダイエットでどうにかなっても元の顔はどうにもならないだろう?」
そう言うと、夢々が小さな声でボソリと呟いた。
「…整形したの」
「はあ!?整形だって!?お前、作り物の顔で俺に近づいたのか!?」
「そ、そんな!違うよ!整形っていっても一重を二重に変えただけで!他には何も…!」
「いやいや、そういう問題じゃないだろう。どこを変えようが整形は整形、俺は純正じゃない女は大嫌いなんだよ。あー…ブスが二軍に紛れ込んでいたなんて、信じられないよ。しかも事もあろうか一軍になろうとしてたなんて」
俺がそこまで言うと美優が「ほら、夢々。分かったでしょ、この男の本性が」と先程解かれた手を再び掴んで引き寄せる。
目に涙を浮かべた夢々は「美優、なんで言ったの?酷いよ…」なんて言っている始末だ。ブスはすぐ人のせいにしたがるからな。まあ、美優のせいにする辺りまだマジだな。
まったく恐ろしい思いをしたよ。
「さ、夢々の顔が偽物だったと分かった事だし、もちろん夢々とも別れるよ。いや寧ろさっさと俺の前から姿を消してほしいね。後腐れ残るのは嫌いだし、美優の記事にある事ない事書き込まれたりするのも面倒だ。ほら、さっさと出てってくれ。そっちの遥と真奈美も、もう用済みだよ。ああ、でも一応マネージャーからは連絡が行くように手配しておくから、マスコミにたれ込んだりするとか馬鹿な事は考えない方が身のためだよ」
玄関の方へ指さし、出て行けと促すと「行きましょ」と美優が夢々の手を引いたまま、玄関へと向かおうと足を動かした。
が、夢々は足を動かしたく無いようで「美優…!」と引かれた腕を止めている。
「夢々…半年も我慢したでしょ?お金まで渡して、こんな男のどこが良いのよ!」
「それは…」
言葉に詰まる夢々は視線を下に落としたまま、「とにかく、私は咲夜と別れたくないの」と美優の手を離した。
「夢々…!」
「はぁ〜、無理だよ夢々、もう俺たちはここでお別れだ。どれだけ言い訳しようと、君は俺を馬鹿にしたも同然。嘘の顔で嘘を付いて近づいて来たんだからね。何を言われても許す気はないよ。はい、話はもうこれでおしまい。さ、早く出てってくれ」
「咲夜、そんな…ねえ、お願い、!」
面倒臭いな、なんて思い始めながら「ほら、グズグズしてないで」と再度玄関を指さすと今度は純樹が大声を出し始めた。
ああ、なんて面倒臭い日なんだろうか…
「咲夜てめえな!夢々ちゃんの為だと思って黙ってたけど、もう我慢ならねえ!他の子にもなんて扱いしてやがる!?」
「あーもう何なんだよ、勘弁してくれ。面倒臭いな…別に俺は何もしていないじゃないか。彼女達だって俺の彼女になれて良い思いをしただろう?結婚していた訳じゃあるまいし、ただの男女の別れだよ。騒ぐほどの事じゃない」
「何もしていない、だと!?よくもそんな事が言えるな!昔からクズだとは知っていたけど、直に目の当たりにすると黙ってられねぇくらい酷いな…あー、くそ、酔いも覚めたわ」
全く…なんで俺がこんなに責められなければいけないんだ。
こうならないように徹底してきたはずだったが、やはり彼女がいる場面にこいつらを鉢合わせてはいけないと学んだよ。それと次からは二軍以上の女を選ぶ時は整形をしていないかしっかり確認しないとね。
こんな面倒は金輪際、御免だ。
それにこれ以上揉めると、美優が何をしだすか分かったもんじゃない。見たところ夢々は大丈夫そうだが、美優はもはや過去にトラブルを起こした面倒臭いアホ女共よりもタチが悪い。
純樹と奏はああ言ったが、報道が出る前に早々に対処しなければ。
まあ最悪、マスコミにも何人か俺に惚れ込んでいる奴もいるから、多少の事であれば大丈夫か…?いやまさか、美優のやつ録音なんてしてないよな?
そういえば、さっきから左手で何度かポケットを触っていた気がする。
純樹がワーワーと煩く何か言っているが、そんなものはどうでもいい。
もし録音していたとして、いつどのタイミングからそれを開始していたんだ?
いや、さっきのあの態度…今日だけじゃなくて他の日もしていた可能性もあるな…。
「おい、咲夜てめえ聞いてるのか?」
「ん?ああ、…まあまあ、純樹もそんなに熱くなるなよ。な?ほら夢々と美優も、少し落ち着いて話そう」
そう言いながら近づくと、美優が少し眉間に皺を寄せながら警戒した様子で俺を見る。
「何よ?出てけって言ったんじゃなかったのかしら?」
「そうだね、でも俺にとっては遥も真奈美も良い彼女だった訳だし、良い思い出だからね…それにまあ、こんな事にはなってしまったけど、美優、君ともそれなりに時間を過ごしたじゃないか。揉めては終わりたくないんだよ」
そっと近づいて、先ほど美優が触っていたズボンのお尻ポケットをチラリと見た。
やはり…何か端末のような物が電源がついた状態でポケットに入っている。
「は、今更何を言われたって無だ……っ!!」
隙を見てポケットからソレを抜き取ると、焦った様子で目を丸くする美優。
「…なるほど、やっぱりか。」
スマホ半分くらいの大きさの端末に、いくつもの録音履歴が残っている。
やはり、かなり前から常に録音していたようだ。
「ちょ…と!返しなさいよ!」
「いいや、無理だ。これはれっきとした盗聴だよ。回収させてもらう」
「おい咲夜、返してやれ…それは彼女の物だろう」
奏がそう言うが、この音声が流れれば面倒に巻き込まれるのは俺だけじゃなく、heaven's kissであるこの2人も巻き込まれるのだ。
にも関わらず、返せだと?とんだお人好しだな。
純樹と奏がスキャンダルでどうにかなるのは構わないが、俺が面倒事になるのはごめんだ。
が、現状は1対3だ。いや、傍観している良介、林、中村、それと最早戦意喪失している遥と真奈美を加えると1対7か。こいつら全員に力ずくで来られればいくら俺でも抵抗するのは難儀だろう。
「……わかった、返すよ」
言いながら指を画面にスライドさせる。
ちらりと見える画面にはリセットの文字。
よし、これで大丈夫だ。
「ほら、これでいいだろう?」
すっと美優の手のひらへ、録音端末を手渡す。
「…なによ、急にやけに素直に……!まさか、」
録音が全てリセットされた事に気がついたのか、美優が端末を操作するが、もはや時すでに遅し。
リセットは無事完了したようで、ピーーと無機質な音が鳴った。
「そんな…嘘でしょ、」
「お前っ、咲夜!何して…!!」
呆然とする美優に、奏と純樹が「美優ちゃん、本当にすまない…なんて謝ったらいいのか、」なんて謝っているが、この2人はむしろ俺に感謝すべき所だろう。
その横では良介が夢々に「大丈夫?」と声をかけているが、俺に振られたショックは大きい様だな。そもそも整形女程度が一時でも俺と付き合えていた事に感謝すらして欲しいね。
「さあほら、もう夜も遅いんだ。みんな帰ってくれ。いつまで人の家で騒いでいるつもりだ?林、中村、早くこいつらを連れ帰ってくれ」
「あ、えっと…」
どうしたものかと、あちこちと様子を伺いながらキョロキョロする林だが、中村は早い所この空間から逃げ出したそうにしている。
「そうですね、とりあえず今日の所は引き上げましょう…3人は明日も事務所なんですよね、あまり遅くなると明日に響きます、し…ね」
中村がとにかく何とかこの場を収めようと、林と目を合わせている。
「そ、そうですね!純樹さん、奏さんも、とにかく今日は…」
「あぁ…確かに、ここでこんな時間に揉めてても埒が明か無い。美優ちゃん、夢々ちゃん、とりあえず今日は帰ろう。何か話があれば俺が取り繋ぐから、いつでも連絡して」
スマホを取り出した奏が美優に連絡先を渡し、そろそろこの場はどうにか収まりそうだ。
そしてそのまま、皆が足を揃えて玄関へ向かう中、黙っていた夢々が振り返り「咲夜」と一言俺を呼んだ。
「……」
「あのね、…私、」
「……ハァ、夢々、正直君にはがっかりだよ。あの時の俺を遅刻させたブスだったなんてね。しかも整形までしてまた近づいて…更にはこんな面倒なマスコミ女まで引き入れてきてたとはね。二度と俺の前に現れないでくれ」
「…っ、」
「おい!咲夜、なんて言い方を……!」
「純樹、もういい。今は何を言っても彼女が傷つくだけだ。もう行こう」
バタン、と玄関の扉が閉まった。
はぁ、やっと終わった。
ライブが終わって気分が良かったはずだったのに、俺の人生最大最悪の夜になってしまったよ。
まったく、長い夜だった。
まあ、俺のチート人生の邪魔をするやつは即刻排除が一番だ。
これに限る。あとは事務所でマネージャーや社長が走り回ってくれるだろう。
「ふあぁ〜、」
家の中が静かになったら眠たくなってきたな。
さて、明日も仕事だ、今日の出来事は全て忘れてさっさと寝よう。
そう、なんて言っても俺は超スーパーモテ男の人気者だからね、こんな修羅場だってたまには起きるさ。
まあ、二度とごめんだけどね。
そう思い、少し散らかったままのリビングを後にし、そのまま倒れ込むようにベッドで横になった。
散らかった部屋は明日ハウスクリーニングにでも頼めばいい。
風呂も明日の朝入ればいいやと歯を磨くのも忘れ、そのまま眠った。
何度考えても今日は人生俺の人生で1番最悪な日だった、と思いながら。
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