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悪夢だと言ってくれ

「美優!私、こんな事別に望んでない!全部分かってて咲夜と付き合ったの!だから止めて!」


「何言ってるの、夢々!そんなの尚更だめに決まってるじゃない!昔からクズだとは思っていたけど…ここまでとはね。夢々、こんな男やめておきなさい。確かに顔はいいし、性格も外面だけは良いけど、他は全然だめ。昔から何も変わっちゃいない。いいえ、昔よりタチが悪いわ。とんでもないクズじゃないの」


 そう言い切る美優は夢々を自分に引き寄せるように腕を引っ張った。


「ははは、黙って聞いていれば…言いたい放題言ってくれるね。まあ良いよ。どの道美優、君はそろそろ切ろうと思っていた所だ。マスコミだなんて俺の一番嫌いな職にもついているし、今この場にいるのも忌々しいね。だけど、美優…夢々はどうだ?この状況でも俺と別れたくなさそうだけど?」


 俺がそう一言言うと「さ、咲夜…!」なんて嬉しそうな声を上げる夢々が美優の手を振り解いて俺を見た。


「ちょっと、夢々!?」


 そうそう、こうでなくちゃな。俺のこのルックスさえあればこんな修羅場も簡単に切り抜けられるのさ。


「…夢々、ごめん。これは言うまいと思っていたけど…もうこうなったらあなたの為よ…」


「…え、ちょ、美優…まさか…!ダメ!やめて!言わないで!」


「?」


 なんだ?何か美優に弱みでも握られているのか?

 こいつ、マスコミという立場を利用してとんでもない事をするな。

 まあいい、夢々がそこまで言うなと言うくらいの事だ、俺も聞いておいて損は無い。


「咲夜、貴方は知らないんだろうけど、…学生時代、夢々は貴方に一度振られているのよ」


「…?俺が夢々を?学生時代に?はは、なんだそんな事か。そりゃあの頃は一日に何十人にも告白されていたからね。もはや殆ど顔も見ずに振っていたよ。だからそんな事を恥じる事ないよ、夢々。昔は昔、今は今だ」


 確かに学生時代は何百人もの女を振ってきた。

 とんでもないブスだったならまだしも、普通に振った女の顔なんて覚えていない。


「ええ、そうね。でもどうかしら?咲夜、貴方はきっと覚えているはずよ。中学三年生の時、卒業前の 最後のライブの日に告白してきた子の事を…」


「中学卒業前の最後のライブ…?」



 ♢


「おい、咲夜…!あと30分でライブ始まるぞ!どこ行くんだ!?」


「ああ、ラブレターで呼び出されててね。どうしてもライブ前に伝えたいって書いてあるからさ。会場裏って書いてあるからすぐだよ。よっぽどの美人じゃなきゃパパっと振って帰ってくるから、はは!」


「ったく…何でもいいから遅刻だけはすんなよ!卒業前最後のライブなんだからな!!」


「わかってるわかってる」


 純樹とそんな会話をした俺は、ライブ会場裏の大きな木がある花壇へ足を運んだ。


「やあ、君かい?ここへ俺を呼んだのは」


「…さ、咲夜先輩」


 木の影に人影を見た俺がそう話しかけると、小さな声でボソリとそう言いながら俺と同じ学校の制服を着た女子が木の影から出てくる。


「…う、うわ…まじかぁ〜……」


 想像よりもはるかにデブでブスな女子がモジモジしながら俺をチラチラと見ながら現れ、つい声にまで出てしまった。


「…あ、あの!私…!2年の、」


「あー、ごめんごめん、君みたいな子にライブ前の大事な時間割けないんだよね。はぁ〜、俺に告白するならさ、もうちょっと見た目どうにかしてからにしようよ〜…はは、悪いね。貢いでもらってもデブと一重は無理って決めてるんだよ。じゃあ」


 俺はその後輩であろう女子の名前を聞くことも無く、あっさりと振って純樹と奏が待つライブ会場へと戻ったんだ。

 ああ、その途中で喉が渇いたからコンビニへ行ったりもしたっけな。

 で、戻った時にはライブが始まっていたみたいで、遅刻だと純樹に散々嫌味を言われた。会場で皆を10分も待たせてるとかなんとか。


 そんな事を言われたって、俺はあのブスに呼び出されたんだ。俺のせいでは無いよな。純樹に少しムカつきながらも、10分遅れでライブがスタートした。


 そしてライブ中盤のMC、俺が少し喋っていると最前列に見覚えのある顔がチラリと見えた。


 そこにいたのは、先程俺を呼び出したブスだ。こいつ、振られたのにも関わらず最前列でライブを見てたとは、気持ち悪いやつだな。なんて思っていたら、こいつのせいで純樹にグチグチと言われたのを思いだし、少し仕返しをする事にした。


「そうそう、実はライブ前にラブレターを貰っちゃってね!」


 俺がそう言い出すと、その女が少しだけ身体をビクリと揺らしたのが見えた。


「どうしてもって言うからライブ前に告白を聞いてきたんだよ。もちろん、その子には申し訳なかったけど断ったよ。だって俺は皆の咲夜だからさ、はは!それでライブが押しちゃってね、みんな俺のせいでゴメンな!」


 そう謝ると、ヒュゥヒュゥ!キャー!謝らないでー!咲夜大好きー!なんて様々な声が会場中に舞い上がる。


「あっ、あれ!君!?最前列で見ててくれたのかい!?君だよね!さっき俺に告白してくれた子!」


 今見つけたと言わんばかりにその子を指さして「いつも俺を見てくれててありがとう」と言いながらしゃがみ、そいつのボサボサした髪を撫でてやった。


 そうすればもう会場中の声は俺の思い通りだ。


 キャー!ズルーイ!えー!この子が!?この子のせいで押したの!?よくその見た目で咲夜に!えーキモー!ブスじゃん!等々様々な避難の声と目線がその女子に集中した。


「いやいや!みんな、そんな事言わないでくれよ…!俺からしたら皆平等だよ!」


 俺のこの一言で仕上げて終了。

 あのブスは身の程を知って、俺の株は上がってと最高の出来だ。


 ♢



 と、まあ中学最後のライブと言えば確かにそんな事があったな。


「どう?思い出した?」


「はは、思い出すも何も、あの時の子がなんだって言うんだ?」


「まだ分からないの?本当にクズね。そのアンタが公開処刑も同然の形で振った子が夢々よ」


「は?あのブスが夢々だって?どういう事だ?嘘だろ?」


 チラリと夢々を見るが、手をギュッと握ったまま目を合わそうともしない。

 奏はため息を吐き、純樹は「本当に何も見てないんだな、お前は」と眉間の皺を寄せている。

 もう1人、当時を知っているはずの良介は「流石に気がついてると思ってたッスけど…すんません、」なんて謝ってきやがる。


 俺は今悪い夢でも見ているんじゃないか、そんな感覚にすら陥りそうだ。

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