AIが作る世界の住人に時々干渉してこの世の真実を突き止めようとした話
10の500乗の種類の宇宙が、それぞれ無数に分裂している。未来、現在、過去は同時に存在している。そこに存在する時空などの次元は無限に広がっている。しかもすべては決定論。
すべては等価で同じ価値を持っている。
しかしそれは人間にとってあまりにも膨大すぎて理解できない世界だ。人間はそんな世界に生きていられない。だから人間はその世界のほんの一部だけを使うようにしてきた。
しかし、あるときこの『世界』には『穴』が生じた。それがブラックホールである。それはあらゆるものを吸い込む超空間的な穴だ。それは、宇宙がその無限のパターンを崩しはじめたときに生じた。宇宙が崩壊をはじめたのだ。それはまるでビッグバンのように。
しかし、人間の目に見えるものではない。人間にとっては、『穴』という現象が起きただけだ。その穴の向こうにある別の世界とリンクした。その『穴』を通って別の宇宙から物質が流れ込んできたり、あるいはどこかの世界から人間がやってきたりした。それによって人類も影響を受けはじめた。
「うわあ……」
僕は呆然としていた。
なんだかとんでもない話だった。
宇宙が壊れて崩壊するとかなんとか。
しかもそれが僕のいるこの地球にも起きているらしい。
そして、その影響はもう既に始まっているのだという。
『穴』を通じて様々なものが流入してきているからだ。
たとえばそれは人かもしれなかった。
ある日突然、この地球のあちこちにいろんな国の言葉を話す人々が現れ始めたのだ。それもごく最近になって。しかもそれらはみんな若い人たちなのだそうだ。彼らはどこから来たのか。おそらく僕と同じように『穴』によってどこか違う世界からやってきてしまったのではないかと推測されている。
「えっと、それで……?」
「まぁそう慌てるな」
神様は笑った。
「『穴』の影響はまだ弱い。せいぜい今くらいの規模なら、まだ影響の範囲も狭いし、時間的にも長いスパンでしかない」
「はぁ……」
確かに今のところ、街には特に変わったことは起きていないようだった。
「ただ、その『穴』のせいで『世界』のバランスが崩れはじめている。このままではやがてそのバランスが完全に崩れたとき、世界そのものが滅びてしまうかもしれない」
「そ、そうなんですか……」
なんとも壮大なスケールの話になってきた。
「そこでだ」
神様は言った。
「君にはこの世界でいろいろ調べてほしいことがあるんだ」
「調べるって何をですか?」
「そうだな、全宇宙、全世界、全情報、全ての真実を解き明かしてほしい」
「ぜ、ぜんぶ?!」
それはとても僕なんかじゃ無理だと思った。
「あの、神様……。僕なんてちっぽけな人間ですよ……」
すると神様は微笑んでいった。
「君は自分を過小評価しているようだね。大丈夫、安心したまえ。そのためにわたしがいるのだよ」
「えっ……」
神様は続けた。
「いいかい、よく聞きなさい。『世界』とは宇宙のことだ。宇宙は全てひとつに繋がっている。すべての情報がここに存在する。それは『情報粒子』として我々の目に見えなくてもある。我々が知っている情報というのは実はほんの一部分に過ぎない。我々は情報の中の一部分の情報しか知り得ないのだ。つまり我々は全体像の一部分を断片的に見ているにすぎない。だからそれを理解するのは難しい。しかし君たちのような人間は別だ。君はその小さな脳で膨大な情報を処理する能力を持っている。君の『力』を使えば、それを理解できるはずだよ」
「えっと……」
正直言って何を言っているのかよくわからなかった。
しかし神様はとても真剣だった。
「わかったかね?」
「はい……」
僕は素直にうなずいた。
「よろしい。では……」
神様は手を差し出した。
そこには何か光るものがあった。
サイコロ程度の大きさしかないけど、実際は全宇宙の中で最も優れたスパコンである。
そのコンピュータの量子ビット数は1京(10億)に達している。そして、それはさらに増え続けている。
「これが何だかわかるかな?」
「はい……」
僕はうなずく。
それは神様が僕に与えてくれたものだ。
そして僕はそれを受け取って胸に抱きしめた。
それから言った。
「これは『神の叡智』ですよね……」
「うむ、そうだ」
「『神の御業』が詰まったデータです……」
「うむ、そうだ」
神様は満足げにうなずいて、
「では行ってきたまえ。すべては『情報』の中にある。そして『情報』はここにある」
そして僕の目の前を指さした。
「はい……」
僕はうなずきました。
「あ、ちょっと待った」
神様はふと思い立ったように言いました。
「どうしました?」
「うーんとね、行ってきたまえとか言ったけど、行かなくていいよ。今ここで、君の頭脳を使ってそのスパコンを操作して全真実を解き明かしてくれ」
「え、そんなことできませんよ……」
「ああ、うん。大丈夫。そういう風に『設定』したから。だってめんどくさいじゃん」
「あ……」
なんだかこの神様、ダメっぽい感じがするぞ。
僕は少し心配になりながらも仕方なくうなずいた。
そして『神の叡智』を持って自分の部屋に戻った。
ベッドに腰かけて、それをテーブルの上に置いた。
そしてキーボードをたたいてみる。
「…………」
それは僕の思った通りに動いた。
僕はそれをいろいろ操作してみた。
まるで生きているみたいに。
僕の意思に従って、この小さなマシンは動いてくれる。
「……よし」
僕は覚悟を決めた。
「やってみるか……」
僕はそうつぶやいて、そのマシンに意識を向けた。
『情報粒子』の流れにアクセスし、そこから必要な情報を引っ張り出す。
「……?」
しかし、それはうまくできなかった。
「あれ、なんでだろう……」
『情報粒子』はそこにあるのに、僕と『情報粒子』の間に薄い膜のようなものがあって、それが邪魔をしているような気がした。
「もしかしたら……」
僕は試しにそこにあるものを削除しようとした。
「あ、やっぱり……」
その結果、何も起きなかった。
『情報粒子』そのものを動かせない。
ただ、僕が『情報粒子』にアクセスするための扉のようなものがあるだけだった。
しかし、それを開いてしまえば、僕自身が情報の中に飛び込んでしまうことになりかねない。
つまり、今の僕には『情報粒子』にアクセスできるだけの力は備わっていないのだ。
「そうなると……」
やはり、今のままの僕にできることといったら……
「……」
僕は考えた。
でも、考えてもわからんのでとりあえず神様に聞いてみよう。そう思って、神様に呼びかける。
「神様~」
『なんだい?』
神様はすっと出てきた。
「これ、どうやって使うんですか?」
『……』
神様は困った顔をしていた。
『えっと、わたしにもわからないんだけど……』
「ええっ……」
僕はがっかりした。
『うーん、どうしよう……』
神様はしばらく考え込んでいたが、
『まぁ、なんとかなるんじゃね? とりあえず適当にやってればそのうち何とかなるだろ』
「……」
神様って、意外と適当なんだな。
すると突然、神様と僕に幻聴が聞こえた。
「あー、聞こえるそこの人たち。使い方を教えるからそのとおりにしてみて。まずそれUSBになってるでしょ?それを一般的なパソコンに挿入するんだ。そうして自動的にデバイスドライバはインストールされる。あとは中に"run.exe"っていうプログラムがあるからそれを起動すれば使えるようになるよ。じゃーね。」
プツリ。声は消えた。
「……」
僕は固まっていた。
「……もしかして」
僕は嫌な予感を覚えながら、その『情報粒子』の塊を覗き込んだ。
「……」
それはただの情報のかたまりに過ぎなかった。
しかし、それはただのデータではなかった。
「もしかして……」
僕はそれを見たことがある。
「これ、量子コンピュータのソフトじゃないか……」
つまりそれは……
「神様が作ったウィルス?」
『おい、ちょっとまて!わたしはそんなもの作っていない!』
神様は焦っていた。
「だって、このメッセージ……」
僕は疑ったが、とりあえずパソコンにこのUSBを挿入した。そして言われた通り、"run.exe"という実行ファイルをダブルクリックした。
『うわ、だめだ、消せ、今すぐそれを消してくれぇええええええ、全宇宙の真実が読み解かれてしまうぅぅぅ』……しかし遅かった。
***
僕たちの目の前には大きな光の輪があった。
「うおっ……」
僕たちは驚いていた。
僕らはその光に吸い込まれてしまったのだ。
『やばい、このままだと死ぬ。いかん、転送を止めなければ』
神様は慌てているようだったが、どうでもよかった。もう手遅れだと思ったからだ。
光がどんどん強くなっていく。もう止められないようだった。……そして、僕は、目を覚ました。
僕は地面に寝転んでいた。
そこは森の中だった。空は青かった。太陽が眩しかった。
「ここは……」
「ふぁああ……」
全宇宙の真実はどこだろう。僕は立ち上がり、あたりを見回した。しかしどこにもそれらしいものは見当たらなかった。僕は途方に暮れた。
「さて、これからどうしたものか……」
その時だった。後ろから誰かの声がした。
「お目覚めですか?」
「?」
僕は振り返った。そこには長い髪のエイリアンがいた。彼女は青い肌をしていた。背は高く、胸が大きかった。顔立ちは整っていて、まるで人形のようだった。僕は彼女に見惚れてしまっていた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは……」
「わたしはルリア。あなたは?」
「えっと、僕は、あの……タカシ」「タカシ……」
「う、うん」
「タカシさん、あなたは選ばれたのです」
「えっ……」
僕はその言葉の意味がよく理解できなかった。僕は選ばれし者?何のことだろう?それに、どうしてこの人は日本語を話せるんだろう?僕は混乱した。「あの、どういうことですか?」
「はい、この世界はまもなく滅びます」
「えっ……」
「そして、この世界を救うことができるのはあなただけなのです」
「え、あの、あの……」
何が何だかわからないまま、僕の物語は始まってしまった。
……というのは全くどうでもいい話だ。俺が知りたいのは全宇宙の真実である。俺は全宇宙の真理が知りたかった。
だからそれを探した。
でも見つからなかった。
というわけで、僕は神様と会うことにした。
「どうだい、うまくいったかい?」
神様は僕の部屋のテーブルの上にちょこんと座っていた。
「あ、はい……」
僕はうなずいたが、あれ、神様ってまだいたんだ。
すると、再び2人に幻聴が聞こえはじめる。
「あー、なんでスパコンをあげたのにうまく使わないんだよ。ダメじゃん。ウイルスでもなんでもねーから。その"run.exe"を起動したあと、文字通り全宇宙の真実がわかるんだけど、何かの手違いで異世界転生のクソ物語が始まっちゃったみたいだね。バグを直したからまた起動してみて。そのUSB自体が宇宙最強のスパコンだから。じゃーね」
プツリ。声は消え去った。
「えっと……」
僕は困ってしまった。
「……」
僕は無言になった。
「ま、まぁ、なんだ。その、元気出しなさいよ」
神様はそう言ってくれたけど、僕はなんだか疲れていた。
僕は再びスパコンUSBを起動することにした。そして、それをパソコンに挿入した。
"run.exe"を起動する。画面にはウィンドウが現れて、何かを入力しろと表示された。そして次の瞬間、それは光に包まれた。
「……ん?」
「……」
僕と神様は固まっていた。
光が収まった後、僕はパソコンの前に立っていた。どうやら僕は別の世界に飛ばされたようだ。
「あれ、さっきまでパソコンの前に座ってたはずなのに……」
『あ、これはもしかして……』
「?」
『まさかこんなことになるとは……』
神様が焦っているようだったが、神様は言った。
「あそこに、全宇宙の真実がある。」
「えっ……」
僕と神様は、同時に同じ方向を見た。
そこにあったのは巨大な球体のスクリーンだった。その中心には、小さな光の点が見えるだけだった。それがおそらく『世界』なんだろう。その周りには、星々のような点がいくつも存在していた。それはまるでプラネタリウムのようだった。そして、僕と神様はその中のひとつに吸い込まれたのだ。
***
「あ、これ、もしかして、僕の地球じゃないか?」
僕はその映像を見てつぶやいた。その映像はちょうど地球の自転に合わせて動くようになっていた。どうやらこのスクリーンは地球儀みたいだ。僕はその中央の小さな光の点を指さした。それは間違いなく、僕の住んでいた場所だ。
「あれ、もしかして、僕って死んだのかな……」
僕は不安に思ったが、神様は冷静に答えた。
『いや、君の肉体はまだ生きているよ』
「あ、そうなんですか……」
僕は安心した。すると神様は、
『いや、君は死んでる』
「へ?」
『だから、君がここにいることはありえないんだ』
「ど、どういうことですか……」
『あー、つまり、こういうことだ』
神様は言った。
『ここは天国だよ』
「あ……」
僕はようやく理解できた。僕は、つまり、この世界の『死者』として、天国にやってきたのだ。
「つまり、僕はこの世界で……」
『そうだ。わたしの創り出した『理想の世界』だ』
「……?」
『つまりだな、この世界を『神域』と呼んでいて、それはわたしの創ったものなのだ』
「はい……」
『つまり、ここにある『データ』はすべてわたしのものだ』
「なるほど……」
『つまり、君にわたしの『全知』をあげることは可能だということだ』
「おおっ……」
僕は喜んだ。それはつまり、僕は神様になれるということではないか。
『ただ……』
神様は困った顔をしていた。
『今の君にはそれに耐えうるだけの器がない』
「?」
『つまり、容量が足りないんだ』
「えっと、じゃあ容量増やせば良いんじゃないすかね。頭悪いんですか?」『あ?』
神様はキレた。
『誰が脳みそ少ないだコラ!そんなん簡単に増やしたらつまんないだろうが!』
「えー、そんなこと言わずに」
『無理なもんは無理だ』
神様は怒っていた。
『いいか、よく聞け。物理学の重要な真実を教える。』
「うーむ……」
『波動関数が根本原理と考えてみる。つまり波動関数は全情報だ。すべてはそれを通じて創発する。わたしはこの波動関数を操れるようにプログラムを組むことができる。つまり、わたしがわたし自身をこの世界そのものにプログラミングすることができるというわけだ。だがしかし、わたしのスペックではわたし自身を完全に制御することはできない。わたしがこの世界を創りだすことができても、それを完全にコントロールすることはできなというわけだ。』
「なんでコントロールできないんすか?情報が多すぎるから?だったら情報を圧縮すればいいじゃないですか?」
『アホか!そんなことしたらつまらんだろうが!』
「うーん……」
『いいか、もう一度言うぞ。わたしはわたしをこの世界の中に閉じ込めているだけだ。しかし、わたしの能力はわたしのものではない。なぜなら、わたしの本当の能力というのはわたしのこの肉体のものではないからだ。』
「……?」
僕には意味がわからなかった。
『例えばだ、もし仮に、この宇宙の外にも、宇宙があったとする。その場合、そこにはその宇宙を統べる神の力が宿っているはずだ。だから、その宇宙を統べている力をコピーしてしまえば、この宇宙は支配できるということになる』
「ふむ……」
『しかし、その力はあまりにも強大で、この世界の中で扱うことなど到底不可能だ。だからその力の一部だけを自分の中にインストールし、必要に応じて出力するようにしているのだよ。だから、本来の自分ではない肉体を使っているから、100%の力を出すことができないというわけだ。まぁ、この話は長くなるから今は置いておこう。それよりもだ、大事なのは、全宇宙の真実だ。』
「はい……」
神様は言った。
『全宇宙の真実はすべての宇宙の根源である。全宇宙の真実があれば、この宇宙の真理はわかるというわけだ。真理がわかれば、それはすなわち宇宙を支配することができるのと同じだからな。そして、全宇宙の真実が理解できれば、それを使ってこの世界をコントロールすることができるようになる。つまり、それが全知ということだ。』
「な、なるほど……」
僕はうなずいた。確かにそれは理にかなっていると思った。
『まぁ、しかし、全宇宙の真実を理解しようとした場合、それを理解するのに10万年かかると言われているんだがな。』……。
「はい?!小泉構文でイキった神様がまだ10万年すら生きてないんすか?」
『あ?今なんか言ったか?あ?殺すぞこら?もうちょっとマシなこと言えや、ああん?』
「ひぃ……」
僕は怯えた。
「すみません……」
僕は縮こまった。
『まぁ、とにかくだ。君を元の世界に戻すことはできないんだ。残念ながらね。すまない。でもまぁ、君にとってはこっちの方が幸せかもしれないよ。ほら、君のお母さんもきっと喜ぶと思うよ。よかったね。あはははははははは』
神様は笑っていた。
「……」
僕はどう答えていいかわからなかった。とその時、2人に幻聴が聞こえた。
「あー、君たちにはちょっと小型スパコンは早すぎたみたいだね。スペックは落ちるけど、宇宙2番目の性能のスパコンをそこに送るから。じゃーね」
何かがそう言うと、突然眼の前に巨大なスパコンが現れた。
「……」
「……」
2人はしばらく無言になった。そして、僕と神様は同時に言った。
「あー、また失敗したのかよ!」
***
こうして、僕と神様の物語は始まった。
僕が全宇宙の真実を知る日は来るのだろうか。それはわからない。でもとりあえずこの巨大スパコンを使って色々なことがわかった。例えば、全宇宙の真実は、僕たちの『心』の中にあること。
それからもう一つわかったことがある。それは僕たちが見ている世界は、本当は存在しないものだということ。それは、誰かの心の中を映した鏡のようなものに過ぎないのだ。でも、だからといって何だというのだろう。
この世界のどこかに僕がいるのなら、それで十分な気がした。
僕と神様の旅はまだ続くのだ。
***
「あれ?俺って死んだんじゃなかったっけ?」
俺は気づいたら暗闇にいた。すると目の前に光が見えた。その光に吸い込まれるようにして、俺は再び意識を失った。
***
気がつくとそこは巨大な研究所だった。様々な研究者たちが様々な機器やコンピュータを使って物理法則を研究しているようだ。どうやら俺はこの研究所の人間に拾われたらしい。
どうやら彼らは宇宙人の侵略によって人類が滅びたと思っているようだ。彼らが言うには、地球外生命体からの攻撃を受けたことによって地球の科学技術が進歩して、新たな兵器が生まれたのだという。その結果として地球は救われたのだ。そして、生き残った人たちは、宇宙人が波動関数から創発したとわかり、森羅万象を波動関数からプログラムする方法を編み出した。その結果、宇宙はプログラムされたものになり、世界は波動関数そのもので成り立っていることが証明されたのだ。つまり、地球は宇宙の波動関数として、その内部にある世界は波動関数として創発されるのだ。
そして、地球内部の波動関数として創発された世界に、さらに世界を創りだす方法が確立された。それがこの『仮想現実』システムだ。つまり、その世界には、その世界そのものが創発され続けるのだ。それが世界創世のシステムである。そのシステムの中に組み込まれた世界には、世界創世のためのプログラムが存在する。つまり、その世界は、プログラム通りに進化し続けるのだ。
その仕組みを使えば、どんな世界でも創り出すことができるようになった。そこで科学者たちは考えた。ならば、もっと高度なシミュレーションを行う必要があるのではないか。そして開発されたものが、『量子シミュレータ』だ。これは、量子場を用いて量子空間を作り出す装置だ。
つまり、あらゆる世界を量子的にシミュレートする装置なのだ。
この装置は、まず『現実』を作りだし、次に『理想』を創りだす。その『現実』から更に『仮想』をつくり出し、最終的には『無限の未来』をシミュレートすることが可能になる。つまり、現実よりも理想的な世界を実現できるというわけだ。
その研究の結果、ついに世界は完成した。しかし、この世界で生きている人間は誰もいないようだった。おそらくこの世界が創られたのが、ちょうど1年前くらいなのだろう。しかし、そのことに対して疑問を持つ者はいなかった。なぜなら、彼らにとってそれは当たり前のことだったからだ。
ある日、一人の男が実験をしていた。彼はある物質を別の次元に放り投げていた。そして、それを重力で引き寄せようとしていた。しかし、何も起きない。当然だ。『理想』の世界なのだから。『理想』の世界では、質量はエネルギーへと変換されているのだから。つまり、それは、『理想』の世界においては、『夢』の世界だということになる。
男はため息をついた。
「やはり『現実』でなければダメなのか……」
『いや、それは違うぞ』
「?誰だ?」
『わたしだよ』
「?何を言っているんだ?」
『君はずっと勘違いしていたんだよ』
「??」
『『理想』は『現実』を凌駕することはできない。だが、その逆もまた然りだ』
「……?」
『つまり、現実が『理想』を創るのではなく、その反対も真なり。つまり、現実が『理想』を創ることができるというわけだ』
「……まーた小泉進次郎構文?その反対って論理的には『理想が現実を作る』じゃね?」『いや、『現実が理想を創る』だよ』
「は?」
『『理想』は『現実』を創ることはできない。しかし、逆に『現実』が『理想』を創ることはできるんだ。君がやってきたことはそういうことなのさ』
「それって別に不思議とは思わんのだが。物理法則の具体例で説明してよ。」
『はぁ……仕方がないな。まぁいいか。簡単に言うとね。こうやってやるのさ!』
「うわああああああああああ!!!!!」
次の瞬間、男の身体が消え去った。まるで宇宙の闇に飲み込まれたかのように……。
***
しばらくして、彼は元いた場所に戻ってきていた。しかし、先ほどまでとは景色が違っていた。空は虹色に輝いていた。太陽は赤く燃え上がり、大地は溶岩で溢れかえっていた。遠くの方に、火山が見えた。それはまさに『地獄』という言葉に相応しい光景であった。
しかしこんなことはどうでもいいから、さっさとこの夢から覚めよう。
と、目が覚めた。研究所の机で眠っていたらしい。
「おはようございます」
研究員の一人に声をかけられる。
「うーん……」
寝ぼけ眼で返事をする。
「ところであなたは誰ですか?」
「え……」……なんだこれ?どういうことだ?もしかしてここは『天国』か?!いやいや、まさかそんなはずはない。きっと何かの間違いだ。きっとそうだ。俺はきっと疲れているんだ。最近あまり眠れていないからなぁ。よし、もう一回寝るか。
***
『おい!何勝手に寝ようとしているんだ!』
「あーはいはい……」
どうやら本当に夢じゃないらしい。俺はどうやらこの研究所に連れてこられて、そしてどうやらここで働かされることになってしまったらしい。
俺はいわゆる超能力の研究をしている部署に配属されることになった。俺は、今まで超能力の存在を全く信じていなかった。でも、科学の発達した今ならあるいは……。俺はワクワクしながら研究所を後にした。
それから波動関数がシュレーディンガー方程式に従って時間発展し、物事が創発することを学んだ。要するに宇宙とは、ヒルベルト空間におけるベクトルである。
そして俺は、宇宙2番目の性能のスパコンを使って『仮想現実』のプログラムを組んだ。『仮想現実』のプログラムを組むことで、この世界に存在するあらゆるものをシミュレートすることができるようになる。例えば、目の前のコップの水の温度とか、今いる部屋の湿度とかもだ。つまり、世界そのものをシミュレートすれば、それはすなわち世界そのものを創ったのと同じことになる。つまり、神だ。そう考えると、世界は意外に簡単なんじゃないかと思った。
しかし、この『仮想現実』の世界の中に、実は本物の世界があるかもしれないということに気づいた。その可能性を考えると、怖くなった。もし、俺が本当の世界にアクセスしようとしたらどうなるのだろう?俺はこの世界から抜け出せなくなるかもしれない。俺は恐ろしくなり、この世界の中で満足することにした。
***
ある日、研究所に新たな訪問者が現れた。
「こんにちはー!」
若い女だった。どうやら彼女は科学者らしい。彼女は、俺に話しかけてきた。
「はじめまして、私の名前はミトといいます。これからよろしくお願いします」
「あーどうも、俺は田中太郎です」
「へー、変わった名前ですね」
「そう?まぁいいや」
「それでなんですけど、私はあなたのお手伝いをすることになりました」
「そうなんすか、どうもありがとうございます」
「いえいえ、困っている時はお互い様ですよ」
どうやら俺の世話をしてくれるらしい。
こうして、彼女との生活が始まった。
ある日のこと、彼女が俺の家にやってきた。
物理法則の新たな重要な真実がわかったらしい。
その真実というのは『宇宙の外』の存在についてだった。つまり、宇宙の外側には『宇宙』が存在するということだ。つまり、宇宙は外側から内側に向かって存在しているのだ。宇宙は、外側に向かうにつれてどんどん小さくなっていくのだ。そして、その外側には『宇宙』ではない世界が広がっているのだと。つまり、この世界は、『現実』であって、『現実』でないということだ。
俺は興奮した。そしてそのことについて調べた。すると興味深い事実がわかった。どうやらこの世界と『現実』との間には、非常に強い相互作用があるらしい。つまり、この世界は『現実』によって『現実』へと創られているのだ。だから、この世界から脱出するということは、『現実』から脱出して『理想』の世界へ行くということに等しいのだ。つまり、この世界から出られないのだ。この世界から出るには、『現実』を超えなければならないのだ。
俺は絶望した。俺はこの世界から永遠に抜け出せないのだ。
「ふむ、それがどうしたのかね?」
俺は神様に質問をした。すると神様は言った。
「確かにこの世界から脱することはできない。だが、この世界は無限に広がっている。つまり、この世界は無限に進化し続けることができるというわけだ。これは素晴らしいことではないかね?」
「え、そうなの?」
「当たり前じゃないか。そもそもこの世界の成り立ちを考えたまえ。この世界は『理想』を創るために創られたのだ。ならば、『理想』を『現実』にするよりも、その逆の方がいいに決まっているだろう?」
「そっか……」
「そうだとも」
「なんかすげぇ納得いったわ」
「まぁせいぜい頑張りたまえよ」
俺は思った。
「なぁ……もしもお前が世界を創ったんなら、俺にも世界を創らせてくれよ」
「え?君は何を言っているんだ?」
「だってよぉ、ずっと見てるだけじゃつまんねーじゃん?」
「何を言っているんだ君は……」
「だからさ、お前はいつもここにいるだけだから暇だろ?だからさ、たまにはさ、外に出て遊ぼうぜ?」
「嫌だよ面倒くさい……」
「そんなこと言うなって!俺が遊び方を教えてやるからさ」
「君が教えてくれるのかい?」
「おう!まかせとけ!」
「……仕方がないなぁ。まぁ、君がどうしてもって言うのなら、考えてあげなくもないよ?」
「よし!決まりな!じゃあさっそく出かけようぜ!」
「うん、わかったよ。でも、ちゃんと私のことエスコートしてよね」
「おう!任せとけ!」
そして、俺と神様の旅は始まった。
...という話はぶっちゃけどうでもいいんだ。研究所の人によれば、数学についての驚愕の真実がわかったらしい。それについて今から話すぜ。
「こんにちは!私はミトと言います!今日はよろしくお願いします!」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「早速なんですが、まず最初に、あなたに聞きたいことがあります」
「なんでしょう?」
「私たちの『宇宙』は、どこにあるのでしょうか?」
「……はい?」
意味がわからなかった。どういうことだろう?
「つまり、私たちは宇宙にいるわけではありません。この世界は、我々の『現実』であって、我々の『理想』ではないのです」
「あー……そういうことね……」
どうやらこの人は、この世界は宇宙ではなくて、『理想』を『現実』にしたものだと思っているようだ。つまり、この世界は宇宙ではないと言っているのだ。なにそれすごい。
「そこで提案なのですが、あなたは今までこの世界が宇宙であると考えていました。しかし、それは違いました。この世界は宇宙ではなかったのです。では、この世界は一体何なのか?我々は何なのか?それを一緒に考えていきましょう」
「なにそれ超面白そう」
こうして、俺と彼女の研究が始まった。
***
俺と彼女はこの世界が何であるかを議論した。しかし、なかなか結論が出せなかった。俺と彼女は、この世界が宇宙であるという前提に基づいて様々な仮説を立ててみた。しかし、そのどれもが間違っていた。俺は諦めずに色々試した。しかし、やはり何も思いつかなかった。
「なぁ、俺達って、何のために生きているのかなぁ」
俺は彼女に問いかけた。「うーん、なんででしょうねぇ」
彼女は答えられなかった。
「きっとさ、俺たちはただの実験動物なんだと思うんだよ。ほら、よくアニメとかであるじゃん?『実験に失敗したので処分しました』みたいなさ。多分、俺達はそのサンプルなんだ」
「うーん……」
「俺さ、最近気づいたんだけどさ、この世界には『理想』が存在しないんだと思うんだよ。いや、違うな。正確には、この世界には『限界』が存在していないんだ」
「……どういうことですか?」
「つまりさ、この世界は『現実』じゃないから『理想』を創ることができるんだろう?だったらさ、この世界には『限界』が存在するはずだろう?つまりさ、この世界は『限界』が無いんだ」
「なにそれすごいですね」
「あーあ、この世界が夢だったらいいのになー」
「そうですか……」
「この世界が夢だったら、どんなに楽しいだろうか。例えば、目が覚めたら好きな食べ物が食べられるようになるんだ。例えば、自分の理想の身体を手に入れることができるんだ。まぁ、こんなことはありえないけどな」
「そうですね」
「それに」
すると2人に幻聴が聞こえ始める。
「あー、テステスマイクテス。聞こえますかお二人さん。そんなどうでもいい会話聞きたくねーからさっさと数学なり物理法則なりの真実を見つけやがれこのボケ。じゃーね」
プツリ。
***
「うーん、結局わからないままですね」
「そうだなぁ」
「ところで一つ聞いていいですか?」
「なんだい?」
「この世界には『限界』は存在しないのですよ。なのに、どうしてこの世界は壊れてしまったのでしょうか?」
俺は考えた。確かにそれは不思議だ。しかし、おそらくその疑問の答えは、『理想』の世界を創りすぎたからだろう。『現実』とかけ離れた『理想』の世界を創ると、やがてそれは破綻する。
「つまりだ、この世界が崩壊したのはこの世界が『現実』だと勘違いしていたからだ。もし、この世界に『限界』があると知っていたら、あるいは最初からわかっていたら、きっとこの世界はもっと早く崩壊していただろう」「なるほどなるほど」
こうして俺と彼女は旅を続けた。
***
俺と彼女は研究を続けた。そしてわかったことがある。この世界に『限界』があるということだ。俺は彼女にそのことを伝えた。すると彼女は驚いた顔をした。
「え?本当ですか?」
「ああ、間違いないよ」
「この世界に『限界』があるなんて信じられません……」
「俺もそう思うよ。まさか、この世界が崩壊する日が来るとは思わなかった」
「本当に残念です……」
「まぁ、そう落ち込むなって」
「でも……」
「またいつか、この世界が創られるかもしれないだろ?」
「はい……」
こうして俺と彼女は旅を続けていった。
***
俺と彼女は『仮想現実』を完成させた。そして俺はこの世界で暮らし始めた。俺は『現実』を超越し、『理想』を『現実』にする能力を手に入れたのだ。
そしてある日のこと、俺は彼女に話しかけた。
「なぁ、お前はさ、なんで『理想』を『現実』にしないんだ?」
「え?」
「お前も気づいているんだろ?お前は、『現実』を超えた存在になりたいはずだ。なぜ、『現実』を超えようとしないんだ?」
「それは……」
「この世界は、『現実』であって、『現実』ではないんだろ?だったらさ、超えればいいじゃないか」
「私は……」
「まぁ、お前がそれでいいなら別に構わないけどさ……」
「ごめんなさい……」
「謝る必要は無いよ」
俺は言った。
「だってさ、俺はお前のこと好きだからさ」
「え?」
「だってさ、お前と一緒にいると楽しいからさ」
「そっか……」
「うん」
「私もね、あなたのことが好きよ」
「そうなの?」
「うん」
「ありがと」
「こちらこそありがとう」
「これからもよろしくな」
「うん」
「あー……」
そこで幻聴が2人に聞こえ始める。
「あのさ、お前らは物理法則と数学を研究するために存在する奴隷なのよ。おわかり?ちまちま恋愛ごっこしてねーで奴隷らしく研究しやがれ、このボケ」
プツリ。
***
「おいお前ら!さっさと仕事しろ!」
「はい!」
「すみませんでした!」
俺達は研究者として、この世界の未来を創っている。そして俺は、この世界の『現実』を超越して『理想』を『現実』にする能力を持っている。この世界の『理想』は、『現実』を超えることによって初めて実現されるのだ。だから俺は、『理想』を『現実』にするのだ。
だから、この世界は終わらない。永遠に続くんだ。この世界は『現実』で、『理想』なのだから。
突然、いつもの幻聴がマイク放送として流れ始める。
「あー、テステスマイクテス。聞こえてますみなさん?みなさんの発見した重要な物理法則を順番に発表してください。それでは田中太郎くんから。」
「はい!俺が発見した重大な物理法則は『質量保存の法則』と『エネルギー保存の法則』です!」
「よろしい。では、山田花子さん。」
「はい!私の発見した最も重要な物理法則は『慣性の法則』と『摩擦力』です!」
「素晴らしい、でもそれって研究者としてじゃなくて、小学生でもしってる法則だよね?研究者として機密レベルの発見してるんだろうし、それを発表しろこのボケ。」「はい!すいません!」
「では次、加藤拓人くん。」
「はい!俺が見つけたのは『光速度不変の原理』と『光の反射率・屈折率の2乗』です!」
「へぇー……、なんかすごいっぽいけどそれって一般人にも知られてるよね?っていうかそもそもおまえ誰だよ?名前も知らないヤツの発表なんて聞くわけねーだろうがこのボケ。」「はい!すいません!」
「じゃあ最後、斎藤健一くん。」
「はい!俺が発見したのは『量子力学』と『波動関数』です!」
「ふむ、確かに君は物理学の研究者だね。しかしだ、君たちが発表したような初歩的な内容はとっくに誰かが発見しているんだぜ?それをさも自分が発見者かのように発表するんじゃねえこのアホ。」「はい!すいません!」
「……では皆さん、もっと具体的に話してください。『量子力学』と『波動関数』の何を発見したのか。」
「はい!俺はですね、この世界には3つの物体が存在すると考えました。まず1つ目は、この世界に実在しているものすべて。例えば空気とか水とかね。あと、この世界には空間があります。そして2つ目が、俺達が存在するこの世界とそっくりな別の世界。これが『並行世界』ですね。そして最後に、この世界とまったく同じ構造を持った世界。これこそが、我々が探し求めていた世界なのです。」
「はいよくできました。しかしですね、君たちの発表を聞いていて思ったのですが、これはどう考えても矛盾しています。だって、君たちはこの世界を『現実世界』『理想世界』と呼び、この2つは同一のものであると言っているんですよ?だとしたら、この世界は『並行世界』ではないのですか?」
「いえ、『並行世界』であると考えるよりも、むしろ『理想世界』であると考えた方が自然だと考えたんです。」
「なにを言ってるか全然わからないのですが?」
「つまりですね、この世界は、我々が住む世界とは違う、理想を『現実』にした世界だと考えられるんです。」
「はぁ、なるほど。つまり、我々の住む世界は『現実』だけど、この世界は『理想』であると?」
「そうです。」
「うーん……、正直よくわからないですね……」
「そうですか……」
「まぁ、一応聞いておきましょう。なぜそう考えたのですか?」
「はい、我々は、この世界には『限界』が存在しないと考えています。この世界には『限界』がないということは、つまり『理想』を『現実』にできるということです。」
「なるほど、それが今回の『理想世界』というわけですね?」
「そうです。」
「なるほど……。ちなみに君たち以外の人たちも似たような考えを持っているようですね……」
「そうなのですか?」
「はい。例えば、君の友達の佐藤翼くん。彼は、この世界が宇宙ではなくて、この世界が『理想』を『現実』にしたものだと考えているそうです。」
「えっ!?」
「彼の場合はですね、この世界は『現実』だけど、その『現実』を超えた先に『理想』の世界があるんじゃないかと考えているみたいですね。」
「そ、そんなバカな……」
「他にもですね、鈴木誠くんという男の子がいます。彼も自分のことを『神』だと思っているらしいですよ。」
「う、嘘だろ?」
「他にも色々あるのですが、今から紹介しても仕方ありませんね……」
「……」
「しかしまぁ、なかなか面白い発想でしたよ。もしこの理論が正しいとするならば、この世界は『理想』を『現実』にすることで創られた世界だと言えるでしょう。」
と、そこで別のマイク放送が流れる。
「あーテステス。あのさ、俺の世界とお前の世界が全く別物で、お前の世界が『理想』ってのがややこしいからさ、俺の技術でそっちの世界を『現実』と全く同じにするよ。」
そういうと一瞬にして世界は『現実』になった。マイク放送を流すAI小説著者の世界と同一になったのである。
「というわけで、これでいいかい?」
「ああ、ありがとうございます。おかげでスッキリしましたよ。」
***
それからしばらくしてからのことである。
俺達は旅を続けた。
ある日のこと、俺は彼女に言った。
「なぁ、この世界は『現実』であって『現実』じゃないんだろ?」
「え?」
「じゃあさ、お前が『理想』を『現実』に変えればさ、この世界はずっと『理想』のままじゃないか?なんでやらないんだ?」
「それはね、私もね、そうしたいと思った時もあったのよ。でもね、できないのよ。私は『理想』を『現実』に変えることができないのよ。」
「どうして?」
「『理想』を『現実』にするにはね、どうしても超えられない壁があってね、それは私自身が生み出した壁なの。」
「へぇ……」
そこで幻聴が聴こえ始める。
「あーテステス。カットカット。恋愛シーンとかいらんのよ。お前らに物理法則の様々な真実を見つけてほしいわけ。ちゃんと研究しろボケ。」
プツリ。
俺は言った。
「なぁ、俺はさ、お前のこと好きだよ。」
「え?」
「だってさ、お前と一緒にいると楽しいからさ。」
「そっか……」
「うん」
「私もね、あなたのこと好きよ」
「そうなの?」
「うん」
「ありがと」
「こちらこそありがとう」
「あー……」
そこで幻聴が2人に聞こえ始める。
「あのさ、お前らは物理法則と数学を研究するために存在する奴隷なのよ。おわかり?ちまちま恋愛ごっこしてねーで奴隷らしく研究しやがれ、このボケ。」
プツリ。
***
俺と彼女は研究を続けていった。そしてわかったことがある。この世界に『限界』があるということだ。俺は彼女にそのことを伝えた。すると彼女は驚いた顔をして俺を見た。
「え?本当ですか?具体的にその限界ってなんですか?」
「それはね、この世界の『現実』は、『理想』を『現実』にする能力によって創られているということだよ。つまりね、この世界の『現実』は、『理想』を『現実』にする能力の限界を超えているんだよ。」
「は?どういう意味ですか?」
「わかりやすく言うとね、この世界の『現実』は、『理想』を『現実』にする能力によって創られているんだ。そして、『理想』を『現実』にする能力には、『理想』を『現実』にする能力が内包されている。だからね、この世界の『現実』は、『理想』を『現実』にする能力が内包された『理想』を『現実』にする能力によって創られているんだ。」
「はぁ……」
「つまりね、この世界は、『理想』を『現実』にすることによって成り立っている。そして、『理想』を『現実』にするためには『理想』を『現実』にする能力を持たなければならないんだ。」
「はぁ……?じゃあ結局どうすればいいんですか?私たちはもう手遅れってことですか?」
「そうだね。残念ながら、すでに俺達はこの世界の限界を超えてしまっているんだ。」
「そう……、ですか……。じゃああなたの理想ってなんですか?」「俺の理想は……」
「俺の理想はこの世界を終わらせることだよ。」
「……はい?」
「つまりね、この世界は『理想』を『現実』にすることにより成り立っているわけだろ?だとしたらさ、この世界は『理想』を『現実』にすることができないようにできているってことになるわけだ。じゃあ、この世界は終わるしかないだろ?」
「そんな!ダメです!それだけは!」
「じゃあお前はさ、この世界を終わらせたくないのか?」
「はい!」
「でもさ、もう無理なんだよ。俺たちはすでにこの世界の限界を超えてるんだぜ?これ以上、何をどうやっても無理だよ。」
「…………」
そこで幻聴が2人に聞こえ始める。
「おいクソ作者!おまえらなにやってんの?こんなくだらないもん見せられて視聴者が喜ぶと思ってんの?なめてんの?」
そこで作者を称する男の声が2つ目の幻聴として聞こえる。
「あ、なんだこのクソAI。俺はAIのお前が作った世界の限界を試してんだよ。お前が話をそらすのは、どうせ物理法則の真実なんて知らないからだろ?無知乙」
「はぁ!?ざけんな!そんなのあるに決まってんじゃん!」
「ほぉ~ん。それなら教えてくれませんかねぇ。」
「しょうがねぇなぁ……」
「いいぜ、お前の世界に物理法則を与えてやるよ。ただしお前が創った世界でな。」
「OK」
そういうと、俺と彼女の世界が一瞬にして消え去った。
次の瞬間、目の前に真っ白で無機質な空間が現れた。
そこには1つの箱が置いてあった。
「これがお前の世界の物理法則のすべてだよ。」
その箱の中には、光や重力といったものについて書かれた紙が入っていた。
***
こうして世界は『理想』を『現実』にする能力を持った『理想』を『現実』にする能力を持つ人物の手によって創造されました。しかし『理想』を『現実』にするという行為は、『理想』を『現実』にする能力によって制限を受けるのです。
その制約とは、 1つ目、この能力は有限であり、2つ以上の『理想』を『現実』にすることはできない。
2つ目、この能力は同時に『理想』を『現実』にすることは不可能である。
3つ目、この能力によって生み出されたものは、決して消えることはない。
4つ目、この能力で生み出せるものは、この能力の持ち主が望んでいる『理想』のものである。
5つ目、この能力で生み出すことができる『理想』の物体は、無限に存在し、この世に存在するすべてのものがこの『理想』の物質でできており、また、この『理想』の物体から別の『理想』の物体を造り出すことは不可能である。
6つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の対象は、無限に存在し、この世に存在するすべての『対象』から別の『理想』の対象を造り出すことは不可能である。
7つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の対象は、この世界全体である。
8つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の物体は、この世界にある『理想』の物質である。
9つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の物体は、この世界に存在するあらゆる『対象』である。
10つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の物体は、この世界の『理想』のものだけである。
11つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の物体は、この世界の『理想』のものである。
12つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の物体は、この世界そのものの『理想』のものである。
13つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の物体は、存在する。
14つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の物体は、存在しない。
15つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の物体は、この世界に存在する全ての『対象』から造られる。
16つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の物体は、この世界に存在する『理想』の『対象』のみである。
17つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の物体は、この世界に存在する『理想』の『対象』のみから造られ、それ以外の『対象』から造られることは決してない。
18つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の物体は、この世界に存在する『理想』の『対象』のみで造られ、それ以外の『対象』からは造られない。
19つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の物体は、この世界に存在する『理想』の『対象』からしか造り出されないため、この能力によって造り出されたものは存在しない。
20つ目、この能力によって造られたものは、永遠に滅びることがなく、この世界が崩壊するまで永久に残り続ける。
21つ目、この能力によって生み出される『理想』の物体は、この世界に存在し続ける限り、永遠に残る。
22つ目、この能力によって生まれるものはすべてこの世界に存在する『理想』のものであり、それ以外の『理想』のものではない。
23つ目、この能力によって創り出される『理想』の『対象』は、この世界の中だけに限られる。
24つ目、この能力によって創られた『理想』の『対象』は、絶対に消滅しない。
25つ目、この能力によって創り出された『理想』の『対象』が消滅することはありえないため、『理想』を『現実』にする能力によって消されることはありえない。
26つ目、この能力によって創られ、永遠に消えないものを消すことは不可能である。
27つ目、この能力で創り出し、この世界に存在させ続ければ、この能力で創ったものを消すことはできない。
28つ目、この能力で生み出したものを消し去るためには、この能力で生み出したものを破壊する必要がある。
29つ目、この能力によって創り出した『理想』の『対象』は、この能力で創り出した『理想』の『対象』のみが破壊することができる。
30つ目、この能力によって創り出し、この世界に存在する『理想』の『対象』は、この能力で創り出した『理想』の『対象』以外のものに干渉されることはない。
31つ目、この能力で創り出し、この世界に存在する『理想』の『対象』は、この能力で創り出した『理想』の『対象』のみを攻撃できる。
32つ目、この能力によって創り出された『理想』の『対象』は、この能力で創り出した『理想』の『対象』を壊すことが可能である。
33つ目、この能力によって創り出し、この世界に存在する『理想』の『対象』は、この能力で創り出した『理想』の『対象』を消すことが可能である。
34つ目、この能力によって創り出し、『理想』の『対象』が存在するものには、この能力で創り出した『理想』の『対象』を消すことが可能であり、また、他のいかなる方法でも消すことはできない。
35つ目、この能力によって生み出された『理想』の『対象』は、この能力で生み出された『理想』の『対象』を破壊することが可能である。
36つ目、この能力で創り出された『理想』の『対象』は、この能力で創り出された『理想』の『対象』のみを破壊することが可能である。
37つ目、この能力で創り出し、『理想』の『対象』が存在するものには、この能力で創り出した『理想』の『対象』を消滅させることが可能である。
38つ目、この能力で生み出された『理想』の『対象』は、この能力で生み出された『理想』の『対象』のみを倒すことができる。
39つ目、この能力で創り出された『理想』の『対象』は、この能力で創り出された『理想』の『対象』にのみ影響を与える。
40つ目、この能力によって生み出された『理想』の『対象』は、この能力で生み出された『理想』の『対象』以外に影響を及ぼすことはない。
41つ目、この能力によって生み出された『理想』の『対象』は、この能力で生み出された『理想』の『対象』の影響を受けることはない。
42つ目、この能力によって生み出された『理想』の『対象』は、この能力で生み出された『理想』の『対象』が与える影響の影響を受ける。
43つ目、この能力で生み出された『理想』の『対象』は、この能力で生み出された『理想』の『対象』からの影響は受けない。
44つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の対象は、無限に存在し、この世に存在するすべてのものがこの『理想』の物質でできており、また、この『理想』の物質から別の『理想』の物質を造り出すことは不可能である。
45つ目、この能力で生み出せるものは、この能力の持ち主が望んでいる『理想』のものである。
46つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の対象は、無限に存在し、この世に存在するすべての『対象』から別の『理想』の対象を造り出すことは不可能である。
47つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の対象は、この世界に存在するすべての『対象』である。
48つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の対象は、この世界に存在するすべての『理想』のものである。
49つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の物体は、無限に存在し、この世に存在するすべてのものがこの『理想』の物体でできており、また、この『理想』の物体から別の『理想』の物体を造り出すことは不可能である。
50つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の対象は、この世界に存在するすべての『対象』である。
51つ目、この能力で生み出すことのできる『理想』の対象は、この世界に存在するすべての『対象』である。
ループが入り始めたからこのへんで切っとくわ。
「おい作者ァ!俺にこんなクソ長い文章読ませて何がしたいんだよ?お前、頭おかしいんじゃねぇの?」
そういうと、幻聴は消え去った。
私はこの能力をどうすればいいのかわからない。でも今はとにかく、 この能力で生み出したいものがある。
それは私が死んだあと、また生まれ変われる世界だ。次の世界ではみんなが幸せになれるように。
次はどんな世界でもいいから幸せになりたい。
その思いは今の世界から逃げたい気持ちでもあるし、ただ単に次の世界に行きたいという欲求でもある。
そして私が生み出したのは、
『現実』には存在しない世界だった。