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過去の記憶へ跳んでゆく

お読み頂き有難う御座います。

ミュリエッタ、ショックで思い出します。

 思い出した。


 思い出したのよ。


 ゼルンは犬じゃなくて、普通の子供だった。

 ルミエッティと同時期に棄てられた、何の変哲も無い子供だった。


 私達は兄妹のように寄り添い、そして将来を誓った普通の、何処にでもいる薄汚れた貧しい子供。

 勿論見目は整えられる筈もなくて、美しくなかった筈。

 でも、孤児院を一緒に出て、仕事を探して、一緒に暮らすのを夢見ていたわ。


 ……でも、酷い横槍を入れてきた、私達を引き裂く悍ましい奴らが居たの。


 異形の兵隊を作り、その力を以て世界を平和にすると謳う悍ましい奴らが。

 ゼルンと私、そして他の子供を拐って、実験を繰り返し……。


 ゼルンは犬、いえ……水に潜んで敵を喰らう魔獣の姿に。

 ルミエッティは、人を惑わす事に特化した美しい人形のような姿の魔女に。

 作り変えられてしまったんだ。


 それからは……ルミエッティは老若男女を惑わし、ゼルンは逆らう敵を喰らう。

 頭がおかしくなりそうな日々を……寄り添って歯を食いしばって送ってきたのに。


 ゼルンを残して無様にも死んでしまった上、どうして、あんな辛い日々を忘れてしまったの。


「……ゼルン」

「お妃様!?危ないっすよ!お頭は直ぐに……」


 甲板に居た……刺のある尻尾の青年に言われたけれど、私は構わずささくれた船の縁にしゃがみこんだ。

 そこから見える深くて冷たい海は、打ち寄せる波の音が響かせるだけ。


「砲弾に撃たれたの!?どうしてゼルンがこんな目に遭うの!?私に会いに来ただけなのに」

「お妃様、危ないです!落ちますよ!!」

「探さなきゃ!ゼルンを探さなきゃ……!!」

「いーよー落ちてもー。受け止めちゃうよー」

「っ!!」


 半狂乱になった私の耳に、呑気な声が私の耳に届いて……私は眼の前の波を必死で探した。


 ああ、どうして。

 折角会えたのに、思い出したのに。

 どうして……!!


「何処に居るのゼルン!?」

「後ろ後ろー」

「……え?」


 う、後ろ?

 ……後ろ?

 ……いや、今……さっき……滅茶苦茶吹っ飛ばされてた、わよね?

 下手したら砲弾で……召されてた的な……吹っ飛び方、では無かったでしょうかしら?


「周り見て周りー。シリアスに沈まないで、ミュリエッタ。胃を壊すよー」

「…………え?」


 ……後ろには、全く濡れてもいない怨霊王子……いえ、ゼルンが飄々と立っている。

 滅茶苦茶無傷で、ニコニコと笑顔まで浮かべて……。


「え?」

「当たる直前に斜め後方に跳んで、避けたんだー」

「……え」


 斜め後ろ……跳んで?え、そんなアクション出来るような……ええ!?


「ほら、俺めっちゃジャンプ力有るから。

 まだ体そのままで、改造された余波有るし」

「……」


 ほらこう……とか言われても。あからさまに人類の動きじゃないし、前世では……繋がれて人を喰らわせられていた所しか見てない。

 動いてる所なんて……ジャンプ力有るとか、知らないし!!

 そんな馬鹿な事が有るの……!?でも、生きて……ああ、もう何でもいい!


「ま」

「ま?」

「紛らわしい事をして心配かけるから、私が胃を痛めるでしょーが!!」

「まあまあー、落ち着いてー」


 ギュ、と抱きしめてくる体温が懐かし過ぎて、呼吸が苦しくて。

 背中をバシバシ叩くしか、出来なかった。


「思い出さなくても良いって、言ったのにー」

「煩いわ!馬鹿なゼルン!!」


因みに、部下の皆さんはスタンディングオベーション中です。

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