思い出さなくていいとは言われたけど
お読み頂き有難う御座います。
乗組員も色々いますね。
結局戦いは、怨霊王子……いえ、ダンナサマの勝利に終わったらしいわ。
……勝利の勢いに湧く周りを見れば、腕が足が首が鱗有ったり、尻尾があったり。
人外多いのね。もはや突っ込む気力もなくなってきたな。勝利の余韻で笑顔だからそこまで怖くないし。
「ミュリエッタを得たら虚弱になるとでも思ったのかなー?頭弱々だよねー」
「お、お偉い方の事は分からないです……」
……居づらい。おんりょ……ダンナサマのお傍は滅茶苦茶居づらいわ。
生まれも育ちも無学無芸な田舎娘、前世は高飛車マナー皆無失礼千万女なものだから……。
下手を打ってあの海の藻屑に……という恐怖がね。下手に出るしかないというか。肩と背中に力を入れっぱなしと言うか。
海風に靡く、黒髪が……前世の旦那と被らない。浮気相手達とも。
そもそも、前世の旦那はどんな人だったのかしら。
何故、裏切ったのかしら。
理由がなくて面白いから裏切った……とは考えたくないわね。
前世は私の基盤になっているのかしら。
「ミュリエッタ、何処に行きたいー?」
このひとの眼差しは、ふわふわと包み込むように柔らかくて、熱い。
何故、私を愛すのかしら。
「何処にでも連れて行くよー。出たことなかったでしょー」
「村から出たことは……」
有る、筈なのに。
それなのに。
冷たい綺麗な石で囲まれ、薄い布で彩られた豪華な部屋が脳裏に浮かぶ。
こんな部屋、知らないのに。
何故か、思い出したくなくて震えが出てくる。
「閉じ込められてたもんねー。ずーっと見てたよー」
「み、見てた?ど、何処で……」
「好きでもない奴等に振り回されてたねー。辛かったよねー」
「わ、私は辛くなんて……」
え、そうよ。
申し訳なくは思ったけど、辛くなんて。
辛くなんて、無くて。
本当に?
何で、違う人として生まれたのに申し訳なく思わなくてはならないのかしら。
そもそも、申し訳なく思わなくてはいけない程、思い出しても居ないのに。
「記憶に苛まれるんでしょー。辛かったよねー」
「私は……」
「君はミュリエッタ。可愛いミュリエッタ。何にも思い出さなくていいんだ。思い出さなくても、君は可愛いし、愛しいんだよ」
「だけど」
貴方に申し訳なくて。
仇を取らなきゃ。
私の可哀想な……。可哀想な貴方を。
その為なら……血反吐を吐いてでも働くし、この身を捧げることだって厭わない。
何をしてでも。
貴方を取り戻さなきゃ。
「ひっ!?」
「どーしたのー?」
「い、今……変な声が……」
何で……何でこんな声が。
あの高飛車なルミエッティの声なのに、全然違う。こんな声が出せたの?て位に……悲愴な声。
「あー、勝ってハシャいでるからねー。奇声も多いよねー。船室戻ろっかー」
も、もしかして前世の恨みつらみがこの辺に漂ってるのかしら。
「い、嫌……」
「怖いのー?大丈夫だよ、ミュリエッタ。
君の怖いモノはなーんでも滅ぼしてあげるー」
「何でも……」
「そう、何でも。だってミュリエッタは悪くないよねー?一生懸命、善良に生きてきたもんねー」
「そ、そうですけど」
「なら、君に襲いかかるのは逆恨みの悪い奴だー」
「悪い……ヤツ……」
ゼルンが生きていた時は、彼が追い払ってくれたのに。
どうして彼が居なくなるの。
どうして……。
……え、ゼルンって……犬よね?
そんなに愛犬家だったの?私……前世の私は。
思い出せない。
眼の前が、海水に浸かった時のようにモヤモヤして……。
眼の前の彼が、見えなくなりそうです。
「お頭!危ない!!」
「え」
船の縁が、急に爆発して……ドボン……と。
派手な水飛沫を上げて、落ちていったの。
「いっ、嫌ぁああ!!ゼルン!!」
どうして。
また、私のゼルンが、奪われるの!?
思い出したのに。
折角、思い出したのに!!
私の本当に愛する旦那様は、ゼルンだったと。
彼を救い出す為に悪女をしていたと。
いえ、ゼルン以外は愛せない、本当に心から悪女だったと。
思い出してしまったのに。
どうして、どうして……!!
謎船を撃てた人が居るみたいですね。