矛盾だらけの言葉
お読み頂き有難う御座います。
前世の中で動物虐待が出てきますのでご注意ください。
ほのかな甘みをたたえた温かい食事と、柔らかく太陽の香りがする清潔な衣服。
豪華な船室で、貰った綺麗なお湯で体を拭って……あ、手伝いは頑なに拒んだわ。
と、兎に角。イケメンの気遣いに溢れる、優しい対応。
ええ、前世ならまだしも今は何でもセルフだもの。何なら人のお世話や手助けをする立場のド庶民だもの。
地味に心に染みたわよ。
思えば、心も体も冷え切っているしね。
……外でドカバキ鳴ってなければ、滅茶苦茶いい待遇なのでは?
絆されちゃっても……。
……イケメンが正体不明で怨霊王子とか呼ばれてなければ……。
隙あらば首から下を触ってこようとするし!!
しかもこの状況を拵えたのが、あの人。
諸悪の根源!
わーあ!楽観的になれなーい!!
「着替えたー?」
「は、はーいー!」
入られかねない!!い、急いで釦を止めなきゃ!!
王宮で用意された服がアホ程留め金がややこしくて、脱ぐのにモタついてしまったわ!!
慌てて出たら……ああ、やっぱり炊事系統じゃない煙が何故か海で漂っている……。
「……所で、ミュリエッタ」
「はいい?」
「可愛いね」
「はいっ!?」
かわっ、かわ!?ななな、何を……!?
きゅ、急に何を言い出すの!?
い、今の顔は地味顔なのに……。体だって、イマイチで、手入れもしてなくて。
「君が寂しい顔をしてなくて良かった」
「寂しい……」
「変な記憶が有ったりすると、生きるのに邪魔だよねー」
……ぜ、前世を覚えてるのバレてる……。
いえ、バレてるとは思ってたけど、ズバリと言うのね。
「な、何のことかしら」
「左頬を軽くつねって、右を見る。狼狽えた時の君の癖だね」
「そ、そんな癖が……」
し、知らなかったわ。はっ、今顎に手をやってる!!滅茶苦茶無意識だった!!
「前世のことに引っ張られなくていいよ、ミュリエッタ」
ふわり、と潮の香りが強く香る。
「何も思い出さなくていい。君は、偶々俺に見初められただけの、哀れで可愛いミュリエッタ」
「み、みそ……め?」
会った覚えもなく、特徴……いえ、目の色だけで特定しといて!?
何故か、怒りが湧いてきた。恐ろしさよりも、怒りが。
「理由なんていいんだ。君が君なら、愛さずにはいられない」
「そんな……」
私の事を全く知らないのに。
前世の私を愛したから、今此処に呼び寄せた癖に。勝手に目の裏が、縁が熱くなっていく。泣きたくなんて無いのに。
駄目だわ、此処で取り乱しちゃいけない。
瓦礫はまだ、海に沈んでいるし爆音も鳴り止まない。
堪えるのよ。
愛なんて、あの子が……ゼルンを失ってから消えたじゃない。
狂気を信じる者共に、私の半身を奪われて、海に沈められた……あの悍ましい日から。
「ミュリエッタ、ミュリエッタ」
「っ、あ……」
眼の前には、優しい青い目。
……私、何を……。
手がカタカタ震えてるわ。
手……手!?
はっ、引っ叩いたりしてないわよね!?
やっぱり腹立つから今から足をくくって海の藻屑ルートね!!とか、そういう失礼してないわよね!?
「ミュリエッタ、可愛い愛しいミュリエッタ。まあ、楽にしてよ」
「楽に……」
肩と頬に置かれた手が、温かい。
……この頃、こんな風に優しく触られた事が、有ったかしら。
謎船、強いですね。