押しかけ旦那様、だそうよ
お読み頂き有難う御座います。
ミュリエッタが水中で前世と過去に思いを馳せます。
そもそも、誰が怨霊王子に成り果てたのか、それすらも分からないのよね。本当にね。
「お妃様ー、背中に乗ってねー」
「いや、遠慮……いああああ!?」
意識があああ!!何故かしっかりしてて嫌あああ!!
私、ミュリエッタ。前世悪女の、今は善良な村娘!謎の魔物っ子に背中に乗せられて、水の上?偶に中を引きずられていまーす!
誰なの!?この子を寄越したのは本当に誰!?
私の朧気な前世記憶によると……引っ掻けた王族関係者は……何と、夫込みで4人!!だった気がする!
そんな特殊能力持ち、居た!?
そこから思い出せない!!
……ええと、ええと!!確か、新聞によると、怨霊王子の髪の色はあのモクモクと暗雲立ち込めてる空のような色らしいかな!?
つ、つまり黒髪なのよね?
ちゃんとリサーチして欲しいわ。
でも、記憶に残る彼らの髪は……銀に亜麻色に栗色に赤毛!
誰!!誰なの!?せめて誰か分かれば、謝り方の対策も立てられるのに!!性格とか最早あやふやだけど!多分!!
わーーー!!前世私って、本当に、クズ!!掛け値無しのクズ!!
あっ、崖の上に私を置き去りにして散り散りににげた……護送してきた人達が見える……!!
でも、どうして私を拐うように連れてきて去った人達が逃げてるの!!悔しい!!でもどうなってるの私の視力!!
「あっ、お妃様。スピード速い?ゴメンねー。生身なの忘れてたー」
「モガッ」
ああ、目の前に灯が見えるわ。私、溺れ死ぬのね。
……ご迷惑を前世でお掛けした方々に、お詫びしたい。
すみません、お祈りする気力が満ちている今、今!
やっぱ死にたくないです。ご冥福をお祈りさせてください!!
土壇場で意地汚くも、命は惜しいんです。本当に申し訳御座いませんでした。
が!!
前世は前世とご勘弁頂ける寛容なお慈悲と優しい世界をください!!
ルミエッティ・ドゥアクドーイ。
それが私の前世の名前。
前半の人生は最悪で、後半は更に最悪だったわ。
容赦なく日差しが照り付ける夏の日、きゅんきゅん鳴く仔犬と一緒に修道院の前に棄てられていたらしい。
雑種の仔犬の名前はゼルン。
一緒に育ってきた彼が息絶えてから、ルミエッティは変わった。
姿形は比類なく……でも、今の私のような地味な容姿の人を鼻で嗤いまくり、悪口雑言を投げつけて喜ぶような性格の悪い女と成り果てた。
実際、数多くの罪の無い女性を馬鹿にしてせせら笑っていた記憶があるの。この時点で申し訳なさ過ぎて、お墓をお詫び行脚したいわ。
そして、殿方に対しては更に酷かったの。
寄ってくるものを……気楽に弄んでポイポイポーイ。
成人前の少年からお髪の白い壮年の殿方迄、お構い無しによ。
そう、ストライクゾーンが広くてヤバかったの。
今そこに知り合いの男性が居たなら、高速で引っ張って逃げるヤバ系の女なのよ。
何故か持て囃された不自然な金属光沢を持つ金髪と、鉱物のような光を放つ黄金の瞳。
出るところ出て引っ込んだ……不自然な体型と……まるで出来の良い人形だった、と思うよ。
だから……未だに金髪が苦手。黄色の瞳の人と目を合わすのもビクビクするわ。
前世で美しさを誇る為に、鏡をよく見ていたせいか、鏡を見るだけで、自動的に黒歴史が疼くのよね。
今、何もしてないのにね。
何でこんなに罪悪感を抱かなきゃならないのって、何度も思ったのよ。
懺悔したいひとはもう死んでしまった。だから、死んで詫びる事も不可能だけれど。そもそも別人だけれど。
でも、やるせないこの思い!一生独身でいよう。
お金を貯めて早めにヒッソリと世間を捨て、海辺とかで隠居して暮らすの!ご迷惑をお掛けした前世の皆さんにお祈りしつつ!
だから私は幼い頃からガムシャラに働いたわ。
幼い頃から草むしりのバイトに、ご近所の子守り。
困っていることが無いか村の皆に聞きまくり、お使いでも何でも……危険なこと以外は引き受けたわー。
兎に角、暗闇までの時間、私は毎日クタクタになるまで働いたわー。
お陰でまあまあ私は大人から評判が良かった。子供達からは鼻ツマミ者だったから、嫌われた嫌われた。
そりゃそうね。
暴れもせず遊びもせず、自ら大人の用事を聞いて働く子供なんて気味悪い。オマケに親からは私と比べられて怒られる。異色よね。
嫌われて当然だもの。
「オマエんち、ヤバー!」
「つまんねーの!オトナにコビコビでキモーい!」
「きたなーい!!」
「くぉら!ミュリーちゃんを苛めるんじゃねー!!」
腹立つのは腹立つけど!!
拳骨喰らってザマアミロ!!と思わなくもなかったけれど!!
ああ、面倒な事も有った。大人が庇うもんだから、余計子供が嫌がらせするんだよね。
幸いながら両親……ティヴォー村の村長である父母は、取り憑かれたように働く娘を心配しつつも喜んでくれたの。
私が村長になると期待していたようだから。
ご期待に添えないし、未来永劫、村長にはならないけど。
すみません、お宅の娘は滅茶苦茶失踪予定です。でも、なるべく事故を装いひっそり消えますから……と思っていたのに。
所がどっこい。
今、私は水の中を引きずられていまーす。
怖い人に捧げる生贄娘、ミュリエッタが爆誕してしまーす!
ヤダー!!
「ご苦労」
「えへー!ボク、お役に立っちゃったあ!」
ザバァって水の滴る音が……。こんな早くに、着いてしまったの!?あの雷雲の下に!?
「お帰り、ミュリエッタ。ながーく、待ってたよ」
少し低めの声のトーンでは、誰だか分からない……。誰なのか全く記憶が仕事してくれない……。
しかも名前がバレてらあ!何てこったあ!!
「君の押しかけ旦那様だよ、ミュリエッタ」
「っひええあ……」
「あ、意識ある」
意識あるのもバレてしまったあああ!!
無理矢理連れてきたけど、押しかけ旦那様(自称)だそうです。