色々、あぁーらごめん遊ばせ!じゃないわ
お読み頂き有難う御座います。本日2作投稿しております。順番をお間違えなきようお願い申し上げます。
村娘は、名前を言いたくないと足掻くミュリエッタです。
当たり前ですが、雷の際は水辺にはお近付きにならないようお願い致します。
前世は悪女でも、今の私は単なる田舎娘!
それなのに生贄を命じられた哀れな境遇!!本当に!!
「お頭はねー、お妃様のお帰りを首をながーくしてお待ちだよ!」
「え、何処よ。
……何故か雷と暴風雨が常駐してる海域の城の中?
それとも……あの噂の幽霊船、いえ、ちょっと威圧感を放つあの黒いお船の上に居るの?」
彼女?爽やかな笑顔がとっても眩しい……。ヒレや尻尾のトゲはよく刺さりそうにツヤツヤ光って……怖いわー。余計に寒くなってきちゃった。
ああ、心から寒いのを除けば……髪を浚う海風は爽やかで、頭上の空はこんなに青いのに、どうしてあの黒いお船の上に黒雲がピンポイントに厚くたなびいているの。
遠くなのに、バリンバリンドカンドカン!と此処まで音が伝わって……今まさにサンダーストームが起こりそうなのは、どうして!?
誰か教えて、気象に詳しい人!!
きっとあの船の上に立ったら……骨まで焦げる雷に撃たれて死ぬフラグがバリバリ!!未来予知出来なくても予測可能!!
「あ、安心して!
焦って『愛し麗しの小毒蜂ルミエッティ号』って名付けちゃったけど、今代のお妃様のお名前に改名するよ!」
「いやいやいや」
違う、違うんだ。船の名前変更を申し出たい訳じゃないのよ。
何一つ安心出来る話が出てこないわ。どうしたらいいの!?
「小悪魔ってのもイマイチだもんね!」
そうじゃないし、悪魔は貴方の方っぽいですよね!と言えない。こっちの前世の方もかなり小悪魔所じゃなくやばくて、突っ込みも不可で八方塞がり過ぎるのよ。
でも敢えて心の中だけなら……小毒蜂って……!!毒蜂って!と憤るわよ!
愛しくて麗しいと思ってる女に付ける渾名じゃない!!地味に語呂が無駄に良くてイラっとする!
水際で雷も怖いしいいい!!感電の危機いいい!!
ええ、きっともしかして絶対!私の前世の所業にお怒りなんですよ。だって、海が空が雷でキラキラでバリバリしているもの。
誰かの不安なのかな?
分かるー!私も記憶が甦って1日吐き気と頭痛の眩暈で、チカチカがオンパレードだったしー!
失神も出来ない、過呼吸にすらならない丈夫な我が身が!この無駄に頑丈な田舎ボディが憎くて辛い!!
「だから、お名前を教えて!お妃様!!」
「お、お妃様じゃない……。
ふ、は、恥ずかしいから、ヒミツ……」
意外と温かい手を取られてしまった。あ、案外可愛い……。
いかんいかんセーフセーフ。口滑らせてない!
「名前ぐらいいーじゃん、恥ずかしがり屋さんなんだー」
「ふ、はふはふふ……」
名前を取られたら魂取られるとかいうじゃない?
そんな古くさい迷信に縋りたいメンタルに陥った私は、ミュリエッタ・ティヴォー。
田舎のド庶民に本来家名はないんだけど、便宜上村の名前を家名に付け加えさせられたの。
村では村長んちのミュリー呼びだもんね。
家名を態々付けられたのは、お城から来た私を捕らえに来た人(名前は必要ないし怖いから忘れた)曰く、箔付けの為らしいわ。
そんな、どうでもいい理由……!!本当に、要るう!?
名前まで前世に似てしまった……でも、今は単なる生け贄となった、単なるシケた田舎のモブ面娘!なのに!
他に意識を飛ばしたい位、足はガックガク。
着慣れない衣装が湿気って冷たいし。
今着てるこれは……若干湿ってるのは生け贄用ドレスとでもいうのかしら。白っぽい、山の中の暗がりで見たら、幽霊が着てそうなドレスよ。
腰が貧相だからとスカートにパニエを多めに入れられてきて良かったような悪かったような。ガクガクした足の震えが伝わらないかな?でも、きっと顔は青褪めてるから滅茶苦茶無理かあ!
私が何でこんな目に!?
確かに前世では『あぁーら色々ごめんあ・そ・ば・せ?(前世の口癖)』じゃ済まない事を致しましたとも!
関係者の皆様にお詫びしたいとも思いました!
ですけれど、皆様とっくに故人!!故人の筈!
だって何てったって203年前!
常人なら、ご存命な訳がない!のに!
ヒッソリと悔やみ、独り身で弔いの日々を送ろうと思ったのに!!海草とか貝とか拾って、侘しい暮らしで、皆様のご冥福をお祈りしようと!!思っていたのに!!
ああ、常人ではなかったヤツが現れてしまったのね!?
この国ではド田舎の民には、急な事情を除き、家名は与えられないようです。