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前世悪女は怨霊王子から逃亡したい  作者: 宇和マチカ


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10/12

長らく思い出せなかった私に、貴方は甘くて優しい

お読み頂き有難う御座います。

拍手の中イチャイチャしてます。

「思い出しちゃったのー?別に思い出さなくても良かったのにー」

「何を言ってるのよ!!あんな、辛い目に遭ったのに、貴方を、ゼルンを置いて……」

「はいはいー、深呼吸ー。ミュリエッタ、別人だからねー」


 うっ、頬っぺたを滅茶苦茶捏ねられた!!……指先は人なのに、水かきが有ったり、犬のような毛が有ったり……。

 不思議な手だわ。そんな手に撫でられるのは……う、嬉しいかも。

 この喜びは……。

 ジワジワと……記憶と一緒に染み出してきたようだわ。


「細かいことを思い出すと、苦しくって胃が痛むよー。神経質さん、ミュリエッター」

「だって……」

「前への詫びとかどうでもいいじゃんー。

 ほら、綺麗な夕焼けが!

 今此処で!

 ゼルンとミュリエッタは出逢って!

 めでたく恋に堕ちましたー」


 ……後ろで響く拍手が滅茶苦茶気になるけど……。

 確かに、とっても綺麗。

 海の上の夕焼けって……全てが太陽の色に染まるのね。

 ゼルンの黒髪に、日差しが透けて茶色に見えるわ。

 全てを呑み込むような光が、柔らかくて、美しい。


 前世ではきっと、見れなかったわね。

 ……爆音すぎやしないかしら、拍手。海の上だというのに……


「前は、海の上に出たことなんて無かったのね」

「無いねー。前は前だしねー」

「あの、そろそろ拍手が恥ずかしく……」

「お前らー、業務開始ー」


 ……指揮者みたいに手を振って拍手を止めてしまったわ。若干リアクションが大袈裟だけど、大勢部下さんが居るから見易いのかしら。


「ねえ、ゼルン?」

「どーしたのミュリエッタ。どっか行きたいところ出来た」

「……行きたいところは……行ったことの無い素敵なところに行ってみたいわ」

「んー?どういう路線ー?」

「……路線?」


 ろ、路線?何の話なのよ。


「キレイ系?カワイイ系?オカルト?マニアック?

 素朴とか……ヤバカワとかガンナエもあるよね」

「け、景色の話よね?……ふ、普通に……き、綺麗な景色がいいわあ」


 ヤバカワな景色って何なのよ。ガンナエって?雄大に広がる景色とかに使う表現じゃないでしょうが。


「そっかー、其処の感性は一般テイストなんだねー。ミュリエッタの事、もっと知りたいなー」

「い、一般的で……御免なさい。つまらない女で。ぎゃっ!?」


 きゅ、急に滅茶苦茶顔寄せられた!!睫毛が目に入るかと思うような距離に!!


「つまんない女はミュリエッタじゃない。ミュリエッタ以外がつまんない女だからね」

「……え」

「謙虚なのはかわいーねー。でも、つまんなくないし自分を痛めつけちゃ駄目だよー」


 そっと、私のお腹……いえ、胃の上を丁寧に、優しく撫でられた。

 ……あったかい。大事に、大事に撫でられてる……。


 でも……そ、其処は緊張で胃が張ってて、鳴りそうなんで触って欲しく無い部位なんだけどなぁ。

 他もまあ、胸もスカスカだし、他の胴体部分にも誇れる所無くてちょっと……。


「またマイナスな事考えてるー?」

「だ、だって、その……」


 ゼルンは……人外な部分も多いみたいだけど、格好いいし。それなのに私は……劣化の一途を辿ったちんちくりん。

 マイナスな気分にもなってしまうのよ。


「ミュリエッタの事教えてー。君と恋をする為にやってきたんだからねー」


 ちゅ、と耳に唇がキスの音を鳴らした。


 ……あ、甘い。

 あまりにも、甘い。

 そして、思い出したとはいえ私の受け入れも……甘くて。

 全て、色々溢れ出しそう。


「余計な事は思い出さなくていいよー。これからだもんねー」


 こんなに遅く思い出したのに、つれない態度を取ったのにゼルンはやっぱり優しい。



後、1、2話で終わりですね。

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