長らく思い出せなかった私に、貴方は甘くて優しい
お読み頂き有難う御座います。
拍手の中イチャイチャしてます。
「思い出しちゃったのー?別に思い出さなくても良かったのにー」
「何を言ってるのよ!!あんな、辛い目に遭ったのに、貴方を、ゼルンを置いて……」
「はいはいー、深呼吸ー。ミュリエッタ、別人だからねー」
うっ、頬っぺたを滅茶苦茶捏ねられた!!……指先は人なのに、水かきが有ったり、犬のような毛が有ったり……。
不思議な手だわ。そんな手に撫でられるのは……う、嬉しいかも。
この喜びは……。
ジワジワと……記憶と一緒に染み出してきたようだわ。
「細かいことを思い出すと、苦しくって胃が痛むよー。神経質さん、ミュリエッター」
「だって……」
「前への詫びとかどうでもいいじゃんー。
ほら、綺麗な夕焼けが!
今此処で!
ゼルンとミュリエッタは出逢って!
めでたく恋に堕ちましたー」
……後ろで響く拍手が滅茶苦茶気になるけど……。
確かに、とっても綺麗。
海の上の夕焼けって……全てが太陽の色に染まるのね。
ゼルンの黒髪に、日差しが透けて茶色に見えるわ。
全てを呑み込むような光が、柔らかくて、美しい。
前世ではきっと、見れなかったわね。
……爆音すぎやしないかしら、拍手。海の上だというのに……
「前は、海の上に出たことなんて無かったのね」
「無いねー。前は前だしねー」
「あの、そろそろ拍手が恥ずかしく……」
「お前らー、業務開始ー」
……指揮者みたいに手を振って拍手を止めてしまったわ。若干リアクションが大袈裟だけど、大勢部下さんが居るから見易いのかしら。
「ねえ、ゼルン?」
「どーしたのミュリエッタ。どっか行きたいところ出来た」
「……行きたいところは……行ったことの無い素敵なところに行ってみたいわ」
「んー?どういう路線ー?」
「……路線?」
ろ、路線?何の話なのよ。
「キレイ系?カワイイ系?オカルト?マニアック?
素朴とか……ヤバカワとかガンナエもあるよね」
「け、景色の話よね?……ふ、普通に……き、綺麗な景色がいいわあ」
ヤバカワな景色って何なのよ。ガンナエって?雄大に広がる景色とかに使う表現じゃないでしょうが。
「そっかー、其処の感性は一般テイストなんだねー。ミュリエッタの事、もっと知りたいなー」
「い、一般的で……御免なさい。つまらない女で。ぎゃっ!?」
きゅ、急に滅茶苦茶顔寄せられた!!睫毛が目に入るかと思うような距離に!!
「つまんない女はミュリエッタじゃない。ミュリエッタ以外がつまんない女だからね」
「……え」
「謙虚なのはかわいーねー。でも、つまんなくないし自分を痛めつけちゃ駄目だよー」
そっと、私のお腹……いえ、胃の上を丁寧に、優しく撫でられた。
……あったかい。大事に、大事に撫でられてる……。
でも……そ、其処は緊張で胃が張ってて、鳴りそうなんで触って欲しく無い部位なんだけどなぁ。
他もまあ、胸もスカスカだし、他の胴体部分にも誇れる所無くてちょっと……。
「またマイナスな事考えてるー?」
「だ、だって、その……」
ゼルンは……人外な部分も多いみたいだけど、格好いいし。それなのに私は……劣化の一途を辿ったちんちくりん。
マイナスな気分にもなってしまうのよ。
「ミュリエッタの事教えてー。君と恋をする為にやってきたんだからねー」
ちゅ、と耳に唇がキスの音を鳴らした。
……あ、甘い。
あまりにも、甘い。
そして、思い出したとはいえ私の受け入れも……甘くて。
全て、色々溢れ出しそう。
「余計な事は思い出さなくていいよー。これからだもんねー」
こんなに遅く思い出したのに、つれない態度を取ったのにゼルンはやっぱり優しい。
後、1、2話で終わりですね。




