知らない海からのお迎え
この度は、数ある素敵な作品群から拙作をお読み頂き、誠に有難う御座います。
前世の恋人か彼氏か旦那に追いかけられる前世悪女(今は村娘)のお話で御座います。
私には前世の記憶があるの。
痛々しいと跳ね退けたいところだが、有るの……。
夢ならどんなに良かったかしら。
朝日……いえ土砂降りでも大雪でも嵐でも良いわ。
兎に角、現実でないなら何でも良いのよ。
「嫌な夢見ちゃった!
うふふふっ、てへっ、グフフッ!ゲハゲハッ!」
……おっといけないわ、慣れない笑い方で咳き込んでしまった。
まあ取り敢えず、似合いもしないのに、可愛らしい風に目覚めたいの。私だって未だうら若くて可愛らしく振る舞ってもいいお年頃だもの。
……だけど、現実は非情ね。海風って何故こんなに冷たいのかしら。
「マジ?お妃様だー。可愛くて偉い方は違うね!」
やめてください。本当に止めてくださいませ!!
「ねえ、その呼び方はやめない?
私、既婚者じゃないのよ。そもそもそんな偉い立場でもないし可愛くないの」
「でもお妃様はお妃様だよね!ボク、ちゃーんと聞いてきたよ!」
目の前の可愛らしい子は、ちょっとハスキーボイスのボクっ子……いえ、それよりも下半身がね。
問題の下半身がね。尾ビレがあるのよ、この子。
そう、この子には……魚の下半身があるの。波止場に居る私とは違って、海の中に浸かっていて、動かす度塩水が掛かるぅ!
んもう、ヤダぁ冷たーいじゃなぁい!と言う気力も無いわ。
上半身は……と言うか顔は、黒い真珠を飾った灰色の髪で、大きな黒い瞳の美少女。可愛らしいヒラヒラしたドレス?をお召しなのに……。
水の中で揺らぐのは……結構エグい角度の黒くて鋭いヒレや尖った鱗が覆う、和まない系お魚の下半身……。
人魚って、もっと可憐で戦闘能力の無いか弱い感じでは?
見た感じ……尻尾やらヒレやらの鋭さは、生身の人間が振り下ろされたら推定漏れなく死ぬ感じ?触ったら刺さるぞ!的な?
……こっ、怖いよーーー!!
「動物にも魚人にも優しいし、お妃様は最高!やっぱお頭の趣味は最高だよね!」
「いや本当、全くそんな事は無いので、ご勘弁してやってください……。人違いですよ……そうしておいてよ……」
私には前世があるの。
結婚前から五股掛けて挙げ句旦那を裏切った……史上最低最悪の屑の悪女の記憶があるの……!!
ルミエッティ・ドゥアクドーイという、王国を揺るがす史上最強の怨霊王子を造り上げたという悪女の生まれ変わりとか……、本当に勘弁してください!!今は何もしてないんです!!
性根の叩き直し方はよく分からないけど、こんな危険な外見の子がお迎えに来るような、酷い目に遭いたくなーーい!!
前世の人格が本人にとっては細かいことを気にしてないので、記憶がボンヤリしてるパターンで御座いますすね。