8 聖剣視点
不思議なものだ。
そう、つくづく感じる。
魔王を倒すために生まれ、そしてその使命を当時の所有者である勇者と共に果たして、1000年。
そう、1000年が経過した。
まさか、1000年後に新しい持ち主と共に、魔族領に再び訪れることになろうとは。
「ひんっ♡ひぁっ♡」
ゲシゲシ!!
……そんな、感慨や感傷に浸らせてほしかった。
なんで、1000年後に私、魔族を痛めつけてその気持ちよさそうな声聞いてるんだろ。
……キツい。
こう、なんて言うのかな、精神的にキッつい。
私を鞘に収めたまま、まぁ、なんだ。
痛くされること自体に性的興奮を覚える、こう、うん、なんていうのかな?
特殊な感覚や趣味を持つ魔族を喜ばせるために振るわれるなんて、思ってなかったなぁ。
「もっと、もっとぉぉおおおお♡♡♡♡♡」
聖剣で、倒さない程度に魔族を気持ちよく痛めつける。
字面としても相当アレだ。
なんで、1000年後の世界でこんなことやってるんだろ、私。
因みに、いま痛めつけて性的なエクスタシーを感じてるのは、魔王軍四天王の一人、その部下であるホブゴブリンの男性だ。
「よし、次!!」
四天王であり、SMプレイという特殊性癖を持つ魔族――サキュバス。
妖艶な肢体をゾクゾクさせつつも、交代の合図をとる。
すると、次に痛めつけられる魔族が出てきた。
今度は、アンデッド種族の女性ゾンビである。
聖剣で切りつければ消滅することもある、魔族である。
「切っ先、切っ先だけでいいんで、ここに〇〇〇〇てぇ♡」
さすがにこれには、今の持ち主もドン引きしているかと思えば、そうでもなかった。
一週間もこんな訓練なのかなんなのかわからないことに付き合っていれば、さすがに慣れてくるのだろう。
淡々とゾンビの言葉を無視して、ゲシゲシと私を叩きつける。
良かった、ほんとに良かった。
言われた通りの場所に私を突き刺したりしなくて、ほんっとおおおに良かったァァあああ!!
「はぅあっ♡逝っちゃうーーーー!!逝っちゃうのぅうううう♡♡♡!!」
字があってるのがちょっと嫌だ。
切りつけてはいないものの、私でどつき回すだけでもそこそこ浄化の効果があったりする。
つまり、ゾンビが言っている【逝く】とはそのままの意味で、天国に召されることを意味している。
性的なエクスタシーを感じてることも否定出来ないけれど。
……なんで私、こんな所にいるんだろ。
現代は平和で、概ね1000年前のような戦争は起こっていない。
そして、人間である今の私の持ち主は、色々あって魔王軍にアルバイトとして身を寄せていた。
なにかしら、有名な腕試し大会が魔族領であるらしく、その大会の目玉イベントとして、今の持ち主は聖剣所有者、現代の勇者として参加するらしい。
それはいい。
別にいい。
納得いかないのは、その特訓でなぜ私が魔族の変態性癖を満たしているのかということで、って!!
ちょ、なにこのマッチョ!!
え、なんで私とゾンビ交互に見てるの?!!怖いんだけど!!
どこからともなく現れた、そのマッチョな魔族は、興奮しすぎてくったりしているゾンビを見て、それから私を見て、私の持ち主にこう言った。
「ちゃんと消毒するから、ちょって使ってもいいかい?」
使うってどこによ?!
何に使う気なの??!!
私と同じことを、今の持ち主も思ったらしく、訊ねた。
「消毒って、ナニに使う気ですか??」
「……前にスライムいれたところに柄を入れてみたい」
いやア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!??(生命の危機を感じた時に出るだろう悲鳴)
「冗談でも笑えないですよ」
「剣の柄でヤッタことないから、純粋に興味があって」
いやア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛?!?!
いやア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!
「衛生的にも、倫理的にも大問題だと思うので、嫌です」
持ち主ぃいいいいいいい(歓喜)
私は持ち主に感謝した。
見ればマッチョはしょぼんとしていた。