4 聖剣視点
サブタイトルにもありますが、聖剣視点のお話です。
暇だ。
ここに、こうして突き刺さってどれくらいの時間が経ったのだろう。
たぶん、1000年くらいかな。
めっちゃ長い間暇してるし。
かつては、魔王を倒すための武器として生まれ、前の持ち主の手にあった頃は、聖剣だなんだと持て囃された事もあったが。
それも今は昔の話である。
魔王を倒して世界が平和になると、私はお役御免となった。
しばらくは、前の持ち主の家のリビングなんかに飾られていたりしたんだが、子供が生まれるとそうもいかなくなった。
生まれた子供が、赤ん坊だった頃はまだ良かった。
飾ってあった私に手が届くようになった頃、前の持ち主の嫁さんがとうとうブチ切れて、家に置くなと雷を落としたのである。
魔王を倒した勇者より強いのは、その嫁であったのだ。
泣く泣く、前の持ち主である勇者は私をここに突き刺した。
こんな薄暗く、ジメジメした、ゲジゲジとかナメクジの巣窟に、置き去りにしたのである。
不法投棄する気はなかったのだろう。
その証拠に、誰にも盗まれないようにご丁寧に封印までしていったのである。
しかし、彼が私を迎えにくることはなかった。
持って帰ったりしようものなら、奥さんに殺されるからだ。
とかく、嫁という生き物は母ちゃんに進化した時にその強さが顕現するらしい。
うん、私の事邪魔くさく扱ってた割に、夫婦喧嘩の時に嫁さん私のこと持ち出してたもんな。
鞘は、さすがに抜かせなかったけど。
鞘から抜かなくても、剣ってそのままでも人をどつき回せるから。
それも今は昔の話だ。
朽ちることも出来ず、私はあとどのくらいの時間を退屈して過ごさねばならないのか。
勇者とその嫁さんはとっくに天に召されてるだろうし。
なんてことを考えていたある日。
それは唐突にやってきた。
この洞窟に、ヒトがやってきたのである。
それは、魔族だった。
どうやら、私が勇者とともにその首を刎ねた魔王の子孫だと思われた。
封印が解かれたのか、それとも解いたのかわからないが。
とにかく、その魔族は興味深そうに私を観察し、帰っていった。
抜かんのかーい!!??
せめて抜こう!?
魔族だから抜けないのはわかってるけど、せめて抜く努力して、お願い!!
などという、私の願いは届かない。
また、何年か経過した。
その日、今度は人間がやってきた。
どうやら雨に降られたらしい。
灯りを魔法で生み出して、私のところまできたその人間はずぶ濡れだった。
そして、なにやらぶつくさ呟いている。
え、何この子、怖いんだけど?!
かと思ったら、私を見た。
そして、何をするのかと思いきや私のことを蹴り出した。
やヴェ、やめてー!!
折れちゃう、私折れちゃうからぁぁあ!!
そういうのは、その辺の土壁でやってぇぇえええ!!!!(切実)
その願いが届いたのか、そうじゃないのかはわからない。
けれど、その人間の子は蹴って斜めった私を掴んで、引っこ抜いた。
かと思いきや、今度は洞窟の壁を殴り始めた。
そして、よほど虫の居所が悪いのか憎悪をそのまま口に出していた。
「ぬぁわにが、お前は役立たずだから出ていけだーー!!!!
誰が備品諸々の管理と、飯炊き係してたとおもってんだー!!!
俺知ってんだからな!
テメェらが〇〇〇〇で〇〇なのとか。
挙句の果てに、〇〇〇〇〇ってこともな!!!!
あー、ムシャクシャする!!」
人様には聞かせられない言葉を連発している。
なんだ、この子。
しかし、ふむ、私、引っこ抜かれた!!
ビバ、自由!!
ヒャッハー!!!
私は自由だー!!!!
せっかく、自由にしてくれたんだ。
この子にしばらく付き合ってもいいか。
そう考えて、この子が落ち着くのを見計らって、私は鞘から抜かせてみた。
どうやら、その子も私のことを気に入ったようだった。
察するに、どうやらこの子は仲間に役立たずだからと追放されたらしい。
しかも、ほとんどの武器や防具も取り上げられてしまったようだった。
……その時に、さっきみたいにブチ切れて暴れたら良かったんじゃなかろうかとおもったが。
たぶん、出来ない理由があったんだろう。
なにはともあれ、だ。
私はそのクズな元仲間たちのお陰で、こうして自由になれたのだった。
その翌日のことだった。
私は初めて男性の股間の感触を知ることになった。
何を言っているのかわからないだろうから、ちゃんと説明する。
翌朝のことだ。
まだ虫の居所が悪かった新しい持ち主は、私を鞘付きでブンブン振り回したのだ。
そして、勢い余って手からすっぽ抜けて仕舞ったのである。
そして、男性の股間に大打撃を与えてしまったのだった。
その男性というのが、何年か前に私を見つけたあの魔族だった。
まさか、自由になって早々にモンスターじゃなく、魔族の成人男性の股間を、不可抗力とはいえ退治することになろうとは、人生、いや、剣生とは分からないものだ。
つくづく、そう実感したのだった。