三人
すみません。投稿したと思ってたら確認押すの忘れてました。
「はぁ……はぁ……ここまで来れば問題なかどか?」
「…………」
なんとか祭の屋台が並んでる場所まで辿りついたばってん、梓は声を掛けても答えてくれんごつなった。
あらたば飲み込んでしまったあの靄ば見て、梓は叫ぶことなく涙を流しとった。
悔しそうな表情で静かに泣きながらも走ってついてくる梓に、正直かける言葉が見つからん。
……きっとあたしば怒っとるだろうなぁ……。
梓ば間違っとるとは言わん。梓がしとらんかったら、あたしがやってたと思うもん。でも、梓があんなに取り乱しとったけんあたしは冷静でおれた。
あのままじゃ、ほぼ間違いなくあらただけじゃなくて、かおちゃんと梓まで失っとった。
ばってん、そもそもあたしが恐怖で動けなくなっとらんかったら……もし襲われた時にあたしがあらたの位置関係に気付いて瞬時に動けていたら……違う未来があったとかもしれん。
……悔いたところであらたが帰ってこんことくらいわかっとる。
でも……それでも……あらたを守ってあげられんかったのが悔しい!!
「逸香、早く先に行くぞ」
前の方から冷酷とも思えるくらいの冷たく低い声がかけられた。
いつの間にかあたしの足は止まっとったようで、あたしが前を向けば、梓とその一歩後ろを歩いとったかおちゃんが、本殿へ向かう石階段に足ばかけとった。
梓の背中は物憂げな様子を隠そうともしとらんかった。なのに、梓は前を歩こうとしとる。
それがあたしはたまらなく嫌で、歯を強く噛みしめて、彼の背中に声をかけた。
「なんであたしば責めんと!!」
あたしが叫ぶと、梓とかおちゃんは足を止めた。でも、振り向いてくれたのはかおちゃんだけだった。
「あたしがしくじったけんあの靄は来たとやろ!! あたしがあらたのおる位置が危険だってわかっとったらあらたは死なんで済んだとじゃなかとね!! そもそもあたしが祭で余計なことばせんかったら皆はーー」
「うるさい!!!」
梓の怒鳴り声であたしは開いとった口を閉ざした。
「お前のせいなんかじゃない。俺が立てた策が中途半端だったからすぐに反撃されたんだ! そもそも俺が無駄に攻撃をもらってなければあらた君も香織も俺を心配して近づくなんて真似はしなかった。あの状況にはならなかった!! だから全部俺が悪いんだよ!! 守ると約束しておきながら結果的に俺は逸香とあらた君に守られてる。だから俺はこうして生きている!!」
こっちに振り向いた梓の目からは大粒の涙が頬を伝っとった。
「悔しいさ!! 守れる命だったんだ!! でも、俺の弱さが彼を死なせてしまった!! 本当は今すぐにでも戻ってあの代行者とか名乗ってきた靄をズタズタに引き裂いてやりたい。でも、今ここで立ち止まってたらお前達まで失ってしまう!! あの子の優しさを無下にしてしまう。それだけは絶対にやっちゃだめなんだ!! 後悔も、懺悔も、反省も、終わったら全部やる。だから今は前を向け!! 逸香!!!」
そん言葉を聞いた瞬間、心の奥底からあらゆる感情が込み上がってきた。
梓のことを一瞬でも非情に思った自分が情けなく思えた。梓もあたしと同じようにあらたの死に責任を感じてる。
でも、あらたの意志を尊重して、前を向こうとしてる。
そうだ。まだなにも終わっとらん。
時間が限られている中で、残されたあたし達がせにゃんこつは一つ。
死んでしまった人達の為にも、一刻でも早く、この事件ば終わらせなん。
簡単じゃない。でも、不可能じゃない。
梓があたし達を失いたくないと言ってくれたように、あたしだって二人を失いたくない。
ここで嘆いたところであらたも師匠も喜ばっさん。
あたしは腕で乱暴に涙を拭ってから、先を行く梓達の後を追って、本殿のある場所に向かった。
※ ※ ※
本殿へと続く石階段は、一定間隔で設置されている灯籠に照らされ、その歪で不等性な造りも相まって、不気味な雰囲気を醸し出していた。
夜空を照らしていた星々も、どんよりとした雲に隠れ、俺の気持ちを物語っているようにも見えた。
これより先に進めば、もう引き返すことはかなわない。
もし、靄人間が未だに上に居た場合、戦闘を余儀なくされる。だが、残り時間が一時間と数分しか無いこの状況での戦闘は、あまり良いとは言えない。
そのうえ、代行者と名乗ったあの縦横無尽に飛び回る靄が襲ってきた場合、今度こそ終わりかもしれない。
……俺が弱気じゃ駄目だな……二人に悟られないようにしないと……。
石階段をのぼりきると、そこは六時前に見た時とまったく変わらない社が俺達を出迎えてくれた。
しかし、本殿の敷地内に敷き詰められた砂利の上には、村人が着ていたであろう夏物の衣服が、そこかしこに脱ぎ捨てられていた。
いや、脱ぎ捨てられたは正確ではないだろう。
そこかしこにある服は、その全てがたたまれておらず、また、着ていた者だけがいなくなったかのように、重なっている。
一人や二人ではない。よく見れば争った痕跡も見受けられる。
その光景が、ここで何があったのかを、雄弁に語りかけてくる。
俺は息を飲む程度で済んだが、後ろを歩いている二人を一瞥すれば、真っ青な表情で落ちている服を見ているのが伺えた。
「それで? ここで鎮魂の舞ってやつをすれば、この事件が解決するかもしれないんだろ?」
「そうだとは思うんだけど……」
香織の答えは歯切れが悪く、まだなにかあるのかと容易に想像できた。
「舞の間が不安ってんなら俺と逸香で守るから心配しなくてもいいぞ?」
「そこは俺が命をかけてでも絶対に守り抜くって言った方が良かと思うばい?」
「んなこと言ってる場合じゃないだろ。時間も無いんだし、何が不安材料になってるか教えてくれ」
内心、俺は焦っていたんだと思う。だから、時間の無いこの状況でなかなか舞おうとしない香織を急かしてしまったんだと思う。
そのせいか、香織は突然大粒の涙を目から流し始めた。
「無理なの。私じゃ……私一人じゃ舞えないの……」
鉄火市の今日の熊本弁講座〜!!
このコーナーは、鉄火市があとがきになに書くかな〜って迷った結果、本作の舞台となっている熊本の方言を簡単に解説していこうと思い設けられた誰得コーナーである。
第24回の方言は「ばっ」について。
この方言は、うわって感じで驚いた時とかによく用いられる方言です。
ばっ、そんなこと言って本当はゲームして過ごすとかじゃなかろうね? ……的な感じで使います。
ばっ、焦げとる……という感じで、驚きを強調する時に使うと、より効果的です。
ばっ、ちゃんと解説しとる……
それではまた次回!! お会いしましょう!!