最後の抵抗
※タイトルと最後を少し変えました。
タイトルを変えた理由は、元々次回の冒頭がこの話の最後になる予定だったのを、急遽変えたことで、反省というタイトルと合わなくなっていたからです。
まぁ、投稿した後も、そんなこと気にして無かったんですが、急遽変えることにしました。
最後に関しては、投稿する前から違和感を感じていたからです。
「どこにも無いじゃなかね!!!」
大きい物をあらかたどかし、少し雑だが全体的に探したというのに、刀と思しき物はどこにも見当たらなかった。
ここにあるというから探したのに、無いならどこか別の場所にあるということだ。
「……でもいったい何処に……」
右手を口元に当てて、思い当たる場所を考えようとした時だった。
ガシャン!!
窓になにかが叩きつけられたような大きな音が室内に響き渡った。
「まさか……私が刀を見つけられなかったからピンチなんじゃ……」
このままここで刀を探したところで見つからない可能性の方が圧倒的に高い。
だからといって他に私に出来ること……いや、これがあるじゃないか!!
私はついでに見つけていた救急箱を手に取り、玄関の方に向かうことにした。
物置を出て、廊下を抜け、大広間に入った時だった。
突然何かが落ちる音がして、私は反射的にそちらを見た。
そこは襖の開け放たれた大きな和室だった。
すぐ目に入るところには仏壇があり、座布団等もこの部屋にある。
急いだ方が良いとわかっているはずなのに、私はなにかに導かれるかのように、その部屋に入った。
中に入ると異変はすぐに見つかった。
壁にかけてあった遺族の写真立ての一つが畳の上に落ちていた。
それを手に取って見ると、それはいっちゃんのお父さんの写真立てだった。
「さっきのあれで落ちたのかな?」
首を傾げてそんなことを思ったが、すぐにそれどころでは無いと思い出し、写真立てを適当に置いて、すぐに二人の元に行こうとした。
すると、視界の端に映ったそれが私の目を引いた。
「……あれ? これって……」
それは桐箱だった。
うちにある包丁を入れていた箱とそっくりだが、大きさはこちらが圧倒的に大きい。
もしかしてと思い蓋を開けてみると、中には一本の刀が入っていた。
「こんなところに置いとっとやったらちゃんと言わんね!!!」
喜びよりも先に怒りが来た。
だが、すぐにそれどころではないと自分を落ち着かせる。
文句は全てが終わった後に言おう。まずはこれを梓君に持っていくのが先決だ。
私は急いで中に入っていた刀を抱いて、梓君の所に向かった。
※ ※ ※
玄関の扉から出てきた香織の腕に抱かれていたのは白鞘の刀だった。
それを見て俺は叫んだ。
「投げろ!!」
多くを喋れる状態ではなく、また、悠長にしていられる状態でもなかった。
香織もそれを瞬時に察してくれたのか、手に持った刀を俺の方に向かって投げた。
刀は大きな弧をえがき、少しずれた所に落ちようとしていた。だが、運動神経が元から良くなかった香織に正確な投げなど元より求めていない。
こんな状態の俺でもなんとか届く範囲に放ってくれただけでありがたいというものだ。
白鞘の刀を受け取り、瞬時に引き抜き刀身を確認した。
「良い刀だ……」
ずっと眺めていたくなるような綺麗な刀だった。
だが、そんな時間は残念ながら無い。
俺は刀身を鞘に戻した。
「ありがとう、香織……これでようやく戦える」
俺は刀の鞘を左腰に当て、左手は白鞘を持ったまま腰の辺りに固定した。そして、大きく息を吐き出した。
おかしいな……さっきまで体のあちこちが痛かったのに、今はどちらかというとすこぶる調子が良い。とはいえ、攻撃を当てるなら、この一太刀が最初で最後のチャンスだ。
矢車さんの意識が完全に逸香へと向いているこのタイミングを逃せば、次いつチャンスが訪れるかわからない。
神経を尖らせろ!
相手の一挙手一投足を見逃すな!!
この一太刀で、全てを決めろ!!!
俺は右手を刀の持ち手に当てたまま、地を蹴り、矢車さんとの距離を詰めた。
そして、素早く刀を引き抜き、そのまま相手を斬りさいた。
※ ※ ※
正直、刀がいいと我が儘ば言うこん男ば見て、実際は実力の無い人間の言い訳なんじゃないかと思っとった。
でも、実際は全然違った。
剣先すら見ることの出来ない抜刀術、それを目の当たりにした瞬間、あたしは自分の目ば疑った。
本当に彼はさっきまでの男と同一人物なのか?
目つき、表情、そして、その身に纏うオーラのどれもが、さっきまでの梓とは格段に違った。
さっきまであたし達の脅威として立ちはだかった師匠は、梓が斬るまでの短い時間、ずっとその場に立って動かなかった。
一瞬、またさっきみたいに霧散しないんじゃないかって思ったけど、それは杞憂に終わった。
あたしの師匠は、梓の居合で、最後は靄となって霧散した。
脅威的な敵がいなくなって喜ばしいはずなのに、あたしん目からは涙が止まらなかった。
仕方が無か。
梓は何も悪くなか。
わかっとるはずなのに、どうしても涙は止まらんかった。
※ ※ ※
「……終わった……のか?」
肩で呼吸をしながら辺りを確認するが、既に靄人間の姿は一人も見当たらない。
どうやら逸香が一人で倒し……成仏させてまわったみたいだ。
それにしても、最後のあれは……いや、これは成仏すると言っている逸香には酷な話になるかもしれない。逸香には黙っておこう。
「梓君、大丈夫!?」
悲鳴に近い声が俺の耳に届いた。
声のした方に振り向くと、そこにはこちらに心配そうな表情で駆け寄ってくる香織の姿があった。
「大丈ーー」
大丈夫と言おうとした瞬間、思い出したかのように全身が悲鳴を上げ、よろめいてしまった。
体を支える為に足を出そうとしたが、体は俺の言うことを一切聞いてくれず、そのまま地面に倒れ伏すのを覚悟した時だった。
突然逸香が間に割って入ってきて、俺の体を正面から支えてくれた。
「そんな体で無茶しすぎたい」
彼女の疲労の入り混じった声が、俺を嗜める。
それにしても香織にこんな情けない姿を見せるってのは、結構精神的にくるな。
「それにしても凄かね。あんな状態で師匠に勝つなんて……正直、見直したとよ」
逸香からの賛辞は、その言葉とは裏腹に、沈んだ声だった。だが、俺はそれを素直に受け取れなかった。
「……俺は凄くないよ。あの人が超人的だっただけだ……」
その言葉の真意がわからなかったのか、香織と逸香は首を傾げていた。
刹那の一瞬、刀を矢車さんに振るう直前、俺の眼前に彼の手が迫ってきた。
刀を止めて一旦立て直すか、それとも相打ち覚悟でこのまま振り切るか、俺は後者を選んだ。
よく考えてのことじゃなかった。
すぐ近くでうずくまる逸香を慮ってのことではなく、単に、ここで倒さなきゃ次は無いと思ったからだ。
それ程までに、俺と彼の実力差は圧倒的だった。
決死の覚悟で刀を振るうべく、力を込める。
だが、突然俺の前にあった手が引かれた。
俺の中に驚きの感情が広がるものの、俺は刀を最後まで振り抜いた。
矢車さんは避けるでもなく、防ぐでもなく、ただ無防備な体勢で俺の渾身の一撃を受けた。
その姿はまるで、己の最期を受け入れたかのように見えた。
あそこで手を引かれなければ、俺はこんな風に再び話すことは出来なかっただろう。
だから、あれは俺の勝利なんかじゃない。
「……生かされた以上、約束、守らないとな……」
夜空に浮かぶ星々を眺めながらそう呟き、逸香と香織と共に、家の中へと戻った。
鉄火市の今日の熊本弁講座〜!!
このコーナーは、鉄火市があとがきになに書くかな〜って迷った結果、本作の舞台となっている熊本の方言を簡単に解説していこうと思い設けられた誰得コーナーである。
第17回の方言は「ぬしゃ」について。
この方言は、お前という意味で使われます。
目上の人が目下の相手に使うことが多く、主に男性が使うそうです。
ちなみに先日解説した方言と合わせて「ぬしゃ、うちころすぞ」と使うと、相当怖いです。
それではまた次回!! お会いしましょう!!