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今度は物語を情報化してみよう。
キャラクターを情報化するよりもちょっとだけ難しくて手間がかかるよ。
なぜかというと、一本の物語っていうのは小さなお話や大きなお話が複雑に絡み合ったものだからなんだ。
まず、このことを理解しないと物語は分解できないんだ。
もう一度アップルパイの話に戻ろう。
アップルパイを作るには、『アップルフィリングのレシピ』と『パイ皮のレシピ』が必要になるよね?
アップルフィリングを作るのに何の材料がどれだけ必要で、それをどんな手順で調理するのかというレシピと、皮を作るには何の材料が必要で、どんは風にこねるのかというレシピが別々に用意されている。
そして最後にその二つを合わせてオープンで焼くためのレシピがあって初めて、アップルパイは完成する。
物語もおんなじで、複数のレシピが組み合わさって、最後に一つの物語が完成するものなのさ。
ところが僕ら作者は、自分の頭の中に思い浮かんだ物語のページを、完成した本と同じようにめくることができるよね。
つまりさ、パラパラパラとページをめくって好きなシーンだけ読むのと同じでさ、主人公がカッコよく決め台詞をいうシーンとか、読者が「ワハハ」って笑ってくれる面白いギャグなんかを、好きなタイミングで好きなように脳内再生できてしまうんだ。
でもこれって、レシピブックをパラパラめくって『リンゴは1センチ角に切る』ってところだけ見たのと同じ状態だよね。
つまり全体のレシピに対して、レシピの一部分の、さらに一部分。
だけど作者は完成品ーー物語でいうと『あらすじ』を知ってしまっている。
だから、エピソードに言い訳をつけて『あらすじ』と近い形にしようと頑張ってしまうんだ。
ものすごく効率が悪いよね。
だって「リンゴは1センチ角に切って……きっとパイ皮で包むんだろう、とりあえず置いておこう」って冷蔵庫に入れておいたら、最後の最後に砂糖で煮ることを知って、慌てて冷蔵庫から出してくるのと一緒だからね。
下手したら冷蔵庫に入れっぱなしのまま忘れてパイを焼き上げてしまうかもしれない。
それを防ぐために物語をレシピ化したもの、それがプロットなんだ。
ここで大事なことを思い出してみよう。
「アップルパイが完成品の形になるのは、オーブンから出した瞬間だ」
レシピっていうのは完成品とは全然別の見た目をしているのが普通なんだ。
特にこの段階では皮は皮の、中身は中身のレシピを別々に作るんだから、君の中にある物語の完成図とは違うものに見えるかもしれない。
だけどそれはごく当たり前のことなんだ。
粉をこねてつくったペタペタした生っ白いパイ皮は、焼き目がついてさっくりと膨らんだアップルパイとは全然見た目が違うだろう?
それと同じことさ。
実際に物語のレシピを作る作業をしてみよう。
大抵の場合、初手で作者の中にあるのは完成予想図だ。
だからいちどそれぞれのパーツに分ける必要がある。
つまり、アップルパイを作るなら「中身」と「皮」。
この作業はとてもめんどくさいよ。
何故なら中身と皮でできたアップルパイとは違って、物語というのは二つないしそれ以上の要素が複雑に絡み合ってできているものだからね。
その全部を別々の『パーツ』に分けて考えなくちゃならない。
この作業が『情報化』。
だからメモが膨大な量になることもある。
だけど逆に、この段階で、「あれ、私の小説、情報量少なすぎ……?」って気付くこともある。
つまり情報をカード化することによって手持ちのカードが何枚あるのかを把握できるようになるんだ。
ここから先はボクのヨタ話的な理論ではなく、世にあまたある構成方法の出番だ。
構成方法はレシピのテンプレートだって言ったよね?
つまり出来上がった情報をもとにレシピを完成させていく作業さ。
テンプレート通りに組めないなら情報不足。
レシピに使うための情報を増設しよう。
逆にテンプレートからはみ出すくらいに情報が多い場合、何百万文字も書くつもりならそれでもいいけど、どうかな、最初はテンプレート通りに作ってみるのがいいんじゃないかな。
何事も練習だと思えば、最初は型から入るものだからね。
さあ、これでプロットを組むための基礎の基礎、『情報化と最適化』のお話はおしまい。
最後に一つ、これはあくまでも自分が執筆するために手元に置くプロットの話なんだ。
だけど他の人にプロットを見せる時でも、まずはきちんとレシピが決まっていないと、『完成品』の説明はできないだろ?
それに、プロットを勉強するにも、完成品とプロットは同じ形にならないということを肌で知っておいた方が手っ取り早い。
だから、ぜひ一度、このやり方を試してみることをお勧めするよ。
挑戦こそが創作の本質だからね。
さあ、みなさま良き創作ライフを!