表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

文化祭準備

 午前の授業がやっと終わった。ほっとした気分も束の間、クラスで仲の良い友達が私の席に来ようとしている。皆んな、目を楽しげに輝かせて。


 も、もう………! 休憩時間中に、何でもないって何回も説明したのに! 


 私は急いでお弁当を手に持ち席を離れた。教室のドアに向かう。

 背中越しに名前を呼ぶ友達の声が聞こえるけど、止まりませんから!


「ぶ、部室で! 文化祭の準備しなきゃいけないから!」


 少しだけ振り向いて言い訳と同時にドアを開けて廊下に出た。


 早歩き。走りたいけど、がまん。


 ほんと皆んな………、人の気も知らないで。


「しーほー! 待って待って!」


 むっ。


 っと、私の苛立ちがさらに顔をだす。横に並んだ千紗ちさちゃんに視線を向ける。


「うっ! お、怒ってる??」


 そう言って、千紗ちゃんは苦笑い。えぇ、その通りですよ、発信源さん。


「ご、ごめんよ! 志保〜! だ、だってさ! 男子と指切りするなんて、見てるこっちはキュンとくるじゃないですか!」

「なっ………!?」


 ちょっと!? 廊下で何しゃべってるの!?


 私は慌てて千紗ちゃんに顔を向ける。千紗ちゃんは潤んだ瞳で、言い訳を続けた。


「しかも幼馴染で年上の先輩で! もうキュンキュンしちゃうじゃないですか! だからつい話ちゃって! さらにだよ! 相手が、かず、もがもが!?!?」


 私は慌てて千紗ちゃんの口を片手でふさいだ。

 それ以上は言わないの!! すれ違う人に聞かれるでしょ!

 私はじとーっ、と千紗ちゃんの目を見つめる。

 

 反省してるんでしょうね………!


 千紗ちゃんは目をまーるく見開いて、こくこく! と慌てて頷いてくれた。右側に結んである短めのサイドテールも同じように動かしながら。

 

 ほんとかなぁ………。


 疑わしいけど、このままじっとしているのも気まずい。


 千紗ちゃんの口元から片手を離した。代わりに千紗ちゃんの手を握り、廊下をまた進んでいく。


「志保っ! ありがと、許してくれてぇ〜」

「こら! ひっついたら歩きにくいでしょ! あと、目を離したらまた何かしでかすかもだから、捕まえているだけです」

「ええっ〜………、保護者みたいな? お母さん? おばちゃん? それとも、おばあちゃん?」


 ぎゅうー。


「あいたたたっ! 握りすぎ! ごめんごめん!」

「分かったならよろしい」


 2人でしばらく廊下を歩く。互いにお昼のお弁当を持ちながら。

 文化棟の校舎まで来ると、文化祭の準備で忙しく動いている生徒が急に増えた。

 

「いや〜、皆んな働き者ばかりですなぁ」

「私たちもその一員になるんです」

「えぇー、お昼ご飯食べたら、ゆっくりしたい………」

陽菜子ひなこ先輩に怒られるよ」

「うぅ。あっ、でも陽菜ちゃん可愛いから………、怒られたいかも」

「なにそれ………、はぁ」


 私は呆れつつも、陽菜子先輩が待っている手芸部の部室を目指す。

 文化棟の端にある手芸部に近づくにつれ、生徒の数も減っていく。賑やかな廊下だったのが、2人だけ歩く足音に変わっていく。


「………、ねぇ、志保」


 千紗ちゃんの静かな声音が、私の鼓膜を揺さぶる。思わず、立ち止まってしまった。

 千紗ちゃんは、真っ直ぐに私の顔を見ていて。少しの間のあと、そっと小さな口が開いた。


「このままで、良いの?」


 私の鼓動が、大きくなったのが分かった。嫌なくらい、大きく、動揺している。


「今年で卒業しちゃうんだよ、高3の人たちは」

 

 千紗ちゃんの言葉が、胸の奥に重くのしかかる。いや、厳密に言うなら、そこにある含みが、私の心に強く引っかかって。


 一樹かずき先輩が卒業する。


「………、もうすぐ部室に着くね」


 私は千紗ちゃんの手を離した。1人先に、部室の方へ向かう。


「し、志保っ!」


 千紗ちゃんが慌てて私のそばに来た。


「来年は学校でもう会えないんだよ!?」


 知ってる。そんなこと、言われなくても。


「だからさっ!」


 なに?


「志保の気持ちをちゃんとーーー」

「い、良いのっ!! 今のままでっ!!」


 私は大きな声を上げていた。自分でもびっくりするくらい。千紗ちゃんも、目を丸くして戸惑っている。どうしよう………。


 静かな廊下に、2人だけ。


 悪いのは、千紗ちゃん、だよね。また、一樹先輩の話を、蒸し返すから。だから、私も大きな声で言っちゃって………。だから、悪いのは千紗ちゃん。


 ………、ほんとうに? そうなの?


 心の中に、罪悪感がある。


 ほんとうに、悪いのは………、素直な気持ちを押し殺している、千紗ちゃんを心配させている………。


 私自身。


 ガラガラ。


 すぐそばでドアが開く音がした。ハッとして、そっちに目を向けると、


 もぐもぐもぐ。


 文芸部の部長こと、陽菜子先輩が両頬を膨らませながら、お昼ご飯をもぐもぐしていた。


「んむんむ」 

「「えっ?? な、なんです??」」


 私と千紗ちゃんは、陽菜子先輩の口元に耳を傾けるため、少しかがむ。

 

 ごくり。


 と、美味しそうな飲み込む音が響いたあと、


「おそい………、はやく一緒にお昼食べよっ」


 可愛い声で、私たちに告げた。うん、可愛い、陽菜子先輩。


「はい! そうしましょ、ひなちゃん!」


 千紗ちゃんが、陽菜子先輩を持ち上げてそそくさと部室へ。

 

 あっ、どうしよ、さっき怒鳴っちゃたこと。


 私の心配をよそに、千紗ちゃんは、楽しそうな笑みを浮かべていた。それと、


くいくい。


 陽菜子先輩が、私に向けて手招きをしている。………、可愛い。


 私も少し笑ってしまった。………、ありがとうございます、陽菜子先輩。


 私も2人の後に続いて文芸部の部室に入った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ